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誰も見通せない「トランプ政権の知財政策」、福井弁護士が「通商協定」の課題指摘
2016年11月12日 09時23分

TPP(環太平洋連携協定)の承認案と関連法案が11月10日、衆議院本会議で賛成多数で可決された。11日からは、参議院本会議で趣旨説明と質疑がスタートし、今国会で成立する見通しだ。

ところが、先立っておこなわれた米大統領選挙で、TPP反対を公約として掲げたドナルド・トランプ氏が勝利したことから、米国内の承認手続きが暗礁に乗り上げる可能性が高まっている。

12カ国が合意したTPP発効には、域内国内総生産(GDP)の85%以上の国が批准する必要があるため、日米の批准が不可欠とされる。今後の情勢変化や課題について、衆議院TPP特別委員会で、知的財産権の保護ルールについて参考人として意見を述べた福井健策弁護士の見解を紹介したい。

TPP(環太平洋連携協定)の承認案と関連法案が11月10日、衆議院本会議で賛成多数で可決された。11日からは、参議院本会議で趣旨説明と質疑がスタートし、今国会で成立する見通しだ。

ところが、先立っておこなわれた米大統領選挙で、TPP反対を公約として掲げたドナルド・トランプ氏が勝利したことから、米国内の承認手続きが暗礁に乗り上げる可能性が高まっている。

12カ国が合意したTPP発効には、域内国内総生産(GDP)の85%以上の国が批准する必要があるため、日米の批准が不可欠とされる。今後の情勢変化や課題について、衆議院TPP特別委員会で、知的財産権の保護ルールについて参考人として意見を述べた福井健策弁護士の見解を紹介したい。

●TPP「流転の運命」

いったい、このTPPという条約はどんな数奇な星の下に生まれたのか。そういいたくなる流転の運命ぶりである。

知的財産権の面でいえば、もともと米国提案の知財条項案がリークによって流出して、その「非親告罪化」「保護期間の延長」「法定賠償金」といった刺激的な内容がネットを中心に激論を呼んだのは2011年。その後、TPP反対を掲げる自民党の選挙大勝、知財条項などでの米国と途上国の対立長期化、秘密協議に対する各国の議員・有力団体の抗議と、試練が続く。

さらには米国議会での大統領に権限を与える法案(TPA)の薄氷の可決など、いくたびも頓挫の危機にさらされながら、ついには加盟国が署名にこぎつけたのが今年2月である。

そして、この条約の承認と著作権法など関連する法案の審議のため、衆議院ではTPP特別委員会が開催されて、筆者も知財面の参考人として招かれて意見を述べた。法案の評価と今後の課題については、詳しくはその要旨をご覧いただきたい(http://www.kottolaw.com/column/001317.html)。

つまり、TPP承認と法案成立はいよいよ大詰めである。

ところがだ。米国では、「就任初日にTPP離脱を宣言する」と明言するトランプが大統領選で大勝してしまった。TPPは加盟国のGDP全体の85%以上を占める国の批准がないと発効しないので、米国か日本のいずれかが批准しなければ発効はない。選挙中の公約の目玉だったことを考えれば、トランプの早期翻意は難しいだろう。

これに対して、オバマ大統領は来年1月の任期末までの駆け込み議会承認というウルトラCを狙い、日本政府もそれに賭けていた節がある。だが、これまた選挙で大勝ちした共和党の幹部はそろって年内の議会承認はないと明言。これも、承認したところで進める気ゼロの大統領がすぐに誕生してしまうのでは、さすがに踏み切れまい。

少なくとも現状でのTPPについていえば、どうも、限りなくゲームオーバーに見える。政府はめげずに、衆議院では関連法案を可決し、今後参議院でも成立の予定とされる。だが、著作権などの改正法は、いくら国会で成立してもTPPが発効しない限りは施行されない。つまり非親告罪化も保護期間延長も、成立しても死文となる公算大だ。これが長い旅路の末の「イマココ」である。

●通商協定による「知財制度」の拘束には注意

というわけで、状況は注視するとして、TPPが残した「通商条約と著作権など知財政策の課題」を挙げておこう。意見陳述(http://www.kottolaw.com/column/001317.html)でも述べた通り、現在、情報社会やコンテンツ立国にとっての最大の課題は、膨大なコンテンツを発信し活用をはかるために「権利処理コストをいかに低下させるか」だ。

筆者も加わった内閣知財本部の「次世代知財システムの検討」にせよ(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/1004920.html>{target=_blank})、最近発表された「孤児著作物の対策プロジェクト」にせよ(<http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/110903323/)、共通の目標である。各国の著作権リフォーム論も、こうした視点によるものが多い。

その際、条約、特に多国間の通商協定による知財制度の拘束には注意を要する。こうした条約は、長期にわたって基本的な社会状況や政策目標が変わらない分野には向くが、情報・コンテンツのように変化があまりに急速で、3年先の状況も見通せないような分野では危険である。

なぜか。条約は国内法に優越するので、一度通してしまえば国会をもってしても変えられない。だからといって、多国間の通商条約では離脱も修正も容易ではない。つまり肝心の知財制度の柔軟性が失われるからだ。

●コンテンツ立国に未来を賭ける日本の課題

そもそも、通常は交渉自体に長期間を要するので、一時代前の相手国内のロビイングの影響を受けるリスクもある。TPPの知財条項についていえば、その元はすでに6年以上前の米国内のロビイングである。その後、米国では著作権局長が孤児著作物を減らすために保護期間の部分短縮を提案する時代を迎え(http://www.kottolaw.com/column/000527.html)、ITネットワーク系セクターのロビイ力も格段に上がった。

すでに状況はかなり変わっており、数年先となるとまったく見通せない。そもそも「トランプ政権の知財政策」を誰が見通せたと言うのだ。

そのとき、国会でも変えられない知財の制度を多数抱え込むことは、柔軟な制度による競争力を削ぐことになる。それは情報・文化・コンテンツ立国に未来を賭けるべき日本にとって、危険な選択肢だ。

今後、TPPが形を変えて復活することがあるとしても、あるいは、ほかの通商条約の協議においても、(たとえば協調メリットの大きい海賊版対策に対象を絞り込むなど)知財条項のスコープの取り方は十分に注意を要するべきだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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