16209.jpg
裁判の「差し戻し」って何?
2019年09月28日 10時18分

諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は9月13日、国の請求を認めた二審・福岡高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。この裁判で、一審は国の請求を退けたが、二審は「漁業権は消滅し、開門を請求する権利は失われた」とし、国が逆転勝訴。漁業者側が上告していた。

第二小法廷は今年6月にも、諫早湾をめぐる別の2件の訴訟で漁業者側の上告を棄却し、「開門しない」司法判断が確定している。

一般に裁判の「差し戻し」とは、どんな制度で、何を意味するのか。杉浦智彦弁護士に聞いた。

諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は9月13日、国の請求を認めた二審・福岡高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。この裁判で、一審は国の請求を退けたが、二審は「漁業権は消滅し、開門を請求する権利は失われた」とし、国が逆転勝訴。漁業者側が上告していた。

第二小法廷は今年6月にも、諫早湾をめぐる別の2件の訴訟で漁業者側の上告を棄却し、「開門しない」司法判断が確定している。

一般に裁判の「差し戻し」とは、どんな制度で、何を意味するのか。杉浦智彦弁護士に聞いた。

●最高裁は「『真実が存在するか』否かは判断しない」

最高裁判所の「(破棄)差戻」とは、これまでの高等裁判所の判決を否定し、もう一度、過去に審理した裁判所で、裁判のやり直しをさせることをいいます。

裁判の中身ではなく手続きに違法性がある場合は、地方裁判所に差し戻すこともありますが、基本的には高等裁判所に差し戻されます。

今回の判決は一見すると、上告した漁業者側の勝訴のように思えます。しかし実はそうとも言い切れません。この点は、最高裁判所の役割が深く関わります。

ーーどういうことでしょうか

「日本は三審制で、上告という最高裁判所で争うチャンスを与えられている」という話は、教科書などで聞いたことがあるかもしれません。

しかし現実には、最高裁判所の裁判官は15名しかおらず、全国から決着のつかない紛争が集まれば、パンクしてしまうでしょう。そのため、日本の最高裁判所は、判断できる範囲を極めて狭くしました。

誤解を恐れずに言えば、金を貸したかどうかなどの「真実が存在するか」は判断せず、「憲法や法律というルールの解釈」しか判断しない機関になっているのです。単なる真実解明のためであれば、最高裁への上告さえ受け付けてもらえません。

ーーつまり最高裁では事実の調査ができないため、下級審に差し戻すことがある、ということでしょうか

そのようにも言えます。最高裁判所は、事実の解明に力を割けない関係で、その解明を下級審にゆだねてしまっているのです。

今回のような「破棄差し戻し」というのは、平たくいえば「これまでの裁判所が前提としたルールは間違ってますよ。このルールで判断してね。わからない事実もあるだろうから、もう一度、原告や被告に資料を出してもらってください」という意味なのです。

この判決でも、「開門を請求する権利がなくなったこと」は本件の請求異議の理由にならないということをルールとして示しつつも、「ほかにも権利濫用などの請求異議の理由が考えられ、その解明をしていないから、改めて高等裁判所で審理してください」といっているにすぎないのです。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る