月見そばの玉子の黄身が割れた状態で提供されたーー。都内のIT企業に勤めるTさん(40代)から、そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
Tさんは外回りに出た際に立ち食いそば屋で昼食をすませることが多いが、あるとき、黄身が割れた状態で月見そばが提供された。Tさんは、割らずにつるんと食べるのが好きだったため、割れていない玉子に交換してもらいたかったが、店内が混雑していたため、あきらめてそのまま食べて店を出たという。
月見そばの黄身を割って食べるか、そのままつるんと食べるか、どちらも好きという人もいるだろう。
飲食店で月見そばを注文した際、生玉子が割れた状態で出てきたら、客は交換を求めることができるのだろうか。それとも、「食べれば一緒」と反論されたら、そのまま受け入れるしかないのだろうか。前島申長弁護士に聞いた。
● 「黄身が割れていない状態での提供が社会通念に合致」
このケースは、契約不適合責任の要件を満たすかどうかを、法律的に整理する必要があります。注文内容は「月見そば」ですから、生玉子の黄身が割れていない状態で提供されるのが通常の社会通念に合致すると考えます。
一方、提供された内容は、「黄身がすでに割れていた月見そば」です。
ここで問題になるのは、
・「黄身が割れている」ことが、契約内容に適合しないかどうか ・修補(玉子の交換)を請求できるか
の2点です。
● 「黄身が割れている」ことが、契約内容に適合しないかどうか
そもそも、本件の立ち食いそば屋さんのような飲食店との契約は、飲食物提供契約であり、一般的には準委任と売買の複合契約に該当します。
「月見そば」というメニュー名からは、通常、黄身が割れていない状態の玉子が乗ったそばが期待されますので、通常の社会通念上、「割れていない黄身」が契約の内容と解釈されます。
したがって、契約不適合(民法562条)に該当する余地があります。
●「代金を返せ」は難しいが、玉子の交換を請求できる可能性あり
一方、民法563条2項は、契約不適合が「軽微な場合」は、解除ができない旨を規定しています。
黄身が割れていても、食べられないわけではありませんので、本件は重大な欠陥とまではいえず、「お金を返してほしい」と求めること、つまり、契約の解除や損害賠償は難しいでしょう。
ただ、民法562条は、買主(客)が追完請求(修補・代替物提供)をできるとしています。 割れているけれど食べられる場合でも、提供内容が通常の期待水準に満たないことを理由に、交換を求めることは合理的です。
店舗側に「玉子を交換してください」と求めることは、契約不適合責任に基づく追完請求として理論上可能です。
ただし、食べ始めた後や時間が経過した後では、交換請求は信義則上制限される可能性があります。