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「君が代斉唱で起立しない教員の名前」 教育委員会が集めるのは許される?
2013年05月30日 15時10分

学校行事で「君が代」を斉唱するときに起立しない教職員の氏名を、神奈川県教育委員会が各校から収集しているのは違法だとして、県立高校の教職員らが報告内容の抹消を県に求めた訴訟で、最高裁は4月下旬、原告の上告を退ける決定をした。これにより、教職員側の敗訴が確定した。

報道によれば、神奈川県教委は2006年、入学式や卒業式の「君が代」斉唱時に起立しなかった教員の氏名を報告するよう県内の各校に指示した。これに対して、県立高校の教職員ら25人が「こうした行為は、『思想・信条に関する個人情報の収集』を禁じた県の個人情報保護条例に違反する」として、集めた情報の削除を求めていた。

個人の思想・信条については、憲法19条が「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定めており、公権力が個人の「思想・信条」の領域に踏み込むことは憲法違反とされている。神奈川県の個人情報保護条例も、憲法19条を背景としている。そのように重要な「思想・信条」に関する問題として、教職員側は裁判を起こしたと考えられるが、最高裁が上告を退けたことの問題点について、猪野亨弁護士に聞いた。

●「思想・良心の自由」が憲法で保障されている歴史的背景とは?

「卒業式などの国歌斉唱の際、教員に対して起立が命じられますが、国歌が君が代とされている以上、君が代斉唱のための起立命令です」

猪野弁護士はこのように述べたうえで、その意味について、次のように語る。

「君が代は、天皇制賛美の歌であり、戦前は大元帥天皇のための歌ということで、当然のごとく国民に強制したという歴史があります。

だからこそ、憲法19条で、思想良心の自由は『侵してはならない』とされているのです。本来、内心がどうあろうと自由なはずですが、それにも関わらず、あえて思想良心の自由が規定されているのは、国家による強制という歴史があったからです」

こう話す猪野弁護士は、神奈川県教委の対応について、どう考えるのか。

「東京都では、起立しない教員に懲戒処分などによって強圧的な対応で強制が行われていますが、神奈川県の場合には、教育委員会がその情報を収集するというレベルで留まっています。

しかし、これは公的機関によるあからさまな個人の思想信条に関わる個人情報の収集です」

●最高裁は「不起立に対する戒告」を認める立場

では、なぜ最高裁は、神奈川県教委の情報収集を違法としなかったのだろうか。

「神奈川県の条例では、個人の思想信条に関わる情報の収集は許されないとしながらも、他方で、正当な理由がある場合の例外を認めています。

この点、最高裁の立場は、不起立に対する戒告を認めるものです。この最高裁判決自体が思想良心の自由を侵害する不当なものといえますが、その最高裁の立場からは、処分権限を持つ神奈川県教委がこのような情報を集約するのは、『正当な理由あり』と帰結されるのです」

このような最高裁の決定に対して、猪野弁護士は批判的だ。

「公的機関がこのような個人情報を収集することは、いわば『反国家思想の持ち主』の氏名を収集しているのと同じです。さらに、起立しなかった教員の思想信条の自由が侵害されているだけでなく、情報が収集されているというだけで、現場に大きな萎縮効果をもたらすのは必然です。

『有無をいわさず従わせていく』という意味で、思想の強制といえます。また、現時点では教員に限られていますが、その人数は多く一般的な職業であることや、教育現場という広く国民に関わる場であることを考えれば、このような情報収集は、憲法19条で『国家が思想を強制してはならない』とした歴史的意義を無視したものであり、思想良心の自由を危機的な状況に陥らせるものと言わざるをえません」

折しも、政治の世界では「憲法」のあり方に注目が集まっているが、思想・良心の自由(19条)は信教の自由(20条)や表現の自由(21条)とならんで、個人の精神活動に関するものとして重視されている人権だ。これを機に、思想・良心の自由が憲法で保障されている意味を考えてみてもいいのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

学校行事で「君が代」を斉唱するときに起立しない教職員の氏名を、神奈川県教育委員会が各校から収集しているのは違法だとして、県立高校の教職員らが報告内容の抹消を県に求めた訴訟で、最高裁は4月下旬、原告の上告を退ける決定をした。これにより、教職員側の敗訴が確定した。

報道によれば、神奈川県教委は2006年、入学式や卒業式の「君が代」斉唱時に起立しなかった教員の氏名を報告するよう県内の各校に指示した。これに対して、県立高校の教職員ら25人が「こうした行為は、『思想・信条に関する個人情報の収集』を禁じた県の個人情報保護条例に違反する」として、集めた情報の削除を求めていた。

個人の思想・信条については、憲法19条が「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定めており、公権力が個人の「思想・信条」の領域に踏み込むことは憲法違反とされている。神奈川県の個人情報保護条例も、憲法19条を背景としている。そのように重要な「思想・信条」に関する問題として、教職員側は裁判を起こしたと考えられるが、最高裁が上告を退けたことの問題点について、猪野亨弁護士に聞いた。

●「思想・良心の自由」が憲法で保障されている歴史的背景とは?

「卒業式などの国歌斉唱の際、教員に対して起立が命じられますが、国歌が君が代とされている以上、君が代斉唱のための起立命令です」

猪野弁護士はこのように述べたうえで、その意味について、次のように語る。

「君が代は、天皇制賛美の歌であり、戦前は大元帥天皇のための歌ということで、当然のごとく国民に強制したという歴史があります。

だからこそ、憲法19条で、思想良心の自由は『侵してはならない』とされているのです。本来、内心がどうあろうと自由なはずですが、それにも関わらず、あえて思想良心の自由が規定されているのは、国家による強制という歴史があったからです」

こう話す猪野弁護士は、神奈川県教委の対応について、どう考えるのか。

「東京都では、起立しない教員に懲戒処分などによって強圧的な対応で強制が行われていますが、神奈川県の場合には、教育委員会がその情報を収集するというレベルで留まっています。

しかし、これは公的機関によるあからさまな個人の思想信条に関わる個人情報の収集です」

●最高裁は「不起立に対する戒告」を認める立場

では、なぜ最高裁は、神奈川県教委の情報収集を違法としなかったのだろうか。

「神奈川県の条例では、個人の思想信条に関わる情報の収集は許されないとしながらも、他方で、正当な理由がある場合の例外を認めています。

この点、最高裁の立場は、不起立に対する戒告を認めるものです。この最高裁判決自体が思想良心の自由を侵害する不当なものといえますが、その最高裁の立場からは、処分権限を持つ神奈川県教委がこのような情報を集約するのは、『正当な理由あり』と帰結されるのです」

このような最高裁の決定に対して、猪野弁護士は批判的だ。

「公的機関がこのような個人情報を収集することは、いわば『反国家思想の持ち主』の氏名を収集しているのと同じです。さらに、起立しなかった教員の思想信条の自由が侵害されているだけでなく、情報が収集されているというだけで、現場に大きな萎縮効果をもたらすのは必然です。

『有無をいわさず従わせていく』という意味で、思想の強制といえます。また、現時点では教員に限られていますが、その人数は多く一般的な職業であることや、教育現場という広く国民に関わる場であることを考えれば、このような情報収集は、憲法19条で『国家が思想を強制してはならない』とした歴史的意義を無視したものであり、思想良心の自由を危機的な状況に陥らせるものと言わざるをえません」

折しも、政治の世界では「憲法」のあり方に注目が集まっているが、思想・良心の自由(19条)は信教の自由(20条)や表現の自由(21条)とならんで、個人の精神活動に関するものとして重視されている人権だ。これを機に、思想・良心の自由が憲法で保障されている意味を考えてみてもいいのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

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