NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」が始まりましたが、一週目から不穏な展開が描かれています。
とくに物語に登場するかわいらしいウサギたちに癒されていた視聴者にとって、10月2日の放送は衝撃的な内容となりました。
その背景にあるのは、明治時代に日本で起きた「ウサギブーム」です。当時、欧米から輸入されたウサギが投機の対象となり、「兎会」と呼ばれる集会で売買や品評が盛んにおこなわれるほど、社会的熱狂を巻き起こしました。
しかし、過熱を抑えるため、東京府は「兎税」を導入します。市場は急速に冷え込みましたが、同時に思わぬ副作用も生まれました。今では考えられない税制度ですが、実際にはどのようなものだったのでしょうか。
●明治初期、投機対象となったウサギ
日本にはもともと野生のノウサギがいましたが、明治初期に外国種のカイウサギが輸入されると、愛玩用として人気が広がりました。
姿や毛並みを競う品評会まで開かれ、「港区郷土歴史館だより」(vol.15-1/2023年3月15日)によると、ロップイヤー(たれ耳)など多様な品種もいたそうです。交配や品評が盛んになり、高額取引が相次ぎました。
国税庁によると、当時の巡査の初任給は約4円。それに対して、高値がついたウサギは1羽で数百円にのぼったといいます。
こうしてウサギは投機対象となり、「ばけばけ」に描かれたように一獲千金を狙う人々が続出。白ウサギを柿色に染めて珍種と偽る業者や、売買をめぐる殺人事件まで発生し、社会問題へと発展しました。
●ウサギ売買に手を焼いた東京府
過熱するブームに対して、東京府は「兎会」の禁止に踏み切りますが、効果は薄く、とくに外国人商人への対応に苦慮します。
国税庁のサイトには、当時の状況がこう記されています。
「厄介なのは外国人名義のもので、東京府は政府を通じて各国公使館に禁止を願い出ますが、政府や外務省は外国人の自由な商業活動を制限できないと消極的です。
そこで東京府は『華士族の没落』防止を理由に禁止を願い出ますが、今度は司法省が華士族だけの禁止はできないと主張し、日本人だけの禁止令にも反対します」
こうした議論を経て、東京府は司法省と協議し、明治6年(1873年)に「兎税」の導入を決定しました。
●「兎税」でブーム終息
兎税は「ウサギ1羽につき毎月1円を納税する義務」「無届所有は1羽あたり2円の過怠金」といった内容でした。導入後、ウサギの価格は暴落し、商売に手を出した人々は借金を抱えることになります。
一方で、飼育を放棄されて殺されたり、食用とされたりするウサギがいたそうです。ブームは急速にしぼみ、やがて兎税も廃止されますが、ウサギをめぐる悲しい歴史は残りました。
かわいらしいペットの裏にあった投機と重税。兎税は、明治という時代の世相を映し出す一幕だったといえるでしょう。