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職場で従業員が盗撮「加害者にもプライバシー」難しい企業側の対応方針 被害者ケア、公表の必要性は?
2025年08月28日 12時01分
#性被害 #盗撮 #職場の盗撮

職場で従業員による盗撮の問題が生じた場合、企業はどれだけ被害者をケアすべきか。そして、関係者への通知や公表について、どのような判断をすべきだろうか。

企業側の労働問題に取り組む安倍嘉一弁護士に聞いた。

問題発覚直後の初動から、被害者へのケア、そして社内外への公表の判断基準まで、企業が直面する課題は多岐にわたる。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

職場で従業員による盗撮の問題が生じた場合、企業はどれだけ被害者をケアすべきか。そして、関係者への通知や公表について、どのような判断をすべきだろうか。

企業側の労働問題に取り組む安倍嘉一弁護士に聞いた。

問題発覚直後の初動から、被害者へのケア、そして社内外への公表の判断基準まで、企業が直面する課題は多岐にわたる。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●初動対応

——従業員による職場での盗撮が発覚した際、企業はまず何から手をつけるべきでしょうか。対応の大きな流れを教えてください。

まず、盗撮のカメラが発見されたり、盗撮の疑いが発覚したりした場合、企業が最初に直面する問題は「行為者を特定できるか」というものです。

たとえば、防犯カメラの映像などから仕掛けた人物が判明すれば、その後の処分を検討する段階に進めます。

しかし、そうした証拠がない場合、企業の力だけで犯人を見つけ出すのは困難なことが多いです。そのため、警察に相談し、被害届を提出することが次のステップになります。

ただ、客観的な証拠がなければ、警察としても、必ず犯人が見つけられるとは限りません。警察も社員全員から事情聴取をするといったことは現実的ではありません。

——犯人が特定できない場合、企業は次に何を考えますか。

再発防止策を講じることになります。防犯カメラの設置も選択肢の一つですが、これは従業員のプライバシーとの兼ね合いもあり、慎重な判断が必要です。警察に現場検証に入ってもらうだけでも、一定の抑止効果は期待できるかもしれません。

しかし、盗撮は意図的になされる犯罪であり、本人がやろうと決めているのを完全に防ぐのは極めて難しいものです。被害が度重なるようであれば、防犯カメラの設置も検討しなければいけないでしょう。

画像タイトル Ushico / PIXTA(イメージ)

●被害者の要望にどこまで寄り添うべきか

——被害者となった従業員へのケアについては、企業はどこまで対応すべきでしょうか。たとえば、被害者が精神的な苦痛から「現場となったトイレや更衣室を使えないので、部署を異動したい」などと申し出た場合、どこまで応じる必要があるでしょうか。

被害者へのケアの基本はメンタルケアになりますが、これは企業のカウンセリング制度などを利用しつつも、基本的には医師の専門領域です。産業医が専門外であれば、専門の医師を紹介するなどする対応が望ましいです。

ハラスメントの問題が生じたときと同様に、異動の希望については、まず本人の話をしっかり聞くことが前提として、その上で異動可能なポジションが社内にあれば検討すべきです。しかし、企業の規模や状況によっては現実的に難しい場合もあります。

異動先がなければ対応できませんし、これまで事務をやっていた人がいきなり営業にいって能力を発揮できるかといった問題もあるでしょう。現実的に異動できる可能性があるか、移動後の状況なども検討する必要があります。

——もし犯人が特定され、刑事事件として捜査が進んだ場合、企業はどこまで情報を追いかければよいのでしょうか。たとえば、被害者から「加害者がどんな処分を受けたのか、盗撮データは流出していないのか知りたい」といった要望が寄せられることも考えられます。

この場合の被害者はあくまでも個人であり、企業ではありませんので、企業が警察の捜査情報を入手するにも限界があります。基本的には、個人で確認していただくことになり、企業としてできることがあるとはあまり考えにくいと思います。

ただ、従業員が加害者であった場合、逮捕・起訴されるなどすれば、今度は加害者である従業員の処分を検討することになります。その場合、最終的にどのような刑罰を受けたかも懲戒処分の検討において必要になる場合もあるため、裁判を傍聴することはあります。

●処分の公表どこまで

——加害者を懲戒処分した場合、その事実を社内で公表すべきでしょうか。

処分の社内公表は、その目的をよく考える必要があります。目的は加害者を吊るし上げることではなく、再発防止のための注意喚起であると思います。また、被害者だけでなく、加害者にもプライバシーはあります。そのため、公表する場合でも、加害者の氏名はあえて出さず、特定されない程度にぼかした形で盗撮の問題が生じた事実を伝えるという判断になるかと思います。

また、企業の規模によっても判断は変わります。小規模な企業では、公表するまでもなく盗撮の事実が知られている可能性もあり、あえて公表する意味は薄いかもしれません。

一方で、大企業であれば、注意喚起としての意義は大きいでしょう。もっとも、被害者には特にプライバシーの問題があるので、むやみに広げるべきではありません。ここでも、氏名の公表は避ける、特定されないよう事案をぼかすといった対応のほか、場合によっては情報共有の範囲を人事部や総務部など関係部署に留めることも考えられます。

●顧客が被害に…社外への公表はどう判断する?

——では、スポーツジムの更衣室など、従業員が顧客に対して盗撮をした場合はどうでしょう。被害に遭った可能性のある利用者に説明したり、プレスリリースなどで公表したりする必要はありますか。

犯罪が発生した事実をプレスリリースといった形での積極的に公表することは、企業の評判を損なうリスクが大きいため、あまり行われることは多くないと思われます。メディアで報じられるなど、事態が公になった場合に対応を示す形でリリースを出すことはあり得ます。

顧客に対する対応として考えられるものとしては、被害に遭った可能性のある期間の利用客に個別に連絡し、「当該従業員は既に解雇済みである」といった事実を説明することがあります。しかし、これも営業上のマイナスが大きいため、どこまで行うかは企業の経営判断によります。

顧客としては、自分が盗撮されたのではないか、その盗撮されたデータが流出していないか心配になると思われますが、企業としても、客観的証拠がなければ、流出しているかどうかもわかりません。流出の可能性自体は否定できませんが、確たる事実も判明していない段階で、すべての顧客に公表すべきだという話にはならないと思われます。

●問われる企業の責任と、対策の限界

——盗撮という犯罪であっても、従業員の行為について企業の使用者責任が問われることはあるのでしょうか。

確かに、業務時間中の行為と評価されれば、使用者責任を問われる可能性はあります。しかし、先ほど述べたとおり、盗撮は意図的に、規制の網をくぐって行われるものですので、これを完全に防ぐことは困難かと思います。たとえば、盗撮を防ぐことを目的に、「個人のスマートフォンを社内に持ち込み禁止にする」といった対策を講じることは、あまりに現実的ないように思います。

企業がすべきことは、盗撮は断じて許されないという毅然とした態度を示し、従業員による盗撮が発覚した際には厳正な処分を下すことだと思います。

盗撮事件は、そもそも犯人の特定が難しく、企業としてできることには限界があります。その上で、従業員のプライバシーに配慮し、個別の事案に応じて冷静に対応を検討していくことが何より重要だと考えます。

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