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<美濃加茂事件>「無罪判決」勝ち取った郷原弁護士「無意味な控訴はしないでほしい」
2015年03月05日 23時40分

「主文、被告人は無罪」。名古屋地裁第2号法廷に判決を宣言する声が響くと、被告人席に立った藤井浩人市長は目をぎゅっとつむり、こみ上げてくるものをこらえるような表情を見せた。

衝撃の逮捕から約9カ月。現職の全国最年少市長が贈収賄疑惑を問われ、真っ向から否認し続けた異例の裁判は、弁護側の完全勝利という形で一区切りがついた。藤井市長は「また市長として頑張っていきたい」と決意を新たにし、主任弁護人の郷原信郎弁護士は「無意味な控訴はしないでほしい」と検察側に呼びかけた。(ジャーナリスト/関口威人)

「主文、被告人は無罪」。名古屋地裁第2号法廷に判決を宣言する声が響くと、被告人席に立った藤井浩人市長は目をぎゅっとつむり、こみ上げてくるものをこらえるような表情を見せた。

衝撃の逮捕から約9カ月。現職の全国最年少市長が贈収賄疑惑を問われ、真っ向から否認し続けた異例の裁判は、弁護側の完全勝利という形で一区切りがついた。藤井市長は「また市長として頑張っていきたい」と決意を新たにし、主任弁護人の郷原信郎弁護士は「無意味な控訴はしないでほしい」と検察側に呼びかけた。(ジャーナリスト/関口威人)

●贈賄側とされた業者の供述に「看過しがたい問題」

事件の発端は「藤井市長に30万円を渡した」という名古屋市の浄水設備販売会社の中林正善社長(今年1月に別の裁判で懲役4年の実刑判決を受け服役中)の供述だ。最大の焦点となった「中林供述」の信用性について、鵜飼祐充裁判長は、判決理由の中で「看過しがたい問題がある」「合理的な疑問が残る」などと強い調子で否定した。

中林社長の供述をたどると、当初の現金授受は「名古屋市内の居酒屋での20万円」だけだった。これは2013年4月25日のことだ。

それが後の取り調べから「美濃加茂市内のファミリーレストランでの10万円」も思い出したという。こちらは同年の4月2日のことで、これが最初の現金授受だったという。さらに、この会食での同席者の有無のほか、藤井市長と最初に会った時期と店も訂正していた。

鵜飼裁判長は、これらが明らかに不自然な供述の変遷だとして「賄賂を渡すというのは非日常的な行為で、現実に藤井市長と会食したのは5回、現金を渡したのは2回だけなら、記憶に残っていてしかるべきだ」と指摘した。

●現金授受の会話が「2回ともほぼ同じ」なのは不自然

さらに、供述や証言の具体的な内容についても、不自然な点があると疑問を呈した。

1回目の現金授受の現場とされたファミリーレストランでは、同席者が藤井市長の分を含めて2人分の飲み物をドリンクバーに取りにいったという。そのためには、同席者が何を飲むかなどを藤井市長によく確認するはずだ。

しかし、中林社長は公判を通じて「飲み物の種類や、同席者とのやりとりについて説明ができていない」と鵜飼裁判長。「現金授受を同席者に知られたくなかったと言うのに、わずか3メートルほどの近い場所に飲み物を取りに行った同席者を振り返ることもしていない。少なくとも警戒心のある行動をとっていない」

また、2回目の現場について、中林社長は、同席者が席を外してからテーブルを回り込んで、藤井市長の隣に移動して現金を渡したと供述している。これについても、鵜飼裁判長は「同席者に気づかれないようにするなら、席を移動することなく渡したほうがよい。わざわざテーブルを回り込めば余計に時間がかかり、後ろ向きになってしまうと同席者が戻って来ることにも気づきにくい」と突っ込んだ。

現金授受の際に、中林社長と藤井市長が交わしたという「少ないけれど足しに」「いつもすみません」などの会話が2回ともほぼ同じだった点についても、鵜飼裁判長は、公判で自ら中林社長に確認するほどこだわっていた。これらの「中林供述」について、鵜飼裁判長は「核心的な場面について、具体的で緊張感のある説明がなされていない。直接の裏付け証拠もない」と切り捨てたのだ。

●詐欺事件の被疑者が「捜査機関に迎合することはありえる」

また、賄賂の額と符合すると検察側が主張していた現金の出入金記録も「現金授受の裏付けにはならない」と退けた。思わせぶりなメールの内容が現金のやりとりをほのめかしているという主張も「根拠に乏しい推測で、裏付けにならない」と断じた。

一方、弁護側が追及する「ヤミ司法取引」の疑いについて、鵜飼裁判長は「その事実はうかがえない」と否定的な認識を示した。

ただ、約4億の融資詐欺を働いていた中林社長が「さらなる追起訴があれば自分が不利になることは当然予想していた」として、「他に捜査機関の関心をひく事件を作り出したり、捜査機関に迎合したりすることは十分にあり得る」「メールや預金口座のデータなど、検察側の出す資料に合わせて供述を整えた可能性も否定できない」などと指摘した。さらに、証人尋問前に中林社長と検事が入念に打ち合わせをしていたことにも、不信感を示した。

その一方で、中林社長と留置場で隣の房にいて、中林社長が会食時の人数などについて刑事や検事と「つじつま合わせをしていた」などと証人尋問で述べた証人について、鵜飼裁判長が「信用できる」と評価するなど、まさに検察側の完敗と言える結果だった。

最後に「現金授受の有無という争点について認められない。よって、犯罪の有無は認められない」とした鵜飼裁判長は、被告人席の藤井市長に「これで一区切りついた。ますます市政に尽力して。頑張って」と声を掛けた。

●藤井市長「この結果におごってはいけない」

閉廷後、記者会見に臨んだ藤井市長は「これまで多くの人に支えてもらい、無罪を勝ち取った。裁判長から激励の言葉も受け、これからまた市長として頑張っていきたい」と晴れ晴れとした表情で述べた。

一方で「決してこの結果におごってはいけない。犯罪を犯している人間を見破れなかった。そうした人との付き合い方には気をつけなければ。地方を活性化する中で民間の知恵や力は借りなければならず、組織のトップとしてしっかりとした目を持っていきたい」と決意を示した。国会で「政治とカネ」が追及されていることについて記者から問われると、「政治がすべて悪いという見方でなく、一つ一つの件に関して市民、国民の皆さんに判断してほしい」と述べた。

弁護団は「当然の判決だ」と受け止めると同時に、今回の裁判の画期的な側面も強調した。

郷原信郎弁護士は「われわれが『ヤミ取引』の疑いをもって、さまざまな証拠を請求して事実関係を引き出し、中林供述の変遷の不合理さを突いた」という点を勝訴のポイントとして挙げた。神谷明文弁護士は「証拠のない事件は無罪になるという当たり前のことが示され、法曹界全体にも大きな希望を与えた。これからは、捜査の可視化や記録化が必須になるだろう」と語った。

そして、検察に向けて、郷原弁護士は「無意味な控訴はしないでほしい。これ以上、美濃加茂市に迷惑をかけないで」と訴えていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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