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デモで「殺せ」とネットで「殺す」に違いはあるか?
2013年02月25日 18時55分

在日韓国人、朝鮮人が多く暮らす「コリアンタウン」として知られる東京・新大久保。焼肉店などが立ち並ぶこの街で、2013年2月9日、排外主義的なグループによるデモが行われた。参加者の中には、「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」などと過激な言葉が書かれたプラカードを掲げたり、「韓国人殺せ!」「韓国人を血祭りにせよ!」などの罵詈雑言を上げるものがいたという。

このデモの内容は、ネット上でも話題を集めた。コラムニストの小田嶋隆さんはツイッターで「ネット上に殺害予告の書き込みをした人間は、逮捕起訴されて実刑判決を受けている」「一方、新大久保の街路をデモ行進した人たちはおとがめなしだったりする。不思議な国だよ」と苦言を呈している。

小田嶋さんの言うように、デモで「殺せ」と言った場合と、ネット上で「殺す」という殺害予告した場合に違いがあるように思われるが、デモでの「殺せ」は罪にあたらないのだろうか。そもそも、デモでは何を言ってもいいのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。

●デモは憲法によって保障されている

デモとは、ある特定の考えをもった人々が集まって、道路など公の場所を行進しながら、自分たちの主張を示す行為だ。たとえば、福島第一原発事故後の「脱原発デモ」などだ。このようなデモの性質について、萩原弁護士は、国の基本原理である憲法を用いて説明する。

「憲法は、『集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。』(第21条1項)と規定しています。人々が、自己の主張や意見を外部に表現するために『デモ』を行うことも、この憲法で保障された『集会の自由』(動く集会)、あるいは『その他一切の表現の自由』として保障されています」

さらに、萩原弁護士は「表現の自由の保障は、憲法の人権保障の体系の中でも『優越的な地位』が与えられています」と続ける。

「表現行為は、個人の自己実現そのものであると共に、民主的国家においては、主権者たる国民が自由に意見を表明し合い、討論することを可能とする環境が保障されていることが不可欠の要請だからです」

●「殺せ」という言葉だけでは違法性を判断できない

つまり、表現の一つであるデモ行為は、憲法によって手厚く守られているということだ。新大久保のデモも、萩原弁護士によると、「『表現の自由の保障』のもとにある」という。だが、それは「何を言ってもいい」ということなのだろうか。

「憲法は『一切の表現の自由』を保障すると言っていますが、もちろん、全く無制約であることを意味しません。当該表現行為が、『他人の生命・身体・名誉・財産等を傷つける』場合には、脅迫罪(刑法222条)、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条・234条)として処罰されることもあり得ます。

しかし、『表現の自由』の重要性に鑑み、制約は『必要最小限度』でなければなりません。過激な表現であっても、デモが一定の意見表明を目的しているなら、その言葉だけを取り出して判断するのではなく、当該デモ全体の目的や表明された意見や主張、言葉の内容、発せられた時間等を踏まえて、個々の言葉や表現を検討する必要があるでしょう」

●特定の個人・イベントを指した場合は処罰される可能性も

今回のデモでは、参加者から「殺せ」という言葉があったということだが、それだけをみて、違法になるかを判断することはできないということだ。では、ネット上で「殺す」と書き込んだ場合はどうなるのだろうか。

「前述のように、憲法は『一切の表現の自由』を保障していますので、ネット上での表現行為も保護を受けます。その制約が『必要最小限度』でなければならないのは、デモの場合と同様です。

たとえその表現が世間に漠然とした恐怖感や不快感を与えるものではあっても、『過激な言葉・表現』が向けられた対象が特定されておらず、具体性のないものであるなら、『他人の生命・身体・名誉・財産等』に対する侵害の具体的危険性は見出せないでしょう。

一方で、『殺せ』とか『殺す』という言葉が特定の個人に向けられたものであったり、特定のイベントを中止に追い込むようなものであれば、『他人の生命・身体・名誉・財産等』に対する侵害の危険性が現実化しているということです。そのような表現まで、憲法は保護するものではありません」

萩原弁護士は「デモとネットでは、表現の広がるエリアや持続性に相当の違いがありますが、今回の問題はそういった表現形式の問題ではなく、表現内容がどの程度具体的で、他者に対する侵害の危険性をもたらすかの区別の問題でしょう」とまとめた。

表現の自由は、民主的国家にとって非常に重要なものだ。一方で、「殺す」や「殺せ」など過激な言葉を不快に感じる人はいるだろう。しかし、単に不快なだけの表現は、国家の権力的規制ではなく、思想の自由市場の中で、自然に淘汰されていくのが望ましい。それこそ民主的国家のあるべき姿といえるのだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

在日韓国人、朝鮮人が多く暮らす「コリアンタウン」として知られる東京・新大久保。焼肉店などが立ち並ぶこの街で、2013年2月9日、排外主義的なグループによるデモが行われた。参加者の中には、「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」などと過激な言葉が書かれたプラカードを掲げたり、「韓国人殺せ!」「韓国人を血祭りにせよ!」などの罵詈雑言を上げるものがいたという。

このデモの内容は、ネット上でも話題を集めた。コラムニストの小田嶋隆さんはツイッターで「ネット上に殺害予告の書き込みをした人間は、逮捕起訴されて実刑判決を受けている」「一方、新大久保の街路をデモ行進した人たちはおとがめなしだったりする。不思議な国だよ」と苦言を呈している。

小田嶋さんの言うように、デモで「殺せ」と言った場合と、ネット上で「殺す」という殺害予告した場合に違いがあるように思われるが、デモでの「殺せ」は罪にあたらないのだろうか。そもそも、デモでは何を言ってもいいのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。

●デモは憲法によって保障されている

デモとは、ある特定の考えをもった人々が集まって、道路など公の場所を行進しながら、自分たちの主張を示す行為だ。たとえば、福島第一原発事故後の「脱原発デモ」などだ。このようなデモの性質について、萩原弁護士は、国の基本原理である憲法を用いて説明する。

「憲法は、『集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。』(第21条1項)と規定しています。人々が、自己の主張や意見を外部に表現するために『デモ』を行うことも、この憲法で保障された『集会の自由』(動く集会)、あるいは『その他一切の表現の自由』として保障されています」

さらに、萩原弁護士は「表現の自由の保障は、憲法の人権保障の体系の中でも『優越的な地位』が与えられています」と続ける。

「表現行為は、個人の自己実現そのものであると共に、民主的国家においては、主権者たる国民が自由に意見を表明し合い、討論することを可能とする環境が保障されていることが不可欠の要請だからです」

●「殺せ」という言葉だけでは違法性を判断できない

つまり、表現の一つであるデモ行為は、憲法によって手厚く守られているということだ。新大久保のデモも、萩原弁護士によると、「『表現の自由の保障』のもとにある」という。だが、それは「何を言ってもいい」ということなのだろうか。

「憲法は『一切の表現の自由』を保障すると言っていますが、もちろん、全く無制約であることを意味しません。当該表現行為が、『他人の生命・身体・名誉・財産等を傷つける』場合には、脅迫罪(刑法222条)、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条・234条)として処罰されることもあり得ます。

しかし、『表現の自由』の重要性に鑑み、制約は『必要最小限度』でなければなりません。過激な表現であっても、デモが一定の意見表明を目的しているなら、その言葉だけを取り出して判断するのではなく、当該デモ全体の目的や表明された意見や主張、言葉の内容、発せられた時間等を踏まえて、個々の言葉や表現を検討する必要があるでしょう」

●特定の個人・イベントを指した場合は処罰される可能性も

今回のデモでは、参加者から「殺せ」という言葉があったということだが、それだけをみて、違法になるかを判断することはできないということだ。では、ネット上で「殺す」と書き込んだ場合はどうなるのだろうか。

「前述のように、憲法は『一切の表現の自由』を保障していますので、ネット上での表現行為も保護を受けます。その制約が『必要最小限度』でなければならないのは、デモの場合と同様です。

たとえその表現が世間に漠然とした恐怖感や不快感を与えるものではあっても、『過激な言葉・表現』が向けられた対象が特定されておらず、具体性のないものであるなら、『他人の生命・身体・名誉・財産等』に対する侵害の具体的危険性は見出せないでしょう。

一方で、『殺せ』とか『殺す』という言葉が特定の個人に向けられたものであったり、特定のイベントを中止に追い込むようなものであれば、『他人の生命・身体・名誉・財産等』に対する侵害の危険性が現実化しているということです。そのような表現まで、憲法は保護するものではありません」

萩原弁護士は「デモとネットでは、表現の広がるエリアや持続性に相当の違いがありますが、今回の問題はそういった表現形式の問題ではなく、表現内容がどの程度具体的で、他者に対する侵害の危険性をもたらすかの区別の問題でしょう」とまとめた。

表現の自由は、民主的国家にとって非常に重要なものだ。一方で、「殺す」や「殺せ」など過激な言葉を不快に感じる人はいるだろう。しかし、単に不快なだけの表現は、国家の権力的規制ではなく、思想の自由市場の中で、自然に淘汰されていくのが望ましい。それこそ民主的国家のあるべき姿といえるのだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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