14427.jpg
ろくでなし子事件で注目される「わいせつ」とは何か? 参考にすべき3つの最高裁判例
2014年08月17日 14時15分

女性器をテーマにした作品をつくって世に問うてきた芸術家「ろくでなし子」さんが7月中旬、警視庁に逮捕された事件は、社会に大きな波紋を広げた。自らの女性器をスキャンし、3Dプリンタで出力するためのデータを送信した行為が、「わいせつ電磁的記録媒体頒布罪」に該当するとされたのだが、起訴に至らぬまま釈放された。

釈放後の記者会見で、ろくでなし子さんは「自分の性器を『わいせつ』だと思っていません」と述べ、犯罪行為はしていないと強調した。この発言を受けて、ネットでは「わいせつとは何か」の論争が起きた。「性器はわいせつだ」「芸術だからわいせつではない」と賛否両論が飛び交っている。

「わいせつ」をどうとらえるかは人それぞれだろうが、刑事事件として重要なのは、裁判所がわいせつについて、どう考えているのかという点だ。そこで、「わいせつ」の定義をめぐって争われた、3つの代表的な最高裁判例を振り返ってみよう。

女性器をテーマにした作品をつくって世に問うてきた芸術家「ろくでなし子」さんが7月中旬、警視庁に逮捕された事件は、社会に大きな波紋を広げた。自らの女性器をスキャンし、3Dプリンタで出力するためのデータを送信した行為が、「わいせつ電磁的記録媒体頒布罪」に該当するとされたのだが、起訴に至らぬまま釈放された。

釈放後の記者会見で、ろくでなし子さんは「自分の性器を『わいせつ』だと思っていません」と述べ、犯罪行為はしていないと強調した。この発言を受けて、ネットでは「わいせつとは何か」の論争が起きた。「性器はわいせつだ」「芸術だからわいせつではない」と賛否両論が飛び交っている。

「わいせつ」をどうとらえるかは人それぞれだろうが、刑事事件として重要なのは、裁判所がわいせつについて、どう考えているのかという点だ。そこで、「わいせつ」の定義をめぐって争われた、3つの代表的な最高裁判例を振り返ってみよう。

●チャタレイ事件(最高裁昭和32年3月13日大法廷決定)

チャタレイ事件は、イギリスの小説『チャタレイ夫人の恋人』を、1950年に日本で出版した出版社の社長と、小説を翻訳した翻訳家が「わいせつ物頒布罪」に問われた裁判だ。

もともと『チャタレイ夫人の恋人』は、イギリスの小説家D・H・ローレンスが1928年に発表した小説。戦傷により半身不随となった貴族の妻が、領地で森番をしている男と恋に落ちるという内容だ。当時としては露骨な性描写で、本国イギリスでも物議をかもした。

この裁判で示されたのが、次の「わいせつ3要件」という基準だ。

(1)いたずらに性欲を興奮または刺激すること

(2)普通人の正常な性的しゅう恥心を害すること

(3)善良な性的道義観念に反すること

この3要件の判断方法について、最高裁は、その時々の「社会通念」にしたがって、裁判官が行うとしている。

つまり、写真や小説が「わいせつ物」かどうかは、裁判官がこの3つの要件に当てはめて考えるということだ。

最高裁は1957年、『チャタレイ夫人の恋人』について、この基準に照らして「わいせつ」文書だと判断し、翻訳家と出版社社長を有罪とした。その後、『チャタレイ夫人の恋人』は問題の部分を伏字にして出版された。最高裁決定から約40年後の1996年、ようやく完訳版が新潮文庫として発行された。

●悪徳の栄え事件(最高裁昭和44年10月15日大法廷判決)

この事件も、小説がわいせつ物にあたるかどうかが争点だった。

問題とされたのは、フランスの小説家マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』。修道院で育てられた敬虔な13歳の少女が、ある女性にそそのかされて、悪行と淫蕩の生涯を送るという内容だ。

こちらも、出版社社長と翻訳者が「わいせつ物頒布罪」で起訴され、最高裁で有罪が確定した。

最高裁はこの裁判で、先ほどのわいせつ3要件をふまえたうえで、さらに踏み込んで、「わいせつ」かどうかは一部の表現だけでなく、「文書全体との関連において判断されなければならない」と述べ、注目を集めた。

●メイプルソープ事件(最高裁平成20年2月19日第三小法廷判決)

こちらは、出版社社長が、アメリカから日本に帰国する際に持っていた写真集が、東京税関から「輸入禁制品」の「風俗を害すべき図画」だと通知された事件だ。社長は、通知の取り消しと国家賠償を求めて、国を相手に裁判を起こした。

問題とされたのは、花やヌードのモノクロ写真で知られるアメリカの写真家ロバート・メイプルソープの作品集『MAPPLETHORPE』。その中には、男性の性器を正面から写した作品もあった。

なお、この裁判では「関税定率法」の規定が問題とされたが、この法律の「風俗を害すべき」というのは「刑法のわいせつと同じ意味だ」と考えられている。

最高裁判決は、写真集の作品について「いずれも性器そのものを強調し、その描写に重きを置く」写真だと認定する一方、次のような点を指摘した。

(1)メイプルソープは写真による現代美術の第一人者として、美術評論家から高い評価を得ていた。

(2)『MAPPLETHORPE』は、写真芸術や現代美術に高い関心を持つ者に購読、鑑賞されることを予定していた。

(3)写真集全体に対して、性器を写した写真の占める比重は低かった(384ページ中19ページ)。

最高裁は結局、写真集には「芸術性など性的刺激を緩和させる要素」が存在し、「写真集を全体としてみた」場合、「見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難」として、この作品集を「風俗を害すべき図画ではない(わいせつではない)」と判断した。

●「わいせつ」をめぐる裁判は他にもたくさん・・・

特に有名な3つを紹介したが、わいせつをめぐる裁判は他にも多数存在する。「何がわいせつなのか」「どんなものを、なぜ規制すべきなのか」といった論点について考える際には、過去の裁判で示された判断が参考になるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る