俳優の広末涼子さんが傷害罪の疑いで現行犯逮捕された。報道によると、広末さんは静岡県島田市の病院で、看護師の女性を蹴ったり、引っかいたりしてケガを負わせた疑いがあるという。
かつては、医療現場を舞台とした暴力が起きても「患者さま」と扱い、現場で対応する医療従事者が涙を飲んで耐えるケースもあった。
しかし、現在では、警察に通報するなど毅然とした対応に変わりつつある。そうしなければ、医療従事者が離職するなど、地域医療の根幹にかかわるからだ。
医療現場のカスハラにくわしい専門家は「今回のような暴力事件は日々、全国で起きている」と指摘する。
そのうえで「医療現場の直接的な暴力だけでなく、暴言などのカスハラ(ペイシェントハラスメント)はいかなる場合も許されるべきではない」として、迷惑行為に厳しく対応すべきだとうったえている。
●事件が起きた静岡県も「カスハラ防止条例」制定に動いている
広末さんは事務所の公式サイトを通じて、「4月8日静岡県内にて本人が運転する車による交通事故を起こし、搬送先の病院において一時的にパニック状態に陥った結果、医療関係者の方に怪我を負わせてしまいました」と報道内容を認めた。
交通事故について事情を聴くため病院にいた警察官に現行犯逮捕されたようだ。
サービスの現場における暴力やハラスメント「カスタマーハラスメント」の対策は、各地で広がっている。
今年4月から東京都などでカスハラ防止条例が施行され、広末さんが事件を起こした静岡県でも条例制定に向けた取り組みのスタートが先月発表されたばかりだ。
カスハラの中でも、とりわけ医療現場における「エッセンシャルワーカー」に対する暴力・ハラスメントは深刻だ。
厚労省は「医療現場における暴力・ハラスメント対策は、医療従事者の離職防止、勤務環境改善の観点からも近年重視されている」と指摘する。
過去の「過労死白書」でも、「医療分野における労災認定事案のなかで、患者からの暴言・暴力やハラスメントによるストレスが要因と考えられる看護職員の精神障害の事案」が多いとされる。
交通事故を起こしてしまった広末さんがパニック状態にあったという事情があったとしても、その衝動を生身の人間である看護師にぶつけてよい道理はない。
●半数近い医療従事者が「カスハラ被害」を経験
医療従事者に対するカスハラの問題にくわしい周将煥弁護士はこのように語る。
——医療現場の暴力やカスハラは全国でどの程度発生しているでしょうか。
さまざまな団体の調査結果が報告されていますが、たとえば、UAゼンセン・ヘルスケア労協共同調査「患者・利用者・家族からのカスタマーハラスメントに関するアンケート」(2023年)では、「患者・利用者・家族からの迷惑行為の被害」について、44.4%が「迷惑行為があった」と回答しました。
調査結果に表れていないものも含めれば、半数近い医療従事者がカスハラなどを経験している可能性もあります。
——医療現場における患者から医師や看護師や窓口担当者などへの暴力・ハラスメントに対する病院側の対応は、これまでと比較してどのように変わっていますか。
医療従事者は、肉体的・精神的に問題を抱える人を相手とした対応のプロフェッショナルですが、これが行き過ぎたことで、「患者からの迷惑行為をうまくさばけて一人前」という考えが蔓延してしまった現場もあったと聞きます。
しかし、昨今のカスハラ対策に関する活発な動きや、特に医療現場においてカスハラ問題が深刻化しているという調査結果もあり、カスハラ対策に力を入れる医療福祉施設も増えてきているように感じます。実際、マニュアルや掲示物、契約書等の整備や、研修の実施、その他カスハラ対策に関する相談、依頼も多くいただいております。
●迷惑客のカスハラや暴力から医師や看護師を守らない病院の責任が問われる時代
——患者からの暴力やカスハラに対して、医療側が警察に通報したり、治療拒否を宣言するなど、毅然とした対応をとるべきでしょうか。
前提として、正当なクレームについては、しっかりと耳を傾け、再発防止に向けて真摯に取り組むことが必要です。しかし、明らかに不当なクレームや違法行為に対しては、病院側が全体として毅然と対応するべきです。
使用者である病院は、労働者に対して職場環境配慮義務を負っており、適切に対応をしないことは使用者として義務違反にも問われかねませんし、当然医療従事者の離職にもつながる可能性はあると思います。