中古車販売大手、旧ビッグモーター(現BALM)の新卒社員の男性が自死した責任は企業や役員らにあるなどとして、男性の両親が11月19日、企業や元副社長らに対して、約8800万円の損害賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。
遺族側によれば、男性は2020年、入社後1カ月で「解雇通告」をうけ、その後自死に至ったという。
両親は申請した労災が認定されなかったことから、その処分取り消しを求めて国を相手にした裁判も今年2月に起こしている。
BALM社(東京都港区)は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「亡くなられた元社員のご遺族に対しまして、心よりお悔やみを申し上げます」としたうえで、訴状を確認次第、裁判手続において「真摯に対応」していくとコメントした。
●4月に入社、翌5月末に自宅で亡くなる
訴状によれば、大学を卒業して2020年4月に入社した20代男性は都内の店舗で働いた。同年5月8日、運転免許証の未取得を理由とした解雇通告を受けたという。その後、同月30日に自宅で亡くなった。
未取得は配属先の店長らに伝えて受け入れられていたとされるが、5月8日の「店舗巡回(環境整備点検)」で問題視されたという。
原告側は訴状で、「男性の言い分も聞かず、事情も精査せず、『(男性が)免許証を取得済みである旨虚偽の報告を続けた』という事実とは異なる認識を基礎に解雇処分としたのである」と説明している。
未取得には、コロナ禍で自動車学校が休校となる状況などが背景にあり、そのようななかで解雇したことは、合理性や相当性を欠く違法性の高い不法行為にあたると主張する。
また、男性の受診歴は確認できていないが、会社から届いた退職届を破り捨て、自宅のユニットバスを破壊するなどの行動があったことから、気分障害を発症し、自死に至ったとしている。
労基署による労災認定の評価過程において、男性が気分障害を発病して自死に至ったと認められている。
●涙の母親「息子は、樹木を切るかのように、突然職場から排除されました」
原告代理人によれば、労災の不支給認定取り消し訴訟のなかで、会社側から出された文書により、5月8日の人事部担当者と男性との電話の内容が明らかになったという。
訴状では、電話でのやりとりが記載されている。
「そもそも免許を持っていないと入社できないので、会社にはいられない」(人事担当者)
「どうにもならないですか?」(男性) 「ならないです」(人事担当者)
原告側は、こうした内容から、会社側から退職勧奨ではなく、一方的な解雇通告がなされたとし、違法な解雇と精神疾患の発症による自死との因果関係があると主張している。
原告側代理人の安藤輔弁護士と指宿昭一弁護士(左から)
同日の会見で両親は、男性の遺影とともに、悔しさを口にした。
「理由があったにせよ、免許取得が間に合わなかったことは、息子自身の大きな落ち度でした。しかし、仮に退職を求めるのであれば、その事実だけで十分な説明がつくはずです。にもかかわらず、なぜ、息子を傷つけるようなやり方を選んだのか。もし、自主退職として処理をするために、人格を否定するような扱いをしたのだとすれば、あまりにも理不尽です」(父親)
母親も涙声で次のように語った。
「息子は1か月ちょっと懸命に働いていました。息子は、樹木を切るかのように、突然職場から排除されました。まるで最初から存在しなかったかのように傷つけられ、追い詰められました」
●旧ビッグモーター社の回答
訴訟の被告は、株式会社BALM(旧ビッグモーター)、旧ビッグモーターの元副社長、当時の人事担当者ら。
提訴を受けた見解を尋ねたところ、BALM(東京都港区)は同日、弁護士ドットコムニュースにコメントを寄せた。
「亡くなられた元社員のご遺族に対しまして、心よりお悔やみを申し上げます。本件につきまして、当社は、未だ訴状等を確認しておらず、コメントにつきましては差し控えさせていただきます。訴状等を受領いたしましたら、裁判手続において、真摯に対応してまいります」(BALM)
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)