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「会社辞めてついてきてあげたのに…」キャリア断絶の“駐妻”、自信回復に必要だったもの
2025年02月23日 11時19分

パートナーの海外転勤に伴い、一緒に現地に赴く駐妻(夫)。仕事を退職して同行する場合もあり、キャリア断絶に悩む人もいる。

日本企業の教育関連会社でバリバリ働き、夫の中国転勤に同行、コロナ禍の上海で突然の退職を余儀なくされた竹田奈々子さん(仮名)もその一人だ。

「駐妻はテニスにお茶という優雅なイメージがあるかもしれませんが、感じ方は人それぞれで、私は仕事に就けないことに悩み続けました」と話す。駐妻(夫)がぶつかる「就労の壁」を考えてみたい。(ライター・田中瑠衣子)

パートナーの海外転勤に伴い、一緒に現地に赴く駐妻(夫)。仕事を退職して同行する場合もあり、キャリア断絶に悩む人もいる。

日本企業の教育関連会社でバリバリ働き、夫の中国転勤に同行、コロナ禍の上海で突然の退職を余儀なくされた竹田奈々子さん(仮名)もその一人だ。

「駐妻はテニスにお茶という優雅なイメージがあるかもしれませんが、感じ方は人それぞれで、私は仕事に就けないことに悩み続けました」と話す。駐妻(夫)がぶつかる「就労の壁」を考えてみたい。(ライター・田中瑠衣子)

●育休中だけ滞在予定が、コロナ禍で身動きとれず 退職届は親が代筆

奈々子さんは大手出版社の幼児向け英語教育部門で、マーケティングや商品企画を担当してきた。外資系企業の日本支社に出向経験もあり、通算十数年のキャリアを積んできた。

2019年、奈々子さんが第一子の産休に入ったタイミングで、メディア関係の仕事をする夫の上海駐在が決まった。

「夫だけ先に赴任し、私は育休の間だけの予定で2019年5月に上海に向かいました。上海で第二子を妊娠して、産休と育休が長くなるうちに新型コロナウイルスの感染拡大で、渡航制限がかかってしまったんです」

奈々子さんの会社にはパートナーの転勤に伴う休職制度はなかった。新たな制度をつくるとなると時間がかかる。

会社は奈々子さんが、上海からフルリモートで復帰することを検討してくれたが初のケースということもあり、「外部機関から法的リスクがあると指摘されたようで、流れてしまいました。上司たちは何とか私が残れないか考えてくれましたが、難しかった」(奈々子さん)。

結局、奈々子さんは2022年5月に退職した。コロナ禍で日本に帰れなかったため退職届は親に代筆してもらったという。

奈々子さんの退職時期とも重なる2022年3月から5月まで、上海は感染力の強いオミクロン株の影響で、ロックダウン(都市封鎖)された。物流が制限され、経済都市上海のロックダウンは世界中に影響を与えた。

「当時は家から一歩も出られず、今日の水と今日のコメが確保できないという生活でした。1歳と2歳の子どもたちの食べるものを確保することが最優先で、正直、仕事やキャリアを考える余裕はありませんでした」

●配偶者の転勤で休職認める企業は3.9%

外務省の統計では、海外で暮らす日本人で将来的に日本に帰国予定がある長期滞在者は、2024年10月時点で約71万2713人いる。海外駐在員や家族もこの中に含まれる。

2014年、国家公務員を対象に最長3年の休業期間を認める「配偶者同行休業制度」が始まった。当時は女性の登用を進めるため、女性公務員が配偶者の転勤で離職してしまうことを防ぐ目的があった。地方公務員にも同様の制度がある。

一方、民間企業での広がりは鈍い。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2016年に全国1万社に聞いた調査では、「配偶者が転勤する期間、休職を認める制度がある」と回答した企業は3.9%に留まる。この調査以降、大企業を中心に制度が広がっているが、それでもまだ十分とは言えないようだ。

ロックダウンが解除され、2022年秋に自宅保育だった子どもたちが幼稚園に通えるようになった。自分の時間ができた途端、奈々子さんは急に不安になった。

「帰国の見通しがつかず、ブランクが長くなり仕事の能力も下がる一方ではと心配になりました。それで中国での職探しをスタートしたんです」

夫の家族帯同ビザで中国に来ているため、中国で働くには就労ビザに切り替える必要がある。

マーケティング関連の仕事に就きたいと、エージェントに相談したが、希望の仕事は見つからなかった。「英語を話せますが、ビジネスで通用する中国語は話せず、案件が限られていましたね。現実を突きつけられ、落ち込みました」

そのころは、夫に対しても「私は会社を辞めてあなたについてきてあげている」という気持ちが強くなったという。「勝手にイライラして、言葉にとげがあったと思います」

●働きたい理由を考え、別のアプローチを探る

画像タイトル 奈々子さんが読み聞かせで使う絵本

奈々子さんは自分がなぜ働きたいかを整理してみることにした。

「3つ理由がありました。1つ目は社会とつながり、少しでも社会貢献したいこと。2つ目はブランクが長くなることで能力の低下が怖いこと。3つ目が金銭的に自立していないということです。ランチに行っても、夫が稼いだお金と思うと楽しめないんです」

就労以外でも社会貢献やスキルアップができないか。別の方法を考えるようになった。

まず幼児教育の仕事の経験を生かし、日本で取り組んでいた読み聞かせボランティアを中国でスタート。「●●くんのママ」、「竹田さんの奥さん」ではなく自分の名前で呼ばれる場所を見つけた。就労ではなくても、社会貢献できるという実感があった。

さらに帰国後の再就職を視野に、駐在員のパートナー向けにキャリア支援する会社のインターンにも参加した。7カ月間、SNSマーケティングを担当し自信を取り戻せたという。

「金銭的な自立だけモヤモヤは解消していませんが、今は私が夫のキャリアを応援する番で、私が働く順番になったら解消する問題ということで割り切っています」

中国での生活も6年目に入り、子どもたちは5歳と4歳になった。今は中国の駐妻(駐夫)のキャリア支援をする「Career Cafe Connect(キャリアカフェコネクト)」で、メンバーのキャリアサポートに携わる。

「駐妻(夫)にもいろいろな考え方の人がいます。私のように働けないことに悩むのがマジョリティーではないことは、中国に来てから気付きました。ただ、共働き世帯が増える中、私のような考えの人も増えてきていることを知ってほしいです」

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