16546.jpg
「金融事業化」する日本の奨学金制度 「返済できない若者」が急増
2013年02月26日 06時50分

生活苦から学生時代に借りた奨学金の返済に困っている人が増えている。不景気で就職難やリストラなど働く環境が悪化していることが影響しているとみられる。なかには、奨学金の返済遅延が足かせとなって、夢をあきらめたり、結婚ができなかったりする若者も少なくない。この問題に詳しい弁護士は「日本の奨学金制度の抜本的な改善が必要だ」と指摘している。

奨学金事業を請け負う日本学生支援機構の資料によると、奨学金の返済が遅れている者は、2004年の約25万人に対して、2011年が約33万人と増加している。

奨学金には、返還義務のない「給付型」と卒業後に返還義務が生じる「貸与型」の2種類があるが、日本では全体の約9割が貸与型だとされる。しかも無利子ではなく、「有利子」の貸与型を利用せざるを得ない学生が多いのが、日本の特徴だ。日本学生支援機構による奨学金では、有利子が7割を超えている。

「日本の奨学金制度は『金融事業化』してしまっている」と指摘するのは、奨学金問題に詳しい岩重佳治弁護士だ。「欧米では奨学金とは給付型のことを指し、貸与型については『学資ローン』と呼んで区別している」と語り、日本は本来の奨学金制度とは違う方向に進んでいると批判する。

■返済に苦しむ人への「支払督促」が増えている

岩重弁護士によると、もともと奨学金事業を担っていた日本育英会から日本学生支援機構に引き継がれた2004年以降、奨学金が「金融事業」と位置づけられ、その後、金融的手法の導入が進んだという。奨学金に占める有利子の割合や民間資金の流入が拡大。返済金の回収も強化され、2010年度からは返済が滞れば、滞納者として「全国銀行個人信用情報センター」に登録されるようになった。

回収の強化といえば、近年、裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者が急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大しているのだ。

この背景について、岩重弁護士は「最近は債権管理部ができたり、債権回収会社を利用したりするなど、回収が徹底されるようになった。おそらく、財務にかなり焦げ付きがあり、回収強化に乗り出したのだろう」と推測する。その上で「本来であれば、雇用情勢が悪化しているのだから、救済手段の強化や制度を柔軟化するなどの対応を取るべきだが、そこの見極めができていないため悲劇が起きている」と苦言を呈した。

返還猶予制度の運用にも問題があるようだ。日本学生支援機構の奨学金には返還期限を猶予する制度がある。岩重弁護士は、この制度について「非常に厳しい要件が課されている上に、運用上も様々な制限が課され、申請方法なども複雑で不明瞭なため、制度を利用できない返済困難者が多い。返還猶予制度はもっと柔軟に分かりやすくするべき」と指摘する。

■返済に困っている人が利用できる「救済手段」

返還猶予制度を利用できない返済困難者はどうすればいいのだろうか。「自己破産や個人再生などの債務整理手続きがある。お金のない人は法テラスを利用して、費用援助を受けながら、専門家の支援を受けるという方法もある」と岩重弁護士はアドバイスする。

また、人によっては時効が成立している場合もある。「返済期日から10年たつと債務の消滅時効が成立し、支払わなくてもよくなる」。ところが、時効についての知識がなく、「時効成立を知らないで、払い続けている人がいる」という。

奨学金を返せない若者が増えている現状を打破するため、岩重弁護士は全国の法律家や学者らとともに2013年3月31日、「奨学金問題対策全国会議」(仮称)を設立する予定だ。全国会議では、返済できないで困っている人の救済に個別で取り組む。

一方で、奨学金制度の抜本的な改善を求める運動を展開し、給付型や無利子の奨学金を増やすことなどを目指していく。岩重弁護士は「当事者にも声を上げてもらって、国民的議論にしていきたい」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

※追記:奨学金の返還が遅れている者の数字を訂正しました(2013年3月18日)

生活苦から学生時代に借りた奨学金の返済に困っている人が増えている。不景気で就職難やリストラなど働く環境が悪化していることが影響しているとみられる。なかには、奨学金の返済遅延が足かせとなって、夢をあきらめたり、結婚ができなかったりする若者も少なくない。この問題に詳しい弁護士は「日本の奨学金制度の抜本的な改善が必要だ」と指摘している。

奨学金事業を請け負う日本学生支援機構の資料によると、奨学金の返済が遅れている者は、2004年の約25万人に対して、2011年が約33万人と増加している。

奨学金には、返還義務のない「給付型」と卒業後に返還義務が生じる「貸与型」の2種類があるが、日本では全体の約9割が貸与型だとされる。しかも無利子ではなく、「有利子」の貸与型を利用せざるを得ない学生が多いのが、日本の特徴だ。日本学生支援機構による奨学金では、有利子が7割を超えている。

「日本の奨学金制度は『金融事業化』してしまっている」と指摘するのは、奨学金問題に詳しい岩重佳治弁護士だ。「欧米では奨学金とは給付型のことを指し、貸与型については『学資ローン』と呼んで区別している」と語り、日本は本来の奨学金制度とは違う方向に進んでいると批判する。

■返済に苦しむ人への「支払督促」が増えている

岩重弁護士によると、もともと奨学金事業を担っていた日本育英会から日本学生支援機構に引き継がれた2004年以降、奨学金が「金融事業」と位置づけられ、その後、金融的手法の導入が進んだという。奨学金に占める有利子の割合や民間資金の流入が拡大。返済金の回収も強化され、2010年度からは返済が滞れば、滞納者として「全国銀行個人信用情報センター」に登録されるようになった。

回収の強化といえば、近年、裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者が急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大しているのだ。

この背景について、岩重弁護士は「最近は債権管理部ができたり、債権回収会社を利用したりするなど、回収が徹底されるようになった。おそらく、財務にかなり焦げ付きがあり、回収強化に乗り出したのだろう」と推測する。その上で「本来であれば、雇用情勢が悪化しているのだから、救済手段の強化や制度を柔軟化するなどの対応を取るべきだが、そこの見極めができていないため悲劇が起きている」と苦言を呈した。

返還猶予制度の運用にも問題があるようだ。日本学生支援機構の奨学金には返還期限を猶予する制度がある。岩重弁護士は、この制度について「非常に厳しい要件が課されている上に、運用上も様々な制限が課され、申請方法なども複雑で不明瞭なため、制度を利用できない返済困難者が多い。返還猶予制度はもっと柔軟に分かりやすくするべき」と指摘する。

■返済に困っている人が利用できる「救済手段」

返還猶予制度を利用できない返済困難者はどうすればいいのだろうか。「自己破産や個人再生などの債務整理手続きがある。お金のない人は法テラスを利用して、費用援助を受けながら、専門家の支援を受けるという方法もある」と岩重弁護士はアドバイスする。

また、人によっては時効が成立している場合もある。「返済期日から10年たつと債務の消滅時効が成立し、支払わなくてもよくなる」。ところが、時効についての知識がなく、「時効成立を知らないで、払い続けている人がいる」という。

奨学金を返せない若者が増えている現状を打破するため、岩重弁護士は全国の法律家や学者らとともに2013年3月31日、「奨学金問題対策全国会議」(仮称)を設立する予定だ。全国会議では、返済できないで困っている人の救済に個別で取り組む。

一方で、奨学金制度の抜本的な改善を求める運動を展開し、給付型や無利子の奨学金を増やすことなどを目指していく。岩重弁護士は「当事者にも声を上げてもらって、国民的議論にしていきたい」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

※追記:奨学金の返還が遅れている者の数字を訂正しました(2013年3月18日)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る