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「波物語とフジロックを一緒にしないで」イベンターが語る「プロ意識と信頼関係」
2021年09月18日 09時43分

新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底せず、クラスターを発生させた愛知県常滑市の野外フェス「NAMIMONOGATARI(波物語)」。入場者を大幅に増やしたうえ、酒類の提供、ノーマスクの放置、アフターパーティーの開催などの結果、9月12日現在、44人の感染者が確認されている。

主催した名古屋市のイベント会社は、フェスの公式サイトでの謝罪文掲載を最後に雲隠れ状態。愛知県の大村秀章知事は「大変罪深い事案」「悪質な業者」と強く非難している。

だが、誰よりも怒り心頭なのは、考えうる限りの対策を行い、安心安全なイベント開催へ向けて精力を注ぐ各地のイベント関係者たちではないか。コロナ禍での経済、社会活動のあり方が問われる今、イベント開催の是非も問われている。(執筆家・山田準)

新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底せず、クラスターを発生させた愛知県常滑市の野外フェス「NAMIMONOGATARI(波物語)」。入場者を大幅に増やしたうえ、酒類の提供、ノーマスクの放置、アフターパーティーの開催などの結果、9月12日現在、44人の感染者が確認されている。

主催した名古屋市のイベント会社は、フェスの公式サイトでの謝罪文掲載を最後に雲隠れ状態。愛知県の大村秀章知事は「大変罪深い事案」「悪質な業者」と強く非難している。

だが、誰よりも怒り心頭なのは、考えうる限りの対策を行い、安心安全なイベント開催へ向けて精力を注ぐ各地のイベント関係者たちではないか。コロナ禍での経済、社会活動のあり方が問われる今、イベント開催の是非も問われている。(執筆家・山田準)

●「波物語は、地域やイベント業界を裏切った」

40年以上もイベント業界に身を置いてきたイベンターの高津誠氏(64歳、仮名)は、「波物語」に憤りを隠せない。

「イベント開催において最も重要なことの一つは、行政との信頼関係。あのイベント(波物語)は行政との信頼を裏切っただけでなく、安全な運営へ向け、日々汗を流している多くの皆さんの努力を踏みにじった。断じて許せない」

高津氏は音楽フェスからスポーツ、文化イベント、花火大会など、イベンターとして多くのイベントを手掛けてきた。自身の苦い経験も踏まえ、イベント運営の肝、意義を以下のように語る。

「本来、イベントの大きな役割は町おこし。自治体や警察など地域の皆さんと、主催者との信頼関係があって初めて成り立つもので、その結果として、お客さんに満足いただけるイベントが開催できる。『(イベントを)やってくれてありがとう』『やらせていただいてありがとう』という、地域と主催者のWin-Winの関係こそが基本の姿。

今回の野外フェス(波物語)は、行政との信頼関係を裏切っただけでなく、お客さんや関係者の安全も軽視した。自分たちの経済的利益しか考えてない、と言われても仕方ない」

音楽系のイベント業界には、コンサートプロモーターズ協会など4団体があるが、そもそも「波物語」の主催者はどこにも加盟していない。

「コロナの感染対策から実際の運営、イベント後の後始末も含め、とてもプロのイベンターの仕事ではない。挙句に雲隠れとは……。地域や演者との信頼関係、そして来場者の安全を第一に考える多くのイベンターも同一視されてしまうのかと思うとつらい」(高津氏)

●決断が分かれた二大音楽フェス

「波物語」とは対照的なのが、8月20~22日に新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催された「フジロック」。1997年に富士天神山スキー場で産声を上げて以来、ロックフェスの代名詞にもなっている音楽イベントだ。

コロナ対策のノウハウが手さぐりだった昨年は開催を断念したが、今年は行政、地域と主催者側が約1年の準備期間を経て開催を実現。開催については批判的な声もあったが、可能な限りの予防策を明記した「感染防止対策ガイドライン」を徹底告知して、無事にフェスを終えた。

「フジロック」の内情を良く知るイベンターの齊藤智樹氏(52、匿名)は次のように語る。

「とにかく事前の準備、インフォメーションが入念で、半端じゃない。消毒、禁酒、禁煙、入場者制限などの基本対策はもちろん、ステージを半減、分散させ、それこそ足の立ち位置からごみの分別まで徹底している。マスクをしていない来場者がいれば、係員がその場で注意する。フェス終了後の追跡調査も含め、行政、地域との連携のもと、最善を尽くしている。フジロックが常滑のフェスと比較されること自体、迷惑でしょうが、これがイベンターとしての、プロとアマの違いだと思います」

一方、「フジロック」に並ぶ音楽イベントで、8月上~中旬に茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園で開催予定だった「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2021」(以下、ロック・イン─)は、開催1カ月前に中止を発表。2年連続の中止に落胆するファンは少なくなかった。

「フジロック」と同じく、「ロック・イン─」も1年以上の期間をかけ、政府のガイドラインに沿って、茨城県、ひたちなか市ほか関係団体と開催へ向け協議を重ねてきたが、開催を1カ月後に控えた時期に、茨城県医師会から手渡された要望書が、開催中止に少なからず影響を与えたようだ。

同フェスの公式サイトには、「医師会からの要請に十全に応えることは今の私たちにはできません。残念ですが中止以外の選択肢はありませんでした」と、中止に至った無念の思いがつづられている。

経緯の是非はともかく、これも行政、地域との連携、信頼関係を抜きにイベントは開催できないことの最たる例ではないだろうか。

「ロック・イン─」の中止を、勇気ある撤退と言うと、語弊があるかもしれないが、人事を尽くしたコロナ対策で「フジロック」を開催させた関係者と同様、両イベントに携わるイベンターたちのプロ意識の高さがうかがえる。

●コロナ禍で問われるイベント運営のあり方

イベント開催において、基本的にすべての責任を負うのは主催者。そこで、金銭的リスクを軽減させるため、主催者は通常、俗にいう「興行中止保険」に加入する。

一般的に、悪天候や地震、交通機関の混乱、機材・設営物のトラブル、出演者や来場者のケガ、急病などが補償対象となるが、あくまでイベントが関係者の故意、重大過失等によらない、偶然の事故によって中止・順延になった場合に保険が適用される。

例えば、花火大会が台風など悪天候で中止になった場合、おおむね上記経費の7割程度が興行中止保険で補償されると言われるが、一方で、コロナ禍が1年半以上も続く現在は、大手3社を含む損保会社のほとんどが、コロナを直接、間接の原因とするイベントの中止・順延に対し、補償の対象外としている。

今後はコロナ禍の推移に注視しつつ、多くの経済活動が動くことになるが、音楽フェスを含めたイベント運営も、行政・地域と主催者側の信頼関係や感染対策、安全対策、金銭的リスクなどを踏まえ、開催の可否が決まることになるだろう。

確かに、どんなに万全を尽くしたコロナの感染対策を行っても、100%の安全は保証されないかもしれない。医療従事者の多くが、日々コロナと向き合っているのも、紛れもない事実だ。

一方で、長引くコロナ禍により、経済的、精神的にひっ迫する状況で、町おこしを模索する地域、イベント関係者、出演者、来場者などの前向きな思いも無視できない。

今後も、音楽フェスを含めたイベントの開催に賛否両論は尽きないが、コロナ禍と経済活動の共存は、避けて通れない道であることは間違いないだろう。

「ロック・イン─」の公式HPにある「音楽を止めない、フェスを止めない、という思いは多くの音楽ファンが持つ共通の思いです。(中略)コロナ禍にあって障害はありますが、あの祝祭空間を私たちは守っていかなければなりません」というコメントをどう受け止めるかは、われわれ一人一人の気持ちにかかっている。

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