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河本準一さんの母親は受給していた生活保護費を返還する義務があるのか
2012年05月25日 14時30分

お笑いタレント河本準一さんの母親が生活保護費を不正に受給していたのではないかという疑惑が週刊誌などで報じられ、衆議院議員の片山さつき氏や参議院議員の世耕弘成氏もブログやTwitterで言及するなど、大きな議論になっている。

人気タレントである河本さんならば、少なくとも母親を扶養するには問題ない程度の収入を得ていることはほぼ間違いないと考えられるなかで、それにも関わらず河本さんの母親が生活保護費を受給していたのは不正な行為ではないかというのが論点だ。

報道を受けて、河本さんの所属事務所であるよしもとクリエイティブ・エージェンシーは、河本さんの収入は週刊誌が報じるような高額ではなく時期によって上下していること、様々な事情から生活の援助をしなければならない親族が複数いることなどを理由として、不正な受給はなかったいう旨の声明を発表した。しかし、それでも生活保護費の受給対象となるほどの状況ではないという見方があり、今後さらなる追及が起きることも予想される。

それでは、河本さんの母親の生活保護費の受給についての正当性はどのような基準で判断されるのか。また、もし仮に受給が不正なものと判断された場合には、受給してきた生活保護費を返還する義務などが生じるのか。生活保護法に詳しい岡田晃朝弁護士に聞いた。

「生活保護法第4条1項は『保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。』と定めています。さらに、同法同条2項では『民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。』との規定が置かれています。」

「つまり、生活保護を受けるには、自身の持ちうる財産や就労能力をすべて使って、さらには直系血族及び兄弟姉妹による支援(民法878条)を受けたとしても、まだ最低限の生活に達しないことが必要です。河本さんにとって母親は直系の血族ですので、河本さんの母親が生活保護を受けるには、河本さんの支援があっても最低限の生活に達しないことが必要です。」

「では、不正受給と認められた場合、どのような対処がされるのでしょうか。まず、刑事罰があります。刑法上の詐欺の要件に当たれば、詐欺罪(刑法246条)が適用されます。仮に詐欺罪の要件を満たさなくても『不正な手段により保護を受け』た場合は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(生活保護法85条)。」

「次に、一旦受け取った保護費についても不正受給があった場合、都道府県または市町村の長は返還請求ができる(生活保護法78条)と定められています。最後に、もちろん生活保護の停止、廃止もありえます。」

つまり、生活保護費の受給はいわば残された最後の手段として認められるものだといえるだろう。この点からすると、よしもと側が発表した内容は、河本さんの母親がそこまで切迫した状況にあったかどうかやや疑問符がつく印象があり、場合によってはこれまで受給してきた保護費について行政側から返還請求を受ける可能性もあり得るものと思われる。

片山氏や世耕氏も、河本さんへの個人攻撃ではなく、あくまでわが国における不正受給の拡大を防ぐことを目的とした上で、徹底的に追及する構えを見せており、今回の不正受給疑惑は、まだしばらく物議を醸すことになりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

お笑いタレント河本準一さんの母親が生活保護費を不正に受給していたのではないかという疑惑が週刊誌などで報じられ、衆議院議員の片山さつき氏や参議院議員の世耕弘成氏もブログやTwitterで言及するなど、大きな議論になっている。

人気タレントである河本さんならば、少なくとも母親を扶養するには問題ない程度の収入を得ていることはほぼ間違いないと考えられるなかで、それにも関わらず河本さんの母親が生活保護費を受給していたのは不正な行為ではないかというのが論点だ。

報道を受けて、河本さんの所属事務所であるよしもとクリエイティブ・エージェンシーは、河本さんの収入は週刊誌が報じるような高額ではなく時期によって上下していること、様々な事情から生活の援助をしなければならない親族が複数いることなどを理由として、不正な受給はなかったいう旨の声明を発表した。しかし、それでも生活保護費の受給対象となるほどの状況ではないという見方があり、今後さらなる追及が起きることも予想される。

それでは、河本さんの母親の生活保護費の受給についての正当性はどのような基準で判断されるのか。また、もし仮に受給が不正なものと判断された場合には、受給してきた生活保護費を返還する義務などが生じるのか。生活保護法に詳しい岡田晃朝弁護士に聞いた。

「生活保護法第4条1項は『保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。』と定めています。さらに、同法同条2項では『民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。』との規定が置かれています。」

「つまり、生活保護を受けるには、自身の持ちうる財産や就労能力をすべて使って、さらには直系血族及び兄弟姉妹による支援(民法878条)を受けたとしても、まだ最低限の生活に達しないことが必要です。河本さんにとって母親は直系の血族ですので、河本さんの母親が生活保護を受けるには、河本さんの支援があっても最低限の生活に達しないことが必要です。」

「では、不正受給と認められた場合、どのような対処がされるのでしょうか。まず、刑事罰があります。刑法上の詐欺の要件に当たれば、詐欺罪(刑法246条)が適用されます。仮に詐欺罪の要件を満たさなくても『不正な手段により保護を受け』た場合は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(生活保護法85条)。」

「次に、一旦受け取った保護費についても不正受給があった場合、都道府県または市町村の長は返還請求ができる(生活保護法78条)と定められています。最後に、もちろん生活保護の停止、廃止もありえます。」

つまり、生活保護費の受給はいわば残された最後の手段として認められるものだといえるだろう。この点からすると、よしもと側が発表した内容は、河本さんの母親がそこまで切迫した状況にあったかどうかやや疑問符がつく印象があり、場合によってはこれまで受給してきた保護費について行政側から返還請求を受ける可能性もあり得るものと思われる。

片山氏や世耕氏も、河本さんへの個人攻撃ではなく、あくまでわが国における不正受給の拡大を防ぐことを目的とした上で、徹底的に追及する構えを見せており、今回の不正受給疑惑は、まだしばらく物議を醸すことになりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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