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虐待対応の激増で児童相談所は「機能不全」寸前、現場のケースワーカーが語る苦悩
2020年05月29日 10時05分

神戸市で今年2月、家を追い出された小学6年生の女児が、児童相談所(子ども家庭センター)を訪れた際に、対応した職員に追い返されていたことが判明して、大きな問題となった。また、2019年1月には、千葉県野田市で10歳女児が虐待を受けて死亡。管轄する柏児童相談所は女児を一時保護していたものの、親族のサポートが見込めるとの理由で保護を解除していた。

虐待対応の激増で児童相談所は機能不全だと指摘されることもあるが、実態はどうなっているのか。児童相談所のケースワーカー(児童福祉司)からは「人数を増やさないと解決しない」「事件になるようなものまで、福祉でカバーすべきなのか」など、苦悩する声があがっている。(ライター・喜連川智敬)

神戸市で今年2月、家を追い出された小学6年生の女児が、児童相談所(子ども家庭センター)を訪れた際に、対応した職員に追い返されていたことが判明して、大きな問題となった。また、2019年1月には、千葉県野田市で10歳女児が虐待を受けて死亡。管轄する柏児童相談所は女児を一時保護していたものの、親族のサポートが見込めるとの理由で保護を解除していた。

虐待対応の激増で児童相談所は機能不全だと指摘されることもあるが、実態はどうなっているのか。児童相談所のケースワーカー(児童福祉司)からは「人数を増やさないと解決しない」「事件になるようなものまで、福祉でカバーすべきなのか」など、苦悩する声があがっている。(ライター・喜連川智敬)

●親権者の同意がなくても、強制的に保護できるようになったが…

児童相談所は児童専門の公設専門機関で、都道府県・政令指定都市・一部中核市が管轄して設置されている。職員の多くが福祉職だ。業務は、親・学校などから児童(児童福祉法上は18歳以下、事情により22歳までを含むことがある)に関する相談に応じることなど、広く児童福祉全般にわたっている。

虐待対応も業務のひとつで、担当するのは主にケースワーカーと呼ばれる児童福祉司である。近年、悪化するこの問題に彼らが迅速かつ的確に対応できるように法律が改正され、虐待が疑われて必要性があると判断されるときには、親権者の同意がなくても児童を強制的に保護できるようになった。

しかし、虐待通報を受けて現場に赴き、虐待を疑ってもすぐに保護するのは難しいことが多いという。虐待対応を担当するケースワーカーが、現場の苦悩を話してくれた。

「虐待の相談対応件数は爆発的に増えており、ケースワーカーの人数を増やして、質を向上しなければ何も解決しません」

厚生労働省によると、児童虐待相談対応件数が2018年度は約16万件あり、2012年度以降は毎年10%以上の伸びを示しているという。児童相談所にもよるが、ケースワーカー1人当たりの担当件数は50件程度あるとされているのだ。

●通報があれば、対象エリアをしらみつぶしに調査

児童相談所では通報を受けると、職員が受理して24時間以内に子供の安全確認をすることになっている。「どこの、誰」であるかがわかっていればまだしも、そうでなければ対象エリアをしらみつぶしに調査して、該当児童を探さなければならない。

該当児童が特定できれば、学校・医療機関など関係機関を調査して虐待の有無を判断する。これらの情報を集めた後に会議を開き、対応方針・方法を検討するのだ。1案件に少なくともこれだけの労力が必要で、その後に経過観察・一時保護などの対応が加われば、1人の担当者が一度に複数案件を抱えるのは無理がある。

●母親のパートナーがドアにチェーンをかけ、暴言吐き続けるケースも

ある案件では虐待が認定され、子供を一時保護すると決定してケースワーカーが2名で現場に向かった。しかし、その場では該当児童を保護することができなかったのである。

「虐待の疑いがあっても、抵抗する親から子供を引き離すのは物理的に難しいですからね」(前出・ケースワーカー)

このとき、母親のパートナーは「しつけ」だと主張し、母親もそれを肯定した。

「しつけであっても、子供に対して暴力・暴言は許されません。しかし、虐待をする親は子供が自分の所有物だという意識をもっており、私たちがそれを取り上げると思ってしまうことも少なくないのです」(前出・ケースワーカー)

このとき、対応したのは虐待を加えたと思われる母親のパートナー。ドアにチェーンをかけ、ケースワーカーが中に入るのを拒否して暴言を吐き続けた。やむなく警察に協力を求めて時間を置かずに再訪し、室内に入ることができたのだ。ところが、今度は被虐児童が母親にしがみつて離れない。

「被虐児童が幼児・学童といった年齢であると、簡単には私たちについてきてくれないケースもあります」(前出・ケースワーカー)

とくに小さな子供にとって、どんな親でも親は親。見知らぬケースワーカーに対して、簡単には心を開かない。当然、親たちはその尻馬に乗って抵抗の勢いを増してくる。この案件では、長時間親たちを説得して何とか子供を保護することができた。

しかし、中にはケースワーカーに抵抗して暴言を吐くだけではなく、恫喝したり暴力をふるったりする人もいるという。虐待対応の現場は、想像以上に複雑かつ過酷なのである。

●虐待対処は福祉なのか

虐待を含む要保護児童が発生する原因は、決して子供側にあるのではない。

「子どもが安心して暮らせない環境に置かれているのを、行政の力でサポートする機関が児童相談所です」(前出・ケースワーカー)

要するに、児童相談所は「困っている子供」をサポートするのが仕事だが、「困っている原因」は親にあるのであり、そこにケースワーカーが深くかかわることは難しいのである。

たとえば横浜市の組織図を見ても、子供に関する福祉は「こども青少年局」の担当で、大人の福祉は「健康福祉局」が管轄している。まして、香川と東京・品川の児童相談所の連携不足が指摘された、目黒虐待死事件(2018年3月)のように自治体がまたがるような場合は、さらに情報共有が難しくなるのは想像に難くない。

「そもそも、虐待対応は福祉という側面だけでとらえてよいものなのでしょうか」(前出・ケースワーカー)

確かに、被虐児童をサポートするのは子供の目線から見れば福祉の一環だ。しかし、暴行傷害・致死事件の取り締まりという側面も少なくない。だとすれば、取り締まり機関である警察が担う役割は決して軽くはないのだ。児童相談所が持つ情報の一元化・ケースワーカーのスキル向上・警察など関係機関との連携など、虐待問題の撲滅には課題が山積しているのである。

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