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<美濃加茂市長事件>弁護側が出した「隠し玉」~贈賄側業者の「証人尋問」詳報(下)
2014年10月03日 16時14分

岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に賄賂を渡したと主張する贈賄側業者、名古屋市の浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長が10月1日、2日の両日、名古屋地裁の法廷に立った。検察側の証人として登場した中林社長は、藤井市長に「金を渡した」と強調したが、藤井市長の弁護団からはその証言の信用性をゆるがすような「隠し玉」が明らかにされた。(ジャーナリスト/関口威人)

岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に賄賂を渡したと主張する贈賄側業者、名古屋市の浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長が10月1日、2日の両日、名古屋地裁の法廷に立った。検察側の証人として登場した中林社長は、藤井市長に「金を渡した」と強調したが、藤井市長の弁護団からはその証言の信用性をゆるがすような「隠し玉」が明らかにされた。(ジャーナリスト/関口威人)

●「藤井市長に金を渡した」という主張はそのまま

中林社長は、藤井市長との「金銭授受」の場面について、証人尋問で詳細に語ろうと努めていた。

当初の取り調べでは「金を渡した」ことを覚えている程度だったというが、しだいに美濃加茂市内のファミリーレストランで「(名古屋市議の)N先生に渡したのと同じ10万円を、藤井先生にも渡した」と思い出したという。

N市議の秘書T氏が同席していたことも当初はあいまいで、今年3月の供述調書では藤井市長と2人で会ったことになっている。ところが、その後「メールや資料を見せられて」T氏の同席を思い出し、5月の調書では、3人で会ったことに変更された。

2回目の現金授受については、さらにあいまいな部分も見えた。

「(現金を混ぜたのが)1回目と同じ資料かどうか、はっきり覚えていなかった。同じものを持っていてもおかしくないと言ったことが、調書では断定的にされた」と中林社長は語る。取調べで抽象的に述べた部分が、調書では断定的に書かれたり、修正されたりした。それを「細かくはチェックしていなかった」という。

それでも、「金を渡したことは間違っていない。差し出したら(藤井市長は)すんなり受け取ってくれた」という主張は崩さなかった。

●検察との協力をほのめかすような「手紙」

中林社長に対する反対尋問を通して、藤井市長の弁護団は、その供述のあいまいさや信用性の低さを引き出すことができたという。

10月2日の公判ではさらに、弁護側の「隠し球」も飛び出した。中林社長が愛知県警中村署に勾留されていたとき、留置所で隣の房にいた男性と最近まで交わしていたという「手紙」の内容を明かしたのだ。そこには、取り調べの状況とともに、裁判の見通しなどもつづられていた。

「藤井弁護団が私の事を悪く言えば言う程、検察は私を守りに入ります。もちろん、これが公判では私に有利に働くでしょう。検察側からの情状も出てくることになります」「(融資詐欺で銀行からの)告発の件も今後どうなるか」「もしかしたら起訴せず、余罪扱いのまま(今のまま)終わらせるかも・・・」など、検察との協力関係をほのめかすような内容だ。

中林社長は、2件の詐欺事件で起訴された後、さらに別の詐欺が延々と立件されるか、藤井市長への贈賄事件が立件されるかを「気にしていた」と、公判で明かした。そのうえで、「当時の弁護士から『贈賄の件で起訴されたら、それで終わるかもな』と言われた。(実際に贈賄罪が立件され)裁判の見通しがつくと思った」と述べた。

これらの手紙や証言は、検察との間で何らかの“手打ち”、弁護団の主張する「ヤミ司法取引」があったのではないかと思わせるものだ。ただし、これらはまだ、間接的な証拠でしかない。

証人尋問の初日、中林社長は「全部を話してゼロになり、社会復帰したい」と涙ながらに述べた。取調べで、刑事から「うそつき父ちゃんのことを娘さんはどう思うか」と詰め寄られたことが、贈賄を自白するきっかけになったという。

その一方で、弁護団が明らかにした「手紙」の中には、中林社長がかつて芸能プロダクションを経営していた経験から、再び「人材派遣業」を始めようと構想し、そのための金銭管理の協力を男性の内妻に求めていたという話もでてくる。

この点について、弁護団の郷原信郎弁護士は、「社会復帰後は実家が経営している訪問介護事業を手伝いたい」とした中林社長の法廷での訴えと、それとはまったく関係ない「人材派遣業の計画」を喜々として語る手紙の内容のあいだに大きな矛盾があると指摘する。「人生をやり直すと泣いていた人が、こんな事業のことを、なぜまた考えられるのか」と追及したのだ。

中林社長はこうした手紙を書いたことを認めたうえで、文通していた男性と「そこまで親しい仲ではない。うそを書くこともあった」とかわした。ただ、この男性も察していたのか、「中林の言うことは信用できない」という不信感から、このような手紙を藤井市長あてに送りつけてきたのだという。

閉廷後、記者会見に臨んだ藤井市長は「真実を語っていただけるかと淡い期待を抱いたが、まったくの嘘ばかりを話していることにあらためて強い憤りを感じた」と述べた。次回以降は、中林社長側の関係者の証人尋問が続いたあと、藤井市長に対する被告人質問に入る。虚実の駆け引きは、まだ激しく続きそうだ。

※上はこちら・・・中林社長のゆがんだ金銭感覚が明らかに

(弁護士ドットコムニュース)

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