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防衛研究所職員の報告書「盗用に当たらず」国の控訴棄却…休業損害も一部認める  東京高裁
2022年05月11日 16時45分

防衛省防衛研究所の女性事務官が、内部資料の報告書を書く際、ほかの研究者の研究報告を「盗用した」とされ、訓戒処分を受けたのは違法だとして、国を相手に訴えていた裁判の控訴審判決が5月11日、東京高裁であった。

東京高裁の村上正敏裁判長は、女性事務官に対する処分の違法性を認め、国に対して、防衛研究所のホームページに掲載されている「防衛研究所職員による研究活動の不正行為について」という原告に関する記事の削除と慰謝料110万円の支払いを命じた一審判決を支持。国側の控訴を棄却した。

さらに、休業損害の請求が認められるとして、原告側の附帯控訴を一部認容。国に対して、6カ月分の休業損害として約84万円の支払いを命じた。

原告の岩田英子さんは、判決後に開かれた会見で、「私の不正がないとして、控訴が棄却されるのみならず、私からの附帯控訴も認められたことはとてもありがたいです。司法を信じてよかったです」と話した。

防衛省防衛研究所の女性事務官が、内部資料の報告書を書く際、ほかの研究者の研究報告を「盗用した」とされ、訓戒処分を受けたのは違法だとして、国を相手に訴えていた裁判の控訴審判決が5月11日、東京高裁であった。

東京高裁の村上正敏裁判長は、女性事務官に対する処分の違法性を認め、国に対して、防衛研究所のホームページに掲載されている「防衛研究所職員による研究活動の不正行為について」という原告に関する記事の削除と慰謝料110万円の支払いを命じた一審判決を支持。国側の控訴を棄却した。

さらに、休業損害の請求が認められるとして、原告側の附帯控訴を一部認容。国に対して、6カ月分の休業損害として約84万円の支払いを命じた。

原告の岩田英子さんは、判決後に開かれた会見で、「私の不正がないとして、控訴が棄却されるのみならず、私からの附帯控訴も認められたことはとてもありがたいです。司法を信じてよかったです」と話した。

●事案の概要

判決などによると、問題となったのは、岩田さんが2015年度に単独で担当した特別研究の報告書「諸外国における女性軍人の人事管理等」。この内容について「2013年度の報告書から不適切な利用があるのでないか」という通報が防衛研究所にあった。

通報を受けた防衛研究所は、内部で予備調査、調査委員会による本調査を実施。調査委員会は岩田さんの行為が「盗用」であり、「研究活動に係る不正行為」に該当すると判断した。

同研究所は2016年10月に公式ホームページで、この「不正行為」を公表。2017年3月に岩田さんを訓戒処分とした。

●裁判所の判断

岩田さんは2017年1月、国を相手どり、名誉毀損されたなどとして提訴。裁判では、岩田さんに対する訓戒処分およびその公表に違法性がなかったかなどが争われた。

一審・東京地裁は、「特別研究の報告書」について、防衛省の内部の政策立案のため職務上作成される内部資料であり、防衛研究所長に対する報告も、職務上の成果を上司に提出・報告する性質のものと認定。国側が主張していた盗用の対象となる「発表された研究成果」とは認めなかった。

また、岩田さんは、特別研究の報告書は対外的に公表されるまでは防衛省の内部資料であり、他の特別研究の報告書の内容を引用する場合に表示をしなくとも、「盗用」には当たらないとの認識を有していたと認定。「報告書を引用する際に必ずしも表示しなくてよい」と考えていたことには合理的な根拠があり、岩田さんの行為は故意によるものではないとした。

そのうえで、岩田さんの行為について、防衛研究所長が盗用による「研究活動に係る不正行為」に該当することを理由に、この件を公表をおこなったことは、職務上の注意義務に違反する」と結論。慰謝料等110万円の支払いやホームページの記事削除などを命じた。

一方、公表や訓戒処分によって休職を余儀なくされたとして原告側が求めていた休業損害や、謝罪広告の掲載については認めなかった。

二審・東京高裁も、一審判決を支持し、国側の控訴を棄却。謝罪広告の掲載は認めなかったが、原告側の附帯控訴に基づき、6カ月分の休業損害として約84万円の支払いを命じた。

●「報復人事がないことを信じている」

岩田さんは、2020年6月1日付けで休職から復帰。防衛研究所のホームページ上でも研究者として紹介されている。

しかし、休職前に用意されていた研究室は当てがわれず、ほとんどの防衛研究所の研究者等がいる建物とは別の建物内の「図書室」で勤務させられており、防衛研究所の研究業務からも外されているという。

岩田さんは、一審判決に続き、不正だと認めなかった二審判決について、「司法を信じてよかったです」と語った。

「控訴審判決においても私が不正をしていないことが認められましたから、これを支えに研究を頑張ります。ほとぼりが覚めた頃に報復人事が私に対してなされるのかもしれませんが、そういうことはないと信じたいです」(岩田さん)

岩田さんの行為を不正だったとする記事は、現在も防衛研究所のホームページ上で公表されている。

岩田さんの代理人を務める水野泰孝弁護士は「防衛研究所は危機管理のシンクタンクとして、問題をうやむや・先送りにせずに、なすべき対応を速やかに取られるものと信じています」と話した。

●防衛省のコメント

防衛省報道室は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「本訴訟については国の控訴を棄却し、一審原告の請求を一部認める判決が言い渡されました。今般の判決は、国の主張が認められなかったものと受け止めています」と話した。

(5月12日17時00分、防衛省のコメントを追記しました)

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