コカインを所持し使用したとして、麻薬取締法違反の罪に問われている「日本駆け込み寺」元事務局長、田中芳秀被告人(44)の初公判が8月12日、東京地裁で開かれた。
弁護側は、事件発覚の発端となった警察官の職務質問が違法だったとして無罪を主張しており、裁判は長期化する可能性がある。
田中被告人は今年5月の逮捕まで、歌舞伎町での薬物蔓延や悪質ホスト問題に警鐘を鳴らし、筆者に対しても「相談者との距離に注意すべき」と語っていた。
にもかかわらず、今回、相談者と一緒にコカインを使用したとされており、初公判では、所持と使用について認めている。
支援者としての立場と行動の間にある落差は大きく、その影響は社会的にも無視できない。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●法廷で「大変反省しています」
田中被告人は開廷5分前に法廷に入り、傍聴席から向かって左側の被告人席に静かに座った。丸刈りに黒縁メガネ、ひげ面と以前と変わらぬ外見で、声には張りがあり、落ち着いた雰囲気だった。
「大変反省しています」
裁判官から起訴事実について認否を問われると、コカインの所持と使用については認めて、謝罪の言葉を口にした。
さらに発言を試みたが、審理の流れから認められず、詳しい心情や動機の表明は次回以降に持ち越された。
傍聴席には報道関係者や駆け込み寺関係者、一般傍聴人ら30人余りが集まり、注目度の高さを示していた。
なお、筆者も含め田中被告人にとって旧知の人間は多数いたはずだが、頭を下げるような仕草はなかったと記憶している。
●なぜ一線を守れなかったのか
報道によると、田中被告人は、相談者の女性と共にコカインを使用したとされる。彼のような支援者が個人的に相談者と連絡を取り合うことは、完全に「アウト」だ。
歌舞伎町は、日本最大の歓楽街としての魅力と同時に、薬物や搾取の危険が潜む場所だ。過去にも「トー横キッズ」支援で注目された人物が逮捕された例があり、支援者が支援対象と近くなりすぎるリスクは指摘されてきた。
田中被告人も、その危うさを理解していたはずだ。
以前、彼から紹介された女性を取材した際には「(彼女は)男としての僕にすり寄ってきている感じがある」としながら、「相談者と支援者の関係を超えるとまずい」と語っていた。
この言葉通り、なぜ一線を守れなかったのか。
●逮捕の3〜4カ月前から断続的にコカインを使用していた
田中被告人はこれまで、ホストが女性を薬物で支配する実態や、歌舞伎町で薬物が容易に入手できる現状を繰り返しうったえてきた。
それにもかかわらず、検察によれば、逮捕の3〜4カ月前から断続的にコカインを使用していたという。
危険性や法的リスクを理解していたはずの人物が薬物に手を出した背景には、個人的な問題だけでなく、支援者を取り巻く環境や組織のガバナンスの脆弱さが関わっている可能性がある。
●次回公判は9月に予定されている
田中被告人は悪質ホスト被害者やその家族を支える活動を通じて信頼を得てきた。
今年5月に悪質ホストクラブの規制強化を柱とする改正風俗営業法が成立した背景には、駆け込み寺の創設者・玄秀盛さんと並び、田中被告人の告発活動があった。
そうした人物の"闇落ち"は、個人の問題にとどまらず、支援活動全体の信用を揺るがしかねない。
次回公判は9月に予定されており、本人の弁明や背景が明らかになるかが注目される。
歌舞伎町という特殊な環境が影響したのか、それとも避けられたはずの転落だったのか。今回の事件は、支援活動のあり方も改めて問われている。