「貯めたお金、財産を持っていかれるのが法律婚だとしたら、持っていかれないのが事実婚なのかなとかは考えちゃったりします」ーー。11月4日の深夜に放送された日本テレビ系「上田と女がDEEPに吠える夜」で、タレントの大久保佳代子さんが、自身の結婚観について語りました。
番組のテーマは事実婚で、大久保さんは番組の中で、「この先パートナーができたとするじゃないですか」と切り出し「私に言い寄ってくる男性というのは、大体8割方(自分の)金目当て」と発言しました。大久保さんは、続けて冒頭の発言をしました。
多くの財産を築いている人の中には、近づいてくる異性が「金目当てではないか?」と思ってしまう方は少なくないかもしれません。実際、大久保さんが指摘するように「法律婚=財産を持っていかれる」、「事実婚=財産を持っていかれない」のでしょうか。
●結婚生活中の財産はどう管理されるのか
まず、結婚生活中に夫婦の財産がどのように管理されるのか、法的な側面と事実上の側面から見ていきましょう。
1)法律上の原則
法律婚の場合、民法は夫婦の財産について「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とする」と定めています(民法第762条第1項)。
つまり、結婚前から持っていた財産や、結婚後も自分の名義で得た財産は、原則として特有財産として個人のものとされるのです。
これに対し、夫婦のいずれに属するか不明な財産は、その共有に属するものと推定されます(民法第762条第2項)。この規定があるため、夫婦でお金の管理が一緒になってしまい、共有財産とみなされる不安を感じる方もいるかもしれません。
事実婚の場合でも、夫婦共同生活を営む実態があることは法律婚と変わりません。 先にあげた夫婦のいずれに属するか不明な財産について共有の推定が及ぶという規定についても、事実婚の場合にも類推適用されると考えられています(福岡地裁昭和30年9月29日など多数。「第3版 実務 相続関係訴訟(2020年6月、日本加除出版、田村洋三ら)」p144など参照)。
2)事実上の側面
もっとも、財産管理のあり方は、法律の規定だけでなく、夫婦間の考え方や生活実態に大きく左右されるはずです。法律婚という関係になったことで、事実婚の場合よりも「夫婦のものは共有すべき」という考えが強く働き、事実上、財産を共有・合算して管理するようになる可能性も否定できません。
大久保さんのように、パートナーの目的を疑うケースでは、たとえ法律上は特有財産とされていても、共同生活を送る中で財産を共有すべきという雰囲気が強まることに、懸念を感じているのかもしれません。
●離婚時、「財産分与」の仕組みは法律婚と事実婚で変わるのか
次に、もしパートナーと別れることになった場合の「財産分与」について見ていきましょう。
夫婦が離婚する際、婚姻期間中に共同で築いた財産は、原則として等しい割合で分け合う「財産分与」の制度があります(民法第768条)。この分与の割合は、夫婦の一方の能力や個性により財産が増加した場合には、その比率が変わることもあります。
事実婚の関係でも、夫婦共同生活の実態がある場合には、法律婚に準じて財産分与を求めることができます。裁判例でも、事実婚について財産分与の規定を類推適用しています(東京家裁昭和40年9月27日など多数)。
つまり、形式的には法律婚と事実婚で「財産分与」の有無が変わるわけではありません。
そうすると、財産を「持っていかれたくない」という点では、事実婚だからといって特有財産が守られるというメリットが法律婚と比べて大きいわけではないといえます。
ただし、事実婚の場合、そもそも「夫婦共同生活」といえる実態があったのかどうかという立証面で難しい部分があるため、結果として財産分与がされないケースが出てくる可能性はあります。
●財産がパートナーに「持っていかれない」ためにできること
以上のように、法律婚と事実婚とで、法的に厳密にみれば、財産管理について差はないものの、事実上法律婚の方が事実婚よりも財産を共有する方向に働く傾向はあるように思います。
いずれにしても、ご自身の財産を守るために最も有効な対策は、パートナーと結婚する前に、夫婦の財産の管理や分与について、自分たちでルールを定める「夫婦財産契約」を締結することでしょう(民法第755条)。
手続きとしては、法律婚の場合、婚姻前に契約書を作成する必要があり、登記をすると、第三者にも対抗できるようになります(民法第756条)。
事実婚の場合でも、夫婦財産契約の締結は可能とされていますが、法律婚の場合と異なり登記ができないため、証拠として確実に残すことを重視するのであれば、公正証書として作成することになるでしょう。
また、結婚前の財産が特有財産であることを明確にするため、財産の種類や金額、取得日などを記録し、客観的な証拠を保管しておくことも大切です。
さらに、結婚後も、自身の特有財産と共同で築く財産を明確に分けて管理し、その状況を記録しておくとよいでしょう。たとえば、それぞれの名義の口座を使い分けたり、生活費の負担割合なども明確にしておくといった対策が考えられます。
●対策を講じることで関係がギクシャクしないか
もっとも、こうした対策を厳密に進めようとすると、パートナーに「自分は信頼されていないのか」と感じさせてしまい、かえって関係に亀裂が入ることを心配される方も多いでしょう。
たしかに、結婚前に財産契約を持ち出すことには、ためらいを感じる方が少なくありません。ただ、お互いの財産を明確にしておくことは、必ずしも「疑っている」という意味ではありません。むしろ、「それぞれが築いてきたものを尊重し合う」「お互いの経済的自立を大切にする」という前向きな考え方として捉えることもできます。
パートナーとの話し合いの際には、「疑っているから」ではなく、「お互いが安心して関係を築くため」「将来のトラブルを避けるため」という観点から、前向きに提案してみるのも一つの方法でしょう。
また、すべてをガチガチに固める必要はありません。たとえば、「結婚前の財産だけは記録を残しておく」「それぞれの口座は残しつつ、生活費用の共同口座も作る」など、柔軟な対応を考えることで、関係を保ちながら一定の安心も得られるかもしれません。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)