大手回転寿司チェーン「スシロー」を舞台にした「春闘」。全国各地の店舗で、アルバイトやパートなど非正規の従業員が賃上げをうったえるストライキを実施しています。
一方、運営会社側は、ストライキで人手が足りなくなった店舗に県内外から応援の社員を派遣するなどして、通常営業を続けました。
こうした会社側の対応について、非正規従業員が加盟する労働組合側は「スト破りだ」と憤っています。
労使双方は3月25日、再交渉のテーブルにつく予定ですが、組合側は「回答によっては再びのストも辞さない」という姿勢を見せています。
そもそもストライキはどのような権利なのでしょうか。そして、会社はどのような対応を取るべきなのでしょうか。労働問題にくわしい笠置裕亮弁護士に聞きました。
●非正規でも「ストライキ」できる
今回のストライキは全国31の労働組合が参加する「非正規春闘」の一環でおこなわれました。
「労働組合法の保護を受けられる労働者とは、『職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者』(同3条)であると言われていますので、正社員であろうと非正規社員であろうと、労働組合を作ってストライキをおこなう権利はあります」
ストライキの発生は会社にさまざまな影響を及ぼします。
実際、14人がストに参加したスシロー宮崎恒久店(宮崎県宮崎市)では、スト決行日が日曜日だったこともあり、当日は他県からも応援の社員を派遣してもらうなど、対応に追われました。
「憲法28条は、『勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する』と定めています。ここで、いわゆる労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)が労働者の基本的権利として保障されています。
団体行動権として保護を受けられる争議行為については、正当行為であるとして刑事上の責任を問われません(労働組合法1条2項)。そして、使用者が労働者・労働組合に対して、民事上の責任を問うこともできません(同8条)。
労働者が正当な団体行動をしたことに対し、不利益な取扱いをすることも、不当労働行為として禁じられています(同7条)」
●雇用のされ方によって「格差」があまりにありすぎる?
今回のストライキは大きな関心を集めました。
これについて、笠置弁護士は「雇用のされ方によって、春闘における企業の対応の格差があまりにもありすぎるのではないかという社会の疑問がわかりやすいかたちで出たのが、今回のストライキなのではないかと考えています」と分析します。
報道によると、連合が3月21日に発表した春闘の第2回目の集計では、平均の賃上げ率は5.40%。これは去年の同じ時期を0.15ポイント上回っており、34年ぶりの高水準だといいます。
「それぞれの労働組合の健闘や政府の方針もあり、大都市圏の大企業を中心に、今回の春闘において、各社とも大幅な賃上げをおこなうことが発表されています。
しかし、このような賃上げの恩恵を受けることができるのは、主に大企業に勤務する正社員だけであり、賃上げできない中小零細企業も多いうえ、非正規労働者の大幅な賃上げは実現されていません。
パート社員の場合には、時給額がその地域の最低賃金の少し上ということが多く、不満をぶつけようにも、労働組合の組織率も低いという実情があります」
実際、スシロー宮崎恒久店に勤務するパートやアルバイトの従業員の基本時給は1000円。これは宮崎県の最低賃金952円に対して、わずか48円しか高くありません。
●「会社側は労働者の要求に誠実に応えるべき」
先に挙げたスト期間中の営業について、笠置弁護士は「使用者には営業の自由(憲法22条)がありますので、ストライキ期間中も近隣店舗から応援を頼んで営業を継続することは法律上認められています」と説明。
そのうえで「重要なのは、使用者がストライキに対していかなる措置を取れるかということではなく、なぜストライキが起きるまでに問題が深刻化したのかを見極めることです」と強調します。
たとえば、宮崎恒久店の基本時給は、同じ市内の他店舗より50円安く、近くの同業他社と比べると100円安いそうです。労働組合によると、会社側は「立地や営業利益などを総合的に勘案した結果」と説明しているといいます。
「スシローは非常に人気な飲食店である以上、財政状況を明確に示す資料を示したうえで、労働者側にかなり丁寧な説明を尽くさない限り、およそ納得は得られないものと思われます。
今回のストライキに対して会社がおこなうべき対応は、まさに労働者側の要求に誠実に応えることだろうと考えます。
今後予定されている労使交渉において、もし万が一、会社側が資料も示さずに抽象的な説明しかしないということが起これば、労使関係はますます混乱していくように思われます」
労使の再交渉は、3月25日午後4時におこなわれる予定です。双方がどのような決断をするか注目されます。