14748.jpg
判決朗読で「主文後回し」は死刑のサイン?最後に「刑」を言い渡す理由を弁護士が解説
2016年01月02日 09時23分

「主文は理由を述べた後に言い渡します」。裁判長は冒頭でこう述べたあと、判決の言い渡しをはじめたーー。愛知県碧南市で1998年に起きた夫婦殺害事件で、強盗殺人罪などに問われた堀慶末(よしとも)被告人(40)の判決公判での一幕だ。

12月15日の判決では、事件当日の夕方、堀被告人が共犯者2名とともに、強盗目的で無施錠の夫婦宅に侵入し、自宅にいた妻と、翌日未明に帰宅した夫をあいついで絞殺し、現金6万円を奪ったことなどを認定。景山裁判長は「生命軽視は甚だしい」として、検察の求刑通り、死刑を言い渡した。

判決公判が始まり、主文が後回しになったことがわかると、「厳しい判決が予想される」などとして、大きく報じられることが多い。判決において、主文を後回しにすることは、どんな意味があるのだろうか。刑事手続に詳しい萩原猛弁護士に聞いた。

「主文は理由を述べた後に言い渡します」。裁判長は冒頭でこう述べたあと、判決の言い渡しをはじめたーー。愛知県碧南市で1998年に起きた夫婦殺害事件で、強盗殺人罪などに問われた堀慶末(よしとも)被告人(40)の判決公判での一幕だ。

12月15日の判決では、事件当日の夕方、堀被告人が共犯者2名とともに、強盗目的で無施錠の夫婦宅に侵入し、自宅にいた妻と、翌日未明に帰宅した夫をあいついで絞殺し、現金6万円を奪ったことなどを認定。景山裁判長は「生命軽視は甚だしい」として、検察の求刑通り、死刑を言い渡した。

判決公判が始まり、主文が後回しになったことがわかると、「厳しい判決が予想される」などとして、大きく報じられることが多い。判決において、主文を後回しにすることは、どんな意味があるのだろうか。刑事手続に詳しい萩原猛弁護士に聞いた。

●被告人の動揺を防ぐため

「刑事訴訟規則35条2項には『判決の宣告をするには、主文および理由を朗読し、または主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない』と定められていますが、主文と理由の『朗読の順序』については、特にルールが設けられているわけではありません」

萩原弁護士はこのように切り出した。

「刑事裁判の判決は、『主文』で被告人に科される刑の内容を示し、『理由』で主文を導き出した具体的な根拠を説明します。

ほとんどの刑事事件の判決では、裁判官は(1)主文→(2)理由の順に朗読しますが、例外的に『主文』が後回しにされ、『理由』を先に読み上げることがあります。

それは、今回の判決のように『死刑』を言い渡すような場合です」

なぜ、死刑判決の場合、主文を後回しにするのだろうか。

「もし死刑判決の冒頭に『主文』を言い渡すと、死刑を宣告された被告人が動揺してしまい、引き続いて朗読される『理由』などを落ち着いて聞いていられなくなる恐れがあるからです。

判決の言渡しは、被告人にその内容を理解させることが目的です。裁判所がどのような理由で、どのように判断したのかということを被告人が十分に理解することで、判決に服するか否か、その判決に対する態度を決めることができるからです」

●死刑以外でも「主文後回し」になることがある

ただ、「死刑イコール主文後回し」が慣行になると、「主文後回し」になった時点で、被告人は「死刑」とわかってしまうのではないだろうか。

「そうした事態を回避するために、『無期刑』を言い渡す場合も、主文後回しにすることがあります。主文後回しであっても、必ずしも死刑とは限らず、無期刑の場合もある、というのが最近の傾向でしょう。

また、執行猶予が付く判決の場合でも、まれに主文を後回しにすることがあります。それは、執行猶予か実刑か微妙な事案です。

このような事案は、裁判官が様々な点について考慮を巡らしたうえで、かろうじて実刑を回避したということが言えます。裁判官としては、被告人の社会での更生に不安と期待が入り混じった心境にあると思われます。

それだけに、裁判官は、被告人が『執行猶予になった理由』を十分に理解して、二度と犯罪に陥ることがないように、強く願っていると思われます。その場合、初めに『執行猶予』ということが被告人に分かってしまうと、その時点で、被告人は『実刑を免れた』ということで安心してしまい、『理由』の朗読を真剣に聞かなくなってしまう可能性があります。

裁判官がぎりぎりの判断で、被告人を刑務所に行かせることを思いとどまった。そのことを被告人が真剣に受け止めて更生してほしい。そんな裁判官の思いが、通常とは違って『理由』から朗読して『主文』に至るという順序に現れている、と考えられます」

萩原弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る