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「出生前診断」で染色体異常が発見されたら? 「人工中絶」は法的に問題ないか
2013年04月15日 16時50分

妊婦の血液を調べることで、胎児に染色体異常があるかどうかを知ることができる新型「出生前診断」が、今年4月1日より昭和大学病院などではじまった。この新しい診断方法は、従来行われてきた羊水検査よりも、妊婦の身体に負担が少ないというメリットがあるという。一方で、「人工妊娠中絶の増加につながるのではないか」という反対の声もあがっている。

染色体異常の一つとして、ダウン症が知られているが、その発症確率は、妊娠した母親の年齢との相関関係があると言われ、女性の年齢とともにリスクも上がるという。そのため、高齢出産に不安を感じる女性を中心に、新しい診断方法が広がっていくとみられているが、異常が見つかった場合には、妊婦が人工中絶を選択することもありうるのが現実だ。

では、そもそも、人工妊娠中絶は法的にどう解釈されているのだろうか。刑法には「堕胎罪」についての規定(212条)があり、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する」と書かれている。はたして、「染色体に異常があった胎児」を法的に中絶してよいという根拠はあるのだろうか。東川昇弁護士に聞いた。

●母体保護法の拡張的運用で「人工中絶」が広がった

まず、東川弁護士が言及したのは、人工妊娠中絶の条件を定めた母体保護法だ。

「母体保護法14条1項1号は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある』場合には、指定医師が、『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』と定めています。これが拡張的に運用されてきたために、人工妊娠中絶の件数は飛躍的に増加してきたといえます」

このように述べたうえで、次のように続ける。

「この条文の定める要件の有無の判断は、人工妊娠中絶をなしうる指定医師に委ねられています。そのため、堕胎罪の取締りは実際にはほとんど行われないようになり、その結果、現在のわが国では、堕胎罪は事実上『非犯罪』化されたともいいうる状況にあります」

つまり、母体保護法の拡張的な運用により、刑法の「堕胎罪」は有名無実化しているといえるのだ。

「このような状況において、ダウン症胎児の堕胎が、法的承認なく、当たり前のように行われてきました。そこに今回の『新出生前診断』が登場したということです」

●「新出生前診断」にもとづく人工中絶に対する懸念

日本産科婦人科学会は3月9日、妊婦の血液で胎児のダウン症など3種類の染色体異常を高い精度で調べる新しい出生前診断『母体血胎児染色体検査』の実施指針を理事会で決定。4月1日から、昭和大学病院などで診断が始まった。

このような動きについて、東川弁護士は「強く異議を唱えたい」と口にする。「ダウン症児などは、この世に貢献できない悪しき存在として、その生命を抹殺してもよいというのでしょうか。健常者のおごり高ぶった姿勢の現れといえるでしょう」

出生前診断にもとづく人工妊娠中絶は「生命の選別」につながるのではないかと、倫理的に懸念する声があがっているが、法的な観点からも疑念があるといえるだろう。そもそも人工中絶をどのように評価すべきなのか、立ち止まって議論すべき時期にきているのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

妊婦の血液を調べることで、胎児に染色体異常があるかどうかを知ることができる新型「出生前診断」が、今年4月1日より昭和大学病院などではじまった。この新しい診断方法は、従来行われてきた羊水検査よりも、妊婦の身体に負担が少ないというメリットがあるという。一方で、「人工妊娠中絶の増加につながるのではないか」という反対の声もあがっている。

染色体異常の一つとして、ダウン症が知られているが、その発症確率は、妊娠した母親の年齢との相関関係があると言われ、女性の年齢とともにリスクも上がるという。そのため、高齢出産に不安を感じる女性を中心に、新しい診断方法が広がっていくとみられているが、異常が見つかった場合には、妊婦が人工中絶を選択することもありうるのが現実だ。

では、そもそも、人工妊娠中絶は法的にどう解釈されているのだろうか。刑法には「堕胎罪」についての規定(212条)があり、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する」と書かれている。はたして、「染色体に異常があった胎児」を法的に中絶してよいという根拠はあるのだろうか。東川昇弁護士に聞いた。

●母体保護法の拡張的運用で「人工中絶」が広がった

まず、東川弁護士が言及したのは、人工妊娠中絶の条件を定めた母体保護法だ。

「母体保護法14条1項1号は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある』場合には、指定医師が、『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』と定めています。これが拡張的に運用されてきたために、人工妊娠中絶の件数は飛躍的に増加してきたといえます」

このように述べたうえで、次のように続ける。

「この条文の定める要件の有無の判断は、人工妊娠中絶をなしうる指定医師に委ねられています。そのため、堕胎罪の取締りは実際にはほとんど行われないようになり、その結果、現在のわが国では、堕胎罪は事実上『非犯罪』化されたともいいうる状況にあります」

つまり、母体保護法の拡張的な運用により、刑法の「堕胎罪」は有名無実化しているといえるのだ。

「このような状況において、ダウン症胎児の堕胎が、法的承認なく、当たり前のように行われてきました。そこに今回の『新出生前診断』が登場したということです」

●「新出生前診断」にもとづく人工中絶に対する懸念

日本産科婦人科学会は3月9日、妊婦の血液で胎児のダウン症など3種類の染色体異常を高い精度で調べる新しい出生前診断『母体血胎児染色体検査』の実施指針を理事会で決定。4月1日から、昭和大学病院などで診断が始まった。

このような動きについて、東川弁護士は「強く異議を唱えたい」と口にする。「ダウン症児などは、この世に貢献できない悪しき存在として、その生命を抹殺してもよいというのでしょうか。健常者のおごり高ぶった姿勢の現れといえるでしょう」

出生前診断にもとづく人工妊娠中絶は「生命の選別」につながるのではないかと、倫理的に懸念する声があがっているが、法的な観点からも疑念があるといえるだろう。そもそも人工中絶をどのように評価すべきなのか、立ち止まって議論すべき時期にきているのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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