既婚者であるにもかかわらず、独身であると嘘をついて異性と交際をする「独身偽装」が今、社会問題となっています。
最近では、国民民主党の平岩征樹衆院議員が、氏名を偽り、既婚者であることを隠して、女性と交際していた事実を自身の公式サイトで公表し、謝罪しました。
平岩議員によると、この件について『週刊現代』の取材があったといい、「4年程前に、私が既婚者の身でありながらそのことを秘して交際していた方がいたことは事実です。また、お相手の方には本名を述べていなかったことも事実です」と認めています。
国民民主党は平岩議員について、無期限の党員資格停止処分にするとしていますが、SNSでは平岩議員の行為について、批判が高まっています。
●法律相談も多数、中には妊娠してしまった人も
独身偽装については、弁護士ドットコムの法律相談にも多数の相談が寄せられています。真剣交際を求めてマッチングアプリを利用した人が、相手を独身だと信じて交際したものの、後に既婚者と判明してしまうケースが多いようです。中には妊娠に至る人もいました。
しかし現在、刑事責任を問うことはできず、被害者が泣き寝入りするケースが後を絶ちません。そのため、独身偽装に刑事罰を求めるオンライン署名が立ち上がるなど、対策を求める声があります。
オンライン署名を始めた女性は、既婚者の男性に未婚であると騙され、3年近く交際して妊娠したものの、相手が既婚者であることがわかったといいます。女性は、「独身偽装は性被害」とうったえています。
独身偽装について、現在、どのような法的問題があり、法整備は必要なのでしょうか。鐘ケ江啓司弁護士に聞きました。
●独身偽装はなぜ詐欺罪にならない?
——現在、独身偽装について、刑事的責任を問えないとのことですが、「詐欺ではないか」という声もあります。なぜ詐欺罪に問うことができないのでしょうか。
詐欺罪(刑法246条)は人を欺いて財物を交付させたり、財産上の利益を得たりする行為を処罰するものです。貞操権(性的自己決定権)は財物でないので対象外ということです。
——刑事的責任を問えないとしても、民事で既婚者の責任を問うことはできるのでしょうか。
貞操権(性的自己決定権)侵害として民法709条の不法行為責任を問うことはできます。ただ、一般に慰謝料額は高くないです。
——独身偽装に騙されないよう、交際相手が既婚者であることを自身が確認することはできないのでしょうか。
独身証明書の提示を求めるといったことしかできないです。
●不同意性交等罪の要件に「配偶者がいないと誤信させ」
——独身偽装の被害者は泣き寝入りするケースが少なくないです。どういった法整備が望まれるのでしょうか。
私は、端的に、不同意性交等罪(刑法177条2項)「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。」に「行為をする者について配偶者(婚姻の届出をした者に限る)がいないとの誤信をさせ」という要件を加えれば良いと考えています。
2023年の刑法改正の際は、意図的に「独身者であると偽る」ことが不同意性交等罪にならないものとしたことが、法務省刑事局付の検事らにより繰り返し述べられています。
例えば、「『刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律』及び『性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律』の概要(1)」(梶美紗著/『捜査研究』2023年10月号)では、次のように指摘しています。
「例えば、
・真実は無職であるのに金持ちの社長であると偽られ、そのように誤信した場合
・真実は既婚者であるのに、未婚者であると偽られ、そのように誤信した場合
については、相手方の職業、資力や婚姻関係の有無という属性に関する誤信があるにすぎないことから、いずれも、『行為をする者について人違い』している場合には該当しない。
このように、改正後の刑法第176条第2項及び第177 条第2項において、行為の相手方の社会的地位等といった属性について誤信があるにすぎない場合を処罰の対象としていないのは、このような誤信は、言わば、性的行為をする動機に関する誤信であり、現時点において、そのような誤信があることのみをもって処罰対象とすべきであるとまでは必ずしもいえないと考えられることによるものである」
現状で考え得る手段としては、理論的には、既婚者が独身と偽ってマッチングアプリに登録したことを、マッチングアプリの運営会社が偽計業務妨害罪で告訴するといったことがありえますが、現実的には立件が難しいと思います。
そもそも運営会社が独身証明書の提示すら求めていないからです。