自宅で留守番などをしていた女児10人に性的暴行を加えたとして、強制性交致傷罪などに問われていた男性被告の裁判員裁判で、大阪地裁は2月18日、無期懲役の判決を言い渡しました。
報道によると、求刑も無期懲役だったとのことで、判決では「女児の人格の根幹を傷つけたもので、卑劣悪質の極み。有期刑にとどめるのは困難だ」と判断したそうです(2月18日付朝日新聞)。
被告は、女児の家族が留守であることを狙い、電気工事などをよそおって室内に入り、カッターなどで脅すなどの手口で犯行に及んでいました。さらに、犯行の様子も撮影していました。被告が犯行の機会を狙うため、女児やその家族の行動をスマホに記録などしており、高度な計画性もあったと判断されています。
SNSでは「やっとまともな判断が出た」「被害に遭った女の子のことを考えたら、一生刑務所から出てきて欲しくない」「強制性交は魂の殺人なのだから死刑でもいい」など、判決に賛同したり、さらに極刑を求めたりする意見が多くみられました。
一方で、「被害者が成人だったら無期懲役にはならなかったのでは」「裁判員裁判だから無期懲役(という重い結果)という判決になった」などと、重い判決との見方をする人もいました。
「無期懲役」という判決は、強制性交致傷罪(※事件当時の法令による)の法定刑で最も重いものです。今回の「無期懲役」についてどのようにとらえたらよいのでしょうか。元検察官の高橋麻理弁護士に聞きました。
●最も重い「無期懲役」判決の割合は1%未満だが‥
ーーSNSやニュースサイトのコメント欄では「無期懲役」という判決に対して、相場よりも重いのではないか?被害者が未成年だったからではないか?との見方をする人もいました。今回の判決について、高橋弁護士はどのように捉えていますか?
結論から申しますと、強制性交等致傷罪の量刑傾向と比較して、特に重いという印象はありません。
前提として、量刑傾向をどう捉えるかということ自体、いろいろな見方があり得ると思います。
たとえば、法務省作成の資料(平成11年から令和元年までに言い渡された強姦致死傷事件、強制性交等致死傷事件第一審判決をもとに法務省刑事局が作成したもの)によると、強姦致死傷罪、強制性交等致死傷罪全体の量刑傾向として、懲役7年から10年の言い渡しが多いという傾向が見てとれ、また、無期懲役判決は1%未満にとどまっています。
この量刑傾向が、強姦致死罪、強制性交等致死罪も含むものであることを考えると、強制性交等致傷罪に対し無期懲役の判決が言い渡されるというのは重いという見方があり得るかもしれません。
●被害者の人数が大きな考慮要素となっている
もっとも、強制性交等致傷罪について有罪判決が言い渡された個々の裁判例に注目すると、必ずしも、本件判決が重いとまではいえないのではないかと思います。
強制性交等致傷罪の量刑に関しては、被害に遭われた方の人数が大きな考慮要素となっており、実際、複数の方が被害に遭われている事件では、先ほどお話しした「懲役7年から10年」を大幅に超えた懲役刑が言い渡されることが多くあります。
なかでも、15人の方が被害に遭われた強姦致傷事件(平成22年から同29年までの犯行とのこと)では、被告人に対し、無期懲役の判決が言い渡されたこともありました。
本件については、被害に遭われた方が10人にのぼるということに加え、高度な計画性に基づき敢行され、犯行状況を撮影し口止めをしたり、犯行時カッターナイフを突きつけ命の危険を感じさせる脅迫に及んだりといった態様が悪質、卑劣極まりなく酌量の余地が皆無であることもあわせて考えると、他の裁判例との比較においては、決して重いなどとは評価できないと考えます。
●裁判員裁判は性犯罪の量刑に影響するか
ーー裁判員裁判では、強制性交等罪(現、不同意性交等罪)の量刑が重くなる傾向があるのでしょうか
裁判員裁判で量刑が重くなっているという傾向はあると考えます。
「裁判員制度10年の統括報告書」(最高裁判所事務総局が、裁判員制度施行から平成30年12月末までのデータに基づき作成し、令和元年5月に公表したもの)によると、強姦致死傷罪、強制性交等致死傷罪については、最も多い量刑が懲役7年前後となっている点は裁判官裁判と裁判員裁判とで変わりないものの、裁判員裁判による量刑においては、裁判官裁判による量刑と比べ、懲役7年より重い刑となっている割合がより多くなっています。
つまり、強制性交等致死傷罪においては、全体として見ると、裁判官裁判による量刑より、裁判員裁判による量刑の方が重くなっているという傾向が見て取れます。
その背景として、裁判員裁判においては、被害感情がより重視されているという傾向があるのではないかと考えます。
また、最近では、スマートフォンを使って犯行状況を撮影、録画し、これを示して脅すことで口止めをするなど、犯行態様が悪質化しているという側面もあり、このような傾向も重罰化に影響している可能性もあるかもしれません。