古代の権力者が築いた墳墓を「古墳」といいますが、特許庁の公開情報によると、「古墳」という文字列を含む商標の登録が今年3月にされていたことがわかりました。
出願したのは、古墳型の墓の企画などを手がける「株式会社前方後円墳」の代表、竹田恒泰さんの事務所です。出願区分は、墓地や納骨堂の提供などを含む「45類」となっています。
株式会社前方後円墳は今年5月1日、新たな「古墳」の商標登録を出願しています。
こうした歴史用語を商標登録することは可能なのでしょうか。知的財産法にくわしい齋藤理央弁護士にポイントについて解説してもらいました。
●「お菓子」などの分野でも「古墳」の商標登録
——商標登録を検索できるサイト「J-PlatPat」で「古墳」を検索すると、別の企業もお菓子などの「30類」で商標登録をしているようです。一般にも広く使われている歴史用語を商標登録することは可能なのでしょうか。
商標法は「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)は商標登録できないと定めています。わかりやすく言えば、「誰のサービスや商品なのかがわからないような商標」はダメということです。
そもそも商標は、商品やサービスの出所や品質を明らかにするためのものです。
「何人かの業務に係る商品又は役務であること」というのが出所を示す機能ですが、この機能も現代では結局、消費者に品質を示す機能が強くなっているとも言われています。
つまり、知っているブランドであれば、だいたいこんな品質ではないかと消費者が買う前に予測がついて安心して買うことができます。
ただし、消費者はその前提で特定の事業者が販売しているというところを判断材料にしており、そのために「何人かの業務に係る商品又は役務であること」が重要ということになります。
消費者が別の商品やサービスと見分けがつかないようなありふれたマークや商品名、サービス名だと、結局、他の商品やサービスと区別をつけられないので、そんな商標を登録しても意味がありません。
商標には、識別機能、つまり他の事業者が取り扱っているブランドと見分けがつく程度の特徴が必要になります。
たとえば、お菓子を「お菓子」という商品名で売っても、どのメーカーが販売しているお菓子なのか区別できないため、商標登録できないことになっています。
逆に、お菓子に「古墳」と表示してあると「古墳」という変わった商品名のお菓子だということで、消費者にとって、他のお菓子と区別をつける特徴になります。
このように一般にも広く使われている「古墳」などの歴史用語でも、お菓子の商標として登録するなど、特徴的な使い方をするのであれば、商標登録が認められることになります。
●一度は拒絶された「古墳」、いったいなぜ?
——2024年1月、「45類」で「古墳」の商標登録の出願がされていますが、拒絶されています。これはなぜなのでしょうか。
問題の商標は、商標法3条1項6号に該当するものとして拒絶理由通知を受けたあと、拒絶査定をされています。
つまり、「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」として登録を拒絶されています。
特許庁の拒絶理由通知書によると、古墳状に土を盛った形状のお墓がすでに販売されているため、「古墳」という名称のお墓を販売していても消費者は誰が販売している古墳状のお墓かまでは区別できないため商標登録することは難しいと判断したようです。
——一方で、竹田氏の会社は今年3月、やはり「45類」で別の「古墳」を商標登録しています。また、新たに「古墳」の商標を出願していますが、これは以前拒絶されたものとどのように異なるのでしょうか。
特許庁の指摘を受けて、単なる名称としての「古墳」ではなく、デザイン性のあるマークを付して出願登録されているようです。
単に商品名を古墳にするのではなく、デザイン性のある古墳マークであれば、消費者もあのマークの「古墳」は、古墳型のお墓の中でも、特定の事業者の提供する古墳型のお墓だと区別できることも多いでしょう。
ですので、区別がつくようなデザイン性のあるマークを商標出願することで、商標に特徴を持たせ、識別力を与えることは合理的な狙いではないかと思います。