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「子どもの未来を守るために」 紙芝居で「憲法の大切さ」を伝える若手弁護士たち
2013年10月30日 15時30分

憲法改正を公約とする安倍政権のもと、これまでになく憲法の改正に向けた機運が高まっている。与党・自民党は昨年4月に独自の憲法改正草案を発表しているが、その内容は現行憲法よりも個人の自由を制限する色彩が強いと指摘されている。そんな改憲案に危機感を抱いた若手弁護士たちが今年1月、「明日の自由を守る若手弁護士の会」を結成した。

同会は、弁護士登録15年目までの若手弁護士たちで構成され、地域での学習会や講演で、近代憲法のエッセンスである「立憲主義」(憲法にもとづいて、国民が権力をコントロールするという考え方)をわかりやすく伝える活動をしている。

親しみやすいイラストの紙芝居「王様をしばる法~憲法のはじまり~」を使った憲法解説など、若手らしい柔軟な発想による活動が話題を呼び、メディアでもたびたび紹介された。その活動について、同会共同代表で元弁護士(育児のため休業中)の黒澤いつきさんに聞いた。

憲法改正を公約とする安倍政権のもと、これまでになく憲法の改正に向けた機運が高まっている。与党・自民党は昨年4月に独自の憲法改正草案を発表しているが、その内容は現行憲法よりも個人の自由を制限する色彩が強いと指摘されている。そんな改憲案に危機感を抱いた若手弁護士たちが今年1月、「明日の自由を守る若手弁護士の会」を結成した。

同会は、弁護士登録15年目までの若手弁護士たちで構成され、地域での学習会や講演で、近代憲法のエッセンスである「立憲主義」(憲法にもとづいて、国民が権力をコントロールするという考え方)をわかりやすく伝える活動をしている。

親しみやすいイラストの紙芝居「王様をしばる法~憲法のはじまり~」を使った憲法解説など、若手らしい柔軟な発想による活動が話題を呼び、メディアでもたびたび紹介された。その活動について、同会共同代表で元弁護士(育児のため休業中)の黒澤いつきさんに聞いた。

●目が飛び出るくらいに衝撃を受けた自民党の「憲法改正案」

「これは憲法じゃない、日本は民主主義じゃなくなるのではないかと、目が飛び出るくらいに衝撃を受けました」

自民党が発表した改憲案を初めて見たときの感想を黒澤さんはこう語る。

「改憲案の13条と21条に書かれた『公益および公の秩序』という言葉によく表れています。この言葉のもと、国家が国民の基本的人権を制約するようになるんだな、と。『憲法は国民が国家などの権力を縛るもの』という近代の常識では考えられないことです」

改憲案をこのように受け止めた黒澤さんは、昨年12月の衆院選で自民党が政権に復帰すると、すぐに動いた。

「朝のニュースを見て、自民党の政権復帰を知ったとき、『ああ、憲法が変えられる』と恐怖を感じたことを覚えています。そしてすぐに自分の子どもの顔が頭をよぎりました。この子の未来を守るために自分が何かしなければ、と」

●まずは憲法について「知ってもらう」

黒澤さんは、かつての弁護士仲間に連絡をとり、そして同会を結成することになった。

「多かれ少なかれ法律家たちは、衝撃を持ってこの改憲案を受け止めていたはずですから。世論はそれほど関心を示さず、メディアも沈黙しているように感じて、焦りもありました」

まずは、憲法やその背景にある「立憲主義」という考え方について、『知ってもらうこと』から取り掛かった。改憲案をダイジェストで伝えるリーフレット(冊子)を作成し、現在までに約15万部を販売したという。さらに、学習会や講演で説明するときに使えるように、わかりやすい「紙芝居」も作った。

「リーフレットも紙芝居も意識したのは、とにかくかわいいイラストと、かみくだいた言葉で誰にでも伝わるものを作ることです。紙芝居のストーリーも、独裁的な王様を市民が倒して、人権について定めた憲法をつくるという、近代市民革命そのものをモチーフにして、立憲主義を理解できるように工夫しました。

たとえば、紙芝居には2つの憲法を登場させています。1つ目の憲法では、表向き人権は保障されるけど、実は権力側の都合で表現の自由などを縛ることができるというもの。自由を手に入れた市民は最初喜ぶけど、徐々に権力側の都合でその自由が制約されていく。

このワンクッションをおくことで、『憲法は政府の権力を縛るものでないと意味がない』ということを自然に理解できるような流れにしています」

●これからの日本を引っ張る世代にこそ伝えたい

最初は会員を中心に配布していた紙芝居だが、今はメールからの申し込みがあれば、一般にも配布している。全国の9条の会をはじめ、小学校のPTAの役員、教会の神父など、これまで400を超える申し込みがあったという。また、紙芝居にナレーションをつけた動画もインターネットで公開されている。

「幅広い世代の人に私たちの活動に触れてもらえることはうれしい。でも、私たちが一番意識しているのは20~40代くらいの世代です。政治に関心が薄い世代だと言われていますが、これからの日本をけん引する世代であり、子育て世代でもある。子どもたちの未来を守りたいという共通の願いを持っているはずです。だからこそ、同じ目線で語ることのできる同世代の若手弁護士で会を構成しています」

若手弁護士だけで運営する狙いはこれだけではない。世代交代が思うように進んでいない従来の護憲運動に対して、自分なりに新しい形で継承したいという思いもあったという。

「長年、護憲運動の先頭に立ってこられた大先輩の方々からすれば、私たちの紙芝居やリーフレットには、もしかしたら違和感を感じられるかもしれません。『説明が粗い』とか(笑)。でも、現場では好評を得ることができて、私たちなりの役割は果たせているかなと思います。

今回の改憲案は、憲法そのもののあり方に関わるレベルの内容です。9条にのみフォーカスを当てた運動では、改憲案の本当の怖ろしさを知ってもらえない。ですから、若手なりに柔軟な発想で動いて、憲法を多角的に発信できるような会を目指したのです」

同会には、10月上旬の段階で全国の267人の弁護士が参加している。改憲をめぐる議論が続く中、黒澤さんたちの新しい活動は、多くの国民にとって遠い存在だった「憲法」との距離を少しずつ縮めていくかもしれない。

【取材協力】

黒澤 いつき(くろさわ・いつき)

62期。日の丸君が代強制違憲訴訟弁護団、七生養護学校事件弁護団、首都圏青年ユニオン顧問弁護団等に参加。2011年末日で弁護士登録抹消。しばらくは育児に専念するつもりだったが、2013年1月「明日の自由を守る若手弁護士の会」(http://www.asuno-jiyuu.com/)設立に参加。共同代表。

(弁護士ドットコムニュース)

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