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ネット中傷と炎上、ときにユーザーは「だんまり」を…SNS社会に求められる「観客」の態度
2023年01月11日 10時27分

インターネットの中傷や炎上に巻き込まれたとき、自身の名誉回復のために、権利侵害した相手を裁判に訴えることも可能だが、「その被害を最小限に食い止めるという観点」においては、かならずしも、それが適切なやり方とは限らない。そのような場合、ネット上の「観客」には冷静な振る舞いがもとめられる。当たり前のことだが、オンラインで目立つ投稿のすべてが「事実」であるわけではないからだ。(編集部・塚田賢慎)

インターネットの中傷や炎上に巻き込まれたとき、自身の名誉回復のために、権利侵害した相手を裁判に訴えることも可能だが、「その被害を最小限に食い止めるという観点」においては、かならずしも、それが適切なやり方とは限らない。そのような場合、ネット上の「観客」には冷静な振る舞いがもとめられる。当たり前のことだが、オンラインで目立つ投稿のすべてが「事実」であるわけではないからだ。(編集部・塚田賢慎)

●容易ではない炎上後の被害回復

ネットのトラブルについて清水陽平弁護士の元には多くの相談が寄せられる。

特定の匿名アカウントから粘着され続けた企業のケースでは、法的措置の考えを示す声明を出したところ、名乗りをあげた投稿者から謝罪があった。

まったくのデマで、自身に非がないようなケースでは、この手法に一定的な効果がのぞめると言える。

ただ、危害予告を受けているような場合など、緊急性が高いときには、匿名の投稿者を特定する必要もあり、声明や警告文を出すより先に、法的手続きや、警察への被害届提出を進めておくという。

「声明にまったく効果がない相手や、いったんはやめても再度続けるおそれがあるとき、あるいは精神的な疾患をもっていて、法的な強制力がないと投稿をやめないような相手もいるためです」(清水弁護士)

個人でも声明を出すことはあり、すでに炎上が終わったあとでも、今後の安定した活動のため、誤った認識をただしたいというのが理由だ。

ただ、それは一定の発信力があり、社会的に注目を集める人にとっては効果があるものの、発信力のない「一般人」にとって、炎上後の被害回復はなかなか簡単ではない。

炎上する前に食い止めることが肝心だ。

●当事者と観客の「だんまり」が炎上防止にもっとも効いた

最近では、Googleマップの書き込みで、病院や飲食店がいわれのない「悪口」を投稿されるケースも目立つ。

「治療内容への批判であれば、どの患者かわかる場合もあります。開示請求せずとも、相手に直接会って交渉し、削除してもらうこともあります」(清水弁護士)

また、ある作家の女性は、作家とファンとして知り合った元友人とのトラブルをきっかけに、ストーカー、脅迫など違法な行為に関わっているなどの事実無根の指摘をツイッター上で受けたという。デマ投稿は毎日続いたが、女性はネット上で一切の反論をせず、警察と弁護士に相談して、書き込みを削除させた。

名誉毀損を問うための民事訴訟も検討したが、着手していない。もしも敗訴すれば、より悪質なかたちで投稿が継続するリスクがあったからだ。自らに違法性がないことの証明は、警察の聴取記録に残ったことでよしとした。

「炎上を防ぐため、もっとも効果的」だったのが、女性自身の表向きの「だんまり」と、共通の知人たちの「だんまり」だったという。

元友人をフォローしているアカウントのうち、女性とオフラインでも交流のある数人に対して、個別に「事実無根の投稿であり、静観していてほしい」と説明した。また、交流がないフォロワーからも、DMで質問された場合には、同様の説明をしたという。結果、元友人の投稿に対して、目立った反応は誰もしなかった。

清水弁護士は「小さいコミュニティだからこその取り組みですが、周囲の方が同意・同調せず、話題にのらないだけで炎上への抑止力になります」と話す。

●身につけたいネットリテラシー「ネットにある情報がすべてではない」

ネット上の「事実」は、ときに真実でないことがある。ネットで気になる投稿を見つけたときに、一人ひとりの「観客」はどのような態度でいるべきか。

「インターネット上で出てきたものを話題にしてはいけないなどとは当然言えません。ただ、片方の主張のみに乗って、発信やリツイートなどすると、もう片方からは『虚偽だから責任追及しよう』という機運になりがちです。感想を述べるのは自由だけど、一方の主張だけ書くのはリスクが高いと覚えておいたほうがよいでしょう」(清水弁護士)

先ほどの女性のケースでは、「だんまり」を維持する女性に対し、元友人は「表に出ろ」「正しいと思うなら堂々と主張すればいい。できないのなら嘘つきだ」などとネットで挑発を繰り返したという。

「観客」は、もう一方が黙っているとき、声の大きい側の挑発に引きずられるように、不公平なジャッジに流されていないだろうか。

被害をなんとか抑えたいなどのさまざまな事情から、あえて黙る人、黙らざるをえない人もいる。

なるべく両方の発信を見比べて、真偽や善悪を判断しようという当然の考えに「観客」が思い至ったとき、しかし、その「観客」のためにネット上に必ずしも両方の意見が揃っているわけでは決してない。

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