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1人1000アカウントの「いいね!」水増し工場 「日本」で操業したら犯罪?
2013年09月17日 16時50分

フェイスブックの「いいね!」を大量に水増しする「工場」がバングラデシュに存在する――。そんなイギリスのドキュメンタリー番組が、在英国際ジャーナリストの木村正人さんによって日本に紹介され、反響を呼んでいる。

木村さんのコラム記事によると、そのクリック工場では、若者十数人が1日3交代の24時間体制で働く。彼らは複数のアカウントを駆使して、フェイスブックの「いいね!」やツイッターの「フォロー」をクリックし、水増ししているという。

SNSが普及した現在、フェイスブックやツイッターでの評判をきっかけに人気に火がつく例は多々ある。「いいね!」やフォロワー数は人気・影響力の目安とされることもあるだけに、増やせるものなら増やしたいというのが企業の本音だろう。

バングラデシュのクリック工場では1000以上のアカウントを使い分ける作業者もいるというが、日本で同様のクリック工場が作られた場合、法的な問題はあるのだろうか。川添圭弁護士に聞いた。

●水増しは景表法の不当表示になり得るが「クリック工場そのもの」は対象ではない

「法律上は、(1)景品表示法違反(4条1項の不当表示)、(2)不正競争防止法違反(2条1項13号の品質等誤認惹起行為)、(3)刑法233条の偽計業務妨害罪、の適用が問題となります」

この3つの法律について、ひとつひとつ聞いていこう。

「(1)については、事業者が業者に依頼して自社商品等の口コミを多数書き込ませることで、口コミサイト上の評価を変動させる行為は、景品表示法の不当表示に該当しうるとされています。

消費者庁が平成24年5月に改訂した『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』にも、そう記載されています」

「いいね!」やフォローの水増しは、厳密には口コミとは違う。しかし、そもそも「自分を良く見せたい」という動機から出ていることを考えれば、やっていることは同じと言えそうだ。川添弁護士はこう続ける。

「クリック工場による作為的な『いいね!』は、それが一般消費者から多数の好意的評価を受けているかのような印象を与える場合には、景品表示法の不当表示に該当すると考えるべきだと思います。

ただし、事業者から依頼を受けたクリック工場は対象になりません。景品表示法には差止請求権や損害賠償請求権の規定がなく、また、措置命令や罰則の対象は『広告主である事業者』だからです」

つまり、不当表示をしているのは水増しを依頼したアカウントの管理者で、クリックをしている「工場」自体ではない――ということだ。他はどうだろう。

●「不正競争」にも該当しうるが、工場に責任を負わせるのは簡単ではない

「次に(2)不正競争防止法についてです。作為的な『いいね!』が広告上、商品やサービスの品質などを誤認させるものと評価できる場合には、同法2条1項13号の不正競争行為に該当すると考えられ、少なくとも『いいね!』を依頼した事業者は、差止や損害賠償請求、さらには刑事罰を受ける可能性があります」

それでは、クリック工場側の行為はどうだろうか?

「クリック工場が業務委託として仕事を請け負ったに過ぎない場合は、不正競争防止法に基づく工場の法的責任は、事業者側の責任ほど明確ではありません。

同法に基づいて差止請求や損害賠償請求ができるのは『営業上の利益を侵害された者』に限られており、請求の相手方も比較的狭く解されている……つまり工場そのものが請求対象になるかどうかが微妙だからです。

ただし、依頼した事業者が罰則規定(同法21条2項1号、5号)に基づく刑事罰を受ける場合には、クリック工場が(少なくとも)その共犯として処罰される可能性は考えられると思います」

なるほど、それでは最後に「偽計業務妨害」はどうだろう。

「(3)の偽計業務妨害罪について、作為的な『いいね!』を消費者が誤認したという事案で本罪が適用できるかどうかは、ケースバイケースと言わざるを得ません。

ポイントとなるのは、作為的な『いいね!』が、(a)『偽計を用いて』といえるかどうか、(b)本罪でいう『業務』に該当するかどうか、(c)業務を『妨害』したといえるかどうか、といった点ですが詳細は省きます。なお、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です」

なるほど、国内での「クリック工場」操業を直接取り締まれるかどうかは、現時点では微妙と言えそうだ。ただ、問題の根本は、このような「不正」といえる手段で「いいね!」の水増しをはかる企業や政治家にあるといえるので、発注側を取り締まることができるなら、それはそれでよいといえるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

フェイスブックの「いいね!」を大量に水増しする「工場」がバングラデシュに存在する――。そんなイギリスのドキュメンタリー番組が、在英国際ジャーナリストの木村正人さんによって日本に紹介され、反響を呼んでいる。

木村さんのコラム記事によると、そのクリック工場では、若者十数人が1日3交代の24時間体制で働く。彼らは複数のアカウントを駆使して、フェイスブックの「いいね!」やツイッターの「フォロー」をクリックし、水増ししているという。

SNSが普及した現在、フェイスブックやツイッターでの評判をきっかけに人気に火がつく例は多々ある。「いいね!」やフォロワー数は人気・影響力の目安とされることもあるだけに、増やせるものなら増やしたいというのが企業の本音だろう。

バングラデシュのクリック工場では1000以上のアカウントを使い分ける作業者もいるというが、日本で同様のクリック工場が作られた場合、法的な問題はあるのだろうか。川添圭弁護士に聞いた。

●水増しは景表法の不当表示になり得るが「クリック工場そのもの」は対象ではない

「法律上は、(1)景品表示法違反(4条1項の不当表示)、(2)不正競争防止法違反(2条1項13号の品質等誤認惹起行為)、(3)刑法233条の偽計業務妨害罪、の適用が問題となります」

この3つの法律について、ひとつひとつ聞いていこう。

「(1)については、事業者が業者に依頼して自社商品等の口コミを多数書き込ませることで、口コミサイト上の評価を変動させる行為は、景品表示法の不当表示に該当しうるとされています。

消費者庁が平成24年5月に改訂した『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』にも、そう記載されています」

「いいね!」やフォローの水増しは、厳密には口コミとは違う。しかし、そもそも「自分を良く見せたい」という動機から出ていることを考えれば、やっていることは同じと言えそうだ。川添弁護士はこう続ける。

「クリック工場による作為的な『いいね!』は、それが一般消費者から多数の好意的評価を受けているかのような印象を与える場合には、景品表示法の不当表示に該当すると考えるべきだと思います。

ただし、事業者から依頼を受けたクリック工場は対象になりません。景品表示法には差止請求権や損害賠償請求権の規定がなく、また、措置命令や罰則の対象は『広告主である事業者』だからです」

つまり、不当表示をしているのは水増しを依頼したアカウントの管理者で、クリックをしている「工場」自体ではない――ということだ。他はどうだろう。

●「不正競争」にも該当しうるが、工場に責任を負わせるのは簡単ではない

「次に(2)不正競争防止法についてです。作為的な『いいね!』が広告上、商品やサービスの品質などを誤認させるものと評価できる場合には、同法2条1項13号の不正競争行為に該当すると考えられ、少なくとも『いいね!』を依頼した事業者は、差止や損害賠償請求、さらには刑事罰を受ける可能性があります」

それでは、クリック工場側の行為はどうだろうか?

「クリック工場が業務委託として仕事を請け負ったに過ぎない場合は、不正競争防止法に基づく工場の法的責任は、事業者側の責任ほど明確ではありません。

同法に基づいて差止請求や損害賠償請求ができるのは『営業上の利益を侵害された者』に限られており、請求の相手方も比較的狭く解されている……つまり工場そのものが請求対象になるかどうかが微妙だからです。

ただし、依頼した事業者が罰則規定(同法21条2項1号、5号)に基づく刑事罰を受ける場合には、クリック工場が(少なくとも)その共犯として処罰される可能性は考えられると思います」

なるほど、それでは最後に「偽計業務妨害」はどうだろう。

「(3)の偽計業務妨害罪について、作為的な『いいね!』を消費者が誤認したという事案で本罪が適用できるかどうかは、ケースバイケースと言わざるを得ません。

ポイントとなるのは、作為的な『いいね!』が、(a)『偽計を用いて』といえるかどうか、(b)本罪でいう『業務』に該当するかどうか、(c)業務を『妨害』したといえるかどうか、といった点ですが詳細は省きます。なお、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です」

なるほど、国内での「クリック工場」操業を直接取り締まれるかどうかは、現時点では微妙と言えそうだ。ただ、問題の根本は、このような「不正」といえる手段で「いいね!」の水増しをはかる企業や政治家にあるといえるので、発注側を取り締まることができるなら、それはそれでよいといえるのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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