新名神高速で自動車を逆走させて、6人にケガを負わせたなどとして、ペルー国籍の30代男性が、危険運転致傷などの罪に問われている。
事件当時から、被害車両のドライブレコーダー映像が報道されて、大きな反響を呼んだ。
8月26日に津地裁で開かれた初公判でも、約10台分の映像が上映され、逆走の危険性が改めて浮き彫りとなった。(裁判ライター・普通)
●逆走だけではない事件の全体像
起訴状によると、被告人は3件の容疑で起訴されている。
1件目は名古屋市内での飲酒運転。2件目はその約7時間後、新名神高速下り線(三重県亀山市付近)で逆走し、6人にケガを負わせた事件。3件目は事故後も警察に通報しなかった行為だ。
被告人は、初公判の法廷で「全部正しいです」と起訴事実を認めた。
●ビール瓶5本「飲酒」から逆走に至るまで
検察側の冒頭陳述によると、被告人は定住資格を持つペルー国籍の男性。
事件当日、母親の住む滋賀県の家から名古屋市まで運転し、瓶ビールを5本飲んだあと、別の店に行くため最初の飲酒運転をした。
時間を置いて知人を助手席に乗せ再び出発。新名神に入ったが、外壁に衝突して車が逆向きになった。そのまま逆走に気付かず走行を続け、ふらついた様子も映像で明らかにされた。
一度は退避スペースに停車したものの、追跡してきたパトカーを見て飲酒発覚を恐れて、再び発進。逆走を続けて、事故を引き起こした。
●ドライブレコーダーが映した衝撃
上映された映像では、先頭車両が異変に気付き、スピードを落として中央を空けて停車。後続も同じように対応したが、被告人車両はその間をすり抜けるように走行した。
後続車では中央の空間が狭くなり、被告人車両は接触を繰り返しながらも止まらず進み続けた。最終的に車両運搬用の大型車が減速しきれず、停車車両に衝突。車内から悲鳴が上がる様子も記録されていた。
不幸中の幸いにも、命に関わる重傷者はいなかったが、6人が負傷した。その後も被告人は10キロ以上逆走を続け、計132台とすれ違ったのちパーキングエリアで転回。事故現場を通過し、高速を降りた翌日に自ら出頭した。
●弁護人は自首の成立を主張
被告人は「飲食店でトラブルに巻き込まれて逃げるために運転した」と説明したが、詳細は不明。結局、次の店でも飲酒して運転している。
弁護人:翌日に出頭したのはどうしてですか?
被告人:事故の日の夜は頭が重くて眠れず、夜が明けてから行こうと。
弁護人:どうして出頭をしようと思ったのですか?
被告人:重大な事故を起こしてしまったことで、被害者らのことが心配で。
弁護人は「翌日に自発的に出頭したこと」を自首として主張。仮に自首が成立しなくても、反省の意思や保険による賠償見込み、家族の監督を受ける意志などを強調した。
●「パニックでは通らない」と裁判官
検察官は、改めて逆走に至った経緯について確認。名古屋市で飲酒していたが、同じ場にいた人物を四日市市に送るために運転したという。
検察官:事故現場は四日市市より先の地点ですよね。通り過ぎたのですか?
被告人:高速道路に慣れておらず、ナビの言う通りにしたのですが。
検察官:逆走に至る原因というのは?
被告人:その日はすでに7〜8時間運転して疲れていて。眠くて目が閉まるほどで、側面にぶつかって反対方向を向いてしまいました。
「パトカーを見て飲酒がバレるのが怖く、パニックで走り続けた」という説明に対して、裁判官は「10キロ以上運転しながらパニックだったは通らない」「すり抜け運転ができる時点で冷静さがあった」と厳しく問い詰めた。
●検察側の求刑は「懲役3年」
検察は「飲酒の上、逆走発覚後も運転を継続した意思決定を身勝手極まりない」「物流の要である主要高速道路で起こした影響など被害が大規模に渡っていることも悪質である」などとして、懲役3年を求刑した。
被告人は最終陳述で「日本がとても好き。親切にしてもらっている。二度とこんな事故をしない。ルールを守ることを約束します」と謝罪と反省を述べた。
なお、運転免許の取消期間は最長の10年に及ぶ。次の職場が決まっているという被告人にとって、この10年は大きな試練となるだろう。判決は10月8日の予定だ。