ここは日本のどこか。都内の企業で働く悠人さん(仮名)は、職場の「戸締まり」について、モヤモヤが止まらないという。
というのも、彼の会社では、夜、最後まで残った人が戸締まりを確認して退社するというルールになっているが、その作業はどうしても「タイムカード」を切ったあとになるのだ。
長時間労働になりやすい悠人は、最終退社になることが少なくない。きちんと戸締まりを確認した場合、だいたい5分から10分くらい時間をとられてしまう。
チリも積もればというが、悠人はこの戸締まりにかかる時間は「労働時間」にあたるのではないかと思うようになったそうだ。はたして、法的にはどのように考えられるだろうか。労働問題にくわしい金井英人弁護士に聞いた。
●会社から指示されて「戸締まり」しているなら「労働時間」になる
まず、「労働時間」とは、使用者(会社)の指揮命令下で働いている時間のことをいいます。端的に言ってしまえば、会社からの指示で作業している時間は、原則として労働時間ということになるのです。
ですから、会社から「最終退社をする人は戸締まりをして帰ること」を指示されている場合、戸締まりの作業をしている間は労働時間ということになります。
似たようなケースとして、出勤時に会社指定の制服に着替える前にタイムカードを切ることや、掃除をしてから出勤のタイムカードを切ることを指示されるというものがあります。
こうしたケースも、会社の指示で着替えたり、掃除をしたりしているので、その時間は労働時間にあたります。
●どれだけの時間を要したかは「請求側」で証明する必要あり
労働時間は「1分単位」で計算するのが、原則ですので、たとえ5分や10分の作業であっても、労働時間として計算されなければなりません。「15分未満の労働時間は切り捨てる」といった扱いは法律違反になります。
では、そのような場合に、従業員としてどう対応すればよいのかという点ですが、まずは、会社にタイムカードを戸締まり確認作業後に切るという運用にしてもらうよう、交渉するべきです。
今回のケースでいえば、最終退社になるのは、悠人さんだけではなく、ほかの従業員にも関わることですので、複数人で申入れをするとよいです。
ただ、会社に対して戸締まりにかかった時間分の給料をまとめて請求することも可能ですが、タイムカードは作業前に切っていますので、その後の作業にどれだけの時間を要したかは、請求する側で証明しなければなりません。
タイムカード打刻後の勤務時間の証明をする場合には、退社直前のタイムカードを打刻する機械の写真を撮ったり、スマホアプリの機能で毎日の行動履歴を残せるようにしたりという方法で、作業を終えた時間や会社から出た時間の証拠を残しておくとよいでしょう。