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初の「司法取引」で法人が不起訴に、企業は「いかに開示するか」問われる時代に
2018年08月08日 10時00分

海外の贈賄事件をめぐり初の日本版「司法取引」制度が適用された。日本経済新聞電子版などの報道(7月20日付)によれば、タイの発電所建設に絡み、事業を受注した三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の社員らが現地の公務員に現金を渡したとされる事件で、「司法取引」により法人に対しては不起訴処分がなされることとなった。

事件は内部通報がきっかけで、同社が東京地検特捜部に報告書を提出していた。内部通報制度に詳しい弁護士は、今回の司法取引事例をどう評価するのだろうか。刑事事件にも内部通報制度にも詳しい大森景一弁護士に聞いた。

海外の贈賄事件をめぐり初の日本版「司法取引」制度が適用された。日本経済新聞電子版などの報道(7月20日付)によれば、タイの発電所建設に絡み、事業を受注した三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の社員らが現地の公務員に現金を渡したとされる事件で、「司法取引」により法人に対しては不起訴処分がなされることとなった。

事件は内部通報がきっかけで、同社が東京地検特捜部に報告書を提出していた。内部通報制度に詳しい弁護士は、今回の司法取引事例をどう評価するのだろうか。刑事事件にも内部通報制度にも詳しい大森景一弁護士に聞いた。

●今年6月1日に施行された「協議・合意制度」

ーーそもそも日本版「司法取引」とはどのような制度なのでしょうか

「『日本版司法取引』とは、正しくは『協議・合意制度』のことです。2016年(平成28年)の刑事訴訟法改正によって導入され、今年6月1日から施行されました。

制度が導入された目的は、一定の組織的な犯罪について、被疑者・被告人と検察官とが、他人の刑事事件について証拠収集等の協力行為をすることと引き換えに、検察官が被疑者・被告人の刑事事件の起訴・不起訴の判断や求刑について軽減することを合意する制度です。

立法段階においては、この制度によって、暴力団や犯罪集団の末端の関与者から首謀者その他の上位者の関与を供述させること、つまり上位者や組織が末端の関与者をトカゲの尻尾のように切り捨てることを防止することが主に想定されてきました」

●「法人について全く何の処分もなかったのは、やや均衡を欠く」

ーー今回、立件が見送られたのは法人だったため、違和感があるとの声も上がっています

「この事案においては、会社が、社内の関与者個人に関する情報を提供することによって、法人としての処罰を免れることになりました。制度としては、協議・合意を行う者の地位に限定はありませんので、当然想定しうることでしたが、いわば組織が社員を売って『尻尾切り』したかのようにもみえ、違和感をもって受け止められたのだと思います。

これまで、法人の両罰規定(直接の実行行為者だけでなく、法人も罰する旨の規定)がある場合に、犯罪行為が会社の業務の一環として行われたときは、法人のみが免責されることはまずありませんでした。

しかも、今回起訴された役員・社員らは会社のために犯罪行為に手を染めたことが明らかであり、それによって会社も利益を得たと思われます。

また、協議・合意に入る前に約3年間にわたり捜査がなされていたとも報道されており、協議・合意による情報が捜査に大きく影響したとは考えにくい面もあります。企業犯罪については組織に対する処罰を進めていこうというのが時代の趨勢でもあります。今回、法人について全く何の処分もなかったのは、やや均衡を欠くようにも思えます」

ーー検察の狙いはどこにあったのでしょうか

「今回のような司法取引の運用がなされうることを明らかにすることによって、企業にコンプライアンスを促進させる意図があったのかもしれません。ただ、前述のような事情のある中で、あえて検察庁が協議・合意を会社側に持ちかけてまで会社を不起訴としたことの是非については議論が分かれるところかと思います」

●企業は「いかに有効に開示するか」を考える時代に

ーー今後については、どのように評価されますか

「今回のような運用が明らかになったことにより、企業は、社内の不祥事が判明した場合、『いかに隠蔽するか』ではなく、『いかに有効に開示するか』を考えなければならなくなったといえます。また、違法行為の未然防止を図るだけでなく、違法行為を積極的に探知していくことも重要となったといえます。

今回の事案では、社内の内部通報制度によって違法行為を探知したと報道されています。今後、企業は内部通報制度をいかに実効的なものにするか、真剣に考えなければなりません。

企業としては、『尻尾切り』ととらえられるようなことがないように、自らの規律をただすことも忘れてはなりません。常日頃から、企業として法令等を遵守する方針であり、違法行為によって利益を上げ、損失を回避することは認められないことを明らかにし、責任を取るべき者がきちんと責任を取ることが重要です。

また、社員・役員としても、会社のために不正に関与しても会社が守ってくれない場合があることを認識し、会社が不正を行うことがないように動くとともに、やむをえず社内の不正に関与することになった場合には、社内での解決を探るのか、それとも、弁護士に相談し、捜査機関に積極的に情報提供して司法取引で自らの処分を免れる道を探るのか、検討する必要がでてくるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

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