13125.jpg
「ハーグ条約」加盟で国際結婚はどうなる? 弁護士に聞いてみた
2013年03月11日 19時20分

安倍晋三首相は今年2月に開かれた日米首脳会談で、国際結婚が破綻した夫婦間の子供の扱いを定めた「ハーグ条約」への早期加盟を表明した。早ければ今年5月にも国会で同条約が承認され、日本も加盟する見通しだ。

国際結婚の増加に伴い、結婚生活が破綻した際に、一方の親がもう一方の親の同意なく、自分の母国へ子供を連れ出すといった「子の連れ去り」が、国際問題とし て注目されるようになった。これを受け、片方の親が子どもを国外に連れ出した場合、原則として元の国に戻すよう定めたのが、ハーグ条約である。

これまで日本では同条約への加盟に対する慎重論も根強かったが、G8(主要8カ国)の中で唯一の未加盟国ということで、特に米国から批判を浴びてきた。ハー グ条約に日本も加盟した場合、国際結婚はどうなるのか。また、どのような問題が生じる可能性があるのか。この問題に詳しい堀晴美弁護士に話を聞いた。

●日本の民法では、母親の親権が重視されている

「ハーグ条約で問題となってきたケースで多いのは、日本人女性が在日アメリカ人(特に軍人)と結婚し、その後渡米したものの離婚して、子どもとともに日本に戻ってきたという事例です」

このように堀弁護士は、もっとも典型的なケースをあげながら、次のようにハーグ条約の加盟が求められた背景を説明する。

「日本の民法では、乳幼児については、原則として母親に単独親権が認められ、父親には面会交流権が認められるだけですが、アメリカに住んでいる元夫と子どもの 面会交流が実現する可能性は現実的には低いといえます。その点からも、アメリカからハーグ条約に日本が加盟するよう、強く求められてきました」

●ハーグ条約に加盟すると「子のひきはがし」が起きる

では、ハーグ条約に加盟すると、どういうことが考えられるのか。

「ハーグ条約に加盟すると、母親が子を連れて日本に帰国すると、強制的に元の居住地に帰還を求められることになります。いわゆる『子のひきはがし』という状態に なります。アメリカでは子の連れ去りは刑法上の誘拐罪になるので、母親がその後、合法的にアメリカに入国することは困難になりますから、母親にとっては非 常に酷な状況におかれることになります。

したがって母親は、たとえDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けたとしても、離婚した後も、居住地を離れて子どもと過ごすことが困難になります。これは、日本国憲法上認められている『転居の自由』を侵害しているともいえます」

このように堀弁護士は、ハーグ条約の問題点を指摘する。

●「子どもの福祉」よりも「大人の権利」が優先する?

「日本の民法上、親権については『子の福祉』という観点から考えられてきましたが、ハーグ条約は、子の福祉を一応うたってはいますが、子の引きはがしという事 態や、その後の面会交流の困難さを考えると、子の福祉よりも、『親の子に対する権利』を主眼としたものと言わざるをえません」

堀弁護士によれば、ハーグ条約は「子どもの福祉」よりも「大人の権利」を重視した条約といえそうだ。首相が早期加盟を表明し、一気にそちらへの機運が高まっているが、本当にいま日本が加盟すべきなのか、国会でしっかりと議論する必要があるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

安倍晋三首相は今年2月に開かれた日米首脳会談で、国際結婚が破綻した夫婦間の子供の扱いを定めた「ハーグ条約」への早期加盟を表明した。早ければ今年5月にも国会で同条約が承認され、日本も加盟する見通しだ。

国際結婚の増加に伴い、結婚生活が破綻した際に、一方の親がもう一方の親の同意なく、自分の母国へ子供を連れ出すといった「子の連れ去り」が、国際問題とし て注目されるようになった。これを受け、片方の親が子どもを国外に連れ出した場合、原則として元の国に戻すよう定めたのが、ハーグ条約である。

これまで日本では同条約への加盟に対する慎重論も根強かったが、G8(主要8カ国)の中で唯一の未加盟国ということで、特に米国から批判を浴びてきた。ハー グ条約に日本も加盟した場合、国際結婚はどうなるのか。また、どのような問題が生じる可能性があるのか。この問題に詳しい堀晴美弁護士に話を聞いた。

●日本の民法では、母親の親権が重視されている

「ハーグ条約で問題となってきたケースで多いのは、日本人女性が在日アメリカ人(特に軍人)と結婚し、その後渡米したものの離婚して、子どもとともに日本に戻ってきたという事例です」

このように堀弁護士は、もっとも典型的なケースをあげながら、次のようにハーグ条約の加盟が求められた背景を説明する。

「日本の民法では、乳幼児については、原則として母親に単独親権が認められ、父親には面会交流権が認められるだけですが、アメリカに住んでいる元夫と子どもの 面会交流が実現する可能性は現実的には低いといえます。その点からも、アメリカからハーグ条約に日本が加盟するよう、強く求められてきました」

●ハーグ条約に加盟すると「子のひきはがし」が起きる

では、ハーグ条約に加盟すると、どういうことが考えられるのか。

「ハーグ条約に加盟すると、母親が子を連れて日本に帰国すると、強制的に元の居住地に帰還を求められることになります。いわゆる『子のひきはがし』という状態に なります。アメリカでは子の連れ去りは刑法上の誘拐罪になるので、母親がその後、合法的にアメリカに入国することは困難になりますから、母親にとっては非 常に酷な状況におかれることになります。

したがって母親は、たとえDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けたとしても、離婚した後も、居住地を離れて子どもと過ごすことが困難になります。これは、日本国憲法上認められている『転居の自由』を侵害しているともいえます」

このように堀弁護士は、ハーグ条約の問題点を指摘する。

●「子どもの福祉」よりも「大人の権利」が優先する?

「日本の民法上、親権については『子の福祉』という観点から考えられてきましたが、ハーグ条約は、子の福祉を一応うたってはいますが、子の引きはがしという事 態や、その後の面会交流の困難さを考えると、子の福祉よりも、『親の子に対する権利』を主眼としたものと言わざるをえません」

堀弁護士によれば、ハーグ条約は「子どもの福祉」よりも「大人の権利」を重視した条約といえそうだ。首相が早期加盟を表明し、一気にそちらへの機運が高まっているが、本当にいま日本が加盟すべきなのか、国会でしっかりと議論する必要があるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る