神戸市で飲酒運転をして同乗の妻など2人を死傷させたとして、過失運転致死傷と道路交通法違反の罪に問われた88歳の男性に対し、神戸地裁は9月10日、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。
読売テレビによると、男性は2024年3月、酒を飲んだ後に車を運転。神戸市中央区の商店街で暴走し、店のシャッターや清掃中のワゴン車に次々と衝突した。
この事故で、助手席に乗っていた妻(当時82歳)が死亡し、ワゴン車の運転手もケガを負ったという。
男性の血液からは基準値の約2倍のアルコールが検出され、衝突時の速度は時速100キロ程度に達していたとみられている。
検察側は懲役4年を求刑したのに対して、神戸地裁は執行猶予付きの判決を選択した。その理由については「(被告人の飲酒運転を)妻が知っていた可能性は否定できず、本人が反省していることに加え、前科なく高齢である」などを指摘したという。
酒気帯び運転によって1人の命が奪われる重大な結果を招いた今回の事件。それでも、なぜ執行猶予が付いたのか。高齢であることは量刑にどの程度影響するのか。交通事件にくわしい泉田健司弁護士に聞いた。
●弁護士「執行猶予が妥当」その理由とは?
──飲酒運転による死亡事故で執行猶予がついたのはなぜでしょうか。
「量刑相場」と呼ばれる基準があり、刑事裁判では過去の多数の事例に基づいて、一定の型の事件ならば、この程度の刑にするという見通しがあります。
たとえば、覚せい剤所持の初犯なら「懲役1年6カ月・執行猶予3年」といった具合です。
そういう量刑相場から見ると、飲酒運転で1人が死亡した場合は、通常であれば、前科がなくとも、実刑になる可能性が高いと思います。
ただし、今回に関しては執行猶予が妥当だと思います。その理由は、自身の落ち度とはいえ、被告人が妻を失っているからです。
●量刑判断に影響するさまざまな要素
──被告人が高齢であることは量刑にどう影響しますか。
高齢であること、妻が飲酒の事実を知っていた可能性、もう1人の被害者が軽傷だったことなど、いずれの事情も量刑判断における重要な要素です。
さらに今回の事件では報道されてはいませんが、一般的にこの種の事件では、「車を処分した」「免許を返納した」「監督者をつけた」といった事情もあるのではないかと推察します。
もし私が裁判官として判断するならば、この夫婦の関係はどうだったのかとか、子どもや孫はいるのだろうかとか、といった背景事情も気になるところです。
結局のところ量刑は、あらゆる事情を総合して裁判官が決めるものです。報道だけをもとにあれこれ言っても的外れになってしまっているかもしれないことはご留意ください。