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長い踏切を渡りきれず、おばあさんが死んだ――鉄道の管理者に責任はないのか?
2014年02月21日 14時30分

東京都足立区の踏切で、70代の女性が電車にはねられ、亡くなるという痛ましい事故が発生した。悲劇が起きたのは2月6日の夜。女性は足を引きずりながら歩いていたとのことで、警察は「はねられたのは踏切を渡りきれなかったから」と見ているという。

報道によると、現場の踏切には合計5本の線路が走っており、渡りきるまでの距離が20メートル以上もある。その一方で、遮断機が上がってから下りるまで、通行可能な時間はわずか30秒程度だったとされる。どうやら足の悪い高齢者にとって、やさしい環境ではなかったようだ。

高齢者が渡りきれないような踏切を設置した鉄道会社や、道路を管理する行政側に、何らかの責任はないのだろうか。被害者の遺族は、踏切の設置者や管理者に対して、損害賠償を請求できないだろうか。鉄道問題にくわしい前島憲司弁護士に話を聞いた。

東京都足立区の踏切で、70代の女性が電車にはねられ、亡くなるという痛ましい事故が発生した。悲劇が起きたのは2月6日の夜。女性は足を引きずりながら歩いていたとのことで、警察は「はねられたのは踏切を渡りきれなかったから」と見ているという。

報道によると、現場の踏切には合計5本の線路が走っており、渡りきるまでの距離が20メートル以上もある。その一方で、遮断機が上がってから下りるまで、通行可能な時間はわずか30秒程度だったとされる。どうやら足の悪い高齢者にとって、やさしい環境ではなかったようだ。

高齢者が渡りきれないような踏切を設置した鉄道会社や、道路を管理する行政側に、何らかの責任はないのだろうか。被害者の遺族は、踏切の設置者や管理者に対して、損害賠償を請求できないだろうか。鉄道問題にくわしい前島憲司弁護士に話を聞いた。

●国交省が「指針」を出している

「損害賠償を請求するとすれば、その根拠は、民法上の不法行為責任になると思います。その場合、渡りきるには時間が短すぎる踏切をそのまま放置したことが、『注意義務違反』にあたるかどうかが問題になります」

なにか、それを判断するための基準のようなものはあるだろうか?

「踏切の警報時間などについて、鉄道会社や道路管理者向けの指針として、国交省から『鉄道に関する技術上の問題に関する省令』と、その解釈基準が出されています。

それによると、警報開始から遮断終了まで15秒を標準とすること、遮断終了から列車の通過までは20秒を標準とするとされております。

この解釈基準は通達であり法的拘束力はありませんが、鉄道会社や道路管理者に一定の指針を与えています」

この基準に従っていればOKなのだろうか?

「私見ですが、民法の解釈としては、省令の基準を満たしている限り、鉄道会社や道路管理者は注意義務を尽くしていると言え、不法行為責任を根拠に損害賠償請求をすることは難しいでしょう。

ただし、この基準は、時速5キロメートルで歩くことを前提にしていると言われており、高齢者などには非現実的という指摘もあります」

●解決が難しい「開かずの踏切」問題

それなら基準を改定するべきなのでは?

「ところが、問題があるからといって、ただちに高齢者に合わせた基準に改定することはできません。

高齢者がゆっくり渡れる時だけしか踏切を開けられなくなれば、『開かずの踏切』が増えてしまいます。そうなれば、踏切が交通設備として機能しなくなってしまうでしょう」

実は、事故が起きた踏切も、ピーク1時間あたりの遮断時間が40分以上になる「開かずの踏切」として認定されていたという。遮断時間が短かったのは、そのような事情もあるのかもしれない。あちらを立てればこちらが立たず、ということのようだ。

前島弁護士は「高齢者への配慮と、交通設備としての踏切の社会的機能。この2つをどう両立させていくかは、本当に難しい問題です。今回のような事故をどう防いでいくのか、社会的議論を煮詰めていく必要があるのではないでしょうか」と指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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