「これでは根っこは変わらない」。フジテレビ系列の地方局で働く現役局員は、弁護士ドットコムニュースの取材に不服そうに口を開いた。
元タレントの中居正広さんと元フジテレビ社員の女性とのトラブルをめぐって、第三者委員会が調査報告書をまとめ、清水賢司社長が記者会見を開いたことを受けてのものだ。
第三者委がトラブルについて「業務の延長線上の性暴力」と結論づけたことで、清水社長は「被害女性に対して、大変つらい思いをさせてしまったことについて、深くおわび申し上げます」と陳謝。
そのうえで、コンプライアンス研修の義務化やガバナンス強化といった再発防止策を示していた。しかし、系列局員からは厳しい視線が向けられている。
●「もう一人の被害者」ともいえるフジテレビ系列局
中部地方の系列局に勤務する30代男性局員は「各スポンサーのCM再開がさらに遠のいたのは間違いない」と改めて危機感を示した。
フジを除き全国27局ある系列局は、その多くがフジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(HD)の子会社ではなく「別会社」。
とは言え、同局の番組やそれに付随するCMを放送しているため、「グループ会社」や「子会社」として認識するスポンサーは少なくない。
実際に、全国を対象に広告活動する「ナショナルスポンサー」だけでなく、地元企業のCMも差し替えたという局もあり、「第三者委員会の報告を聞いてから今後の付き合いを考えたいというスポンサーもいる。テレビ広告を出さない理由になっている」と嘆く局員もいる。
●「タレントに媚びていたのか…」
男性局員が危機感を感じた理由は、第三者委員会の記者会見で明らかになったフジテレビの企業体質だ。
今回のトラブルでは、中居さんから相談を受けた社員が同社の番組に出演している弁護士を紹介したことがわかっている。
「単純にショック。社内にいる被害女性の声をないがしろにして、タレントに媚びていたのかと…」
また、報告書では、幹部によるハラスメント事案も認定されて「人権意識が低く、セクハラに非常に寛容」と指摘された。
Aさんが最も恐れるのは、フジテレビの売上減少が長引くことで、キー局から系列局に配分される「ネット収入」の減少。現在も広告収入への影響は続いているという。
「関係者の処分が適正、迅速におこなわれるとともに、徹底的な改革が進み信頼が回復するのを待つしかないが、まったく見通せない状況だ」
4月1日におこなわれた入社式で、この系列局の社長も同様の認識を示したという。
●フジの再発防止案は「物足りない」
フジテレビの清水社長は3月31日の記者会見で、再発防止に向けた「再生・改革プラン」を発表した。
コンプライアンス研修の義務化や、ガバナンス強化のため社長直轄の「サステナビリティ経営委員会」の新設、不適切な経理処理を防止するための全社的なルールの明文化などが示された。
さらに、親会社のフジ・メディアHDに「グループ人権委員会」を設置。人権に関する調査を継続的におこない、結果を公表していくとしている。
これらの再発防止策について、男性局員は「フジテレビにも報告書が公表されたのは昨日。それ以前に考えたものだと思うので、仕方ない部分はある」と前置きしつつも、「物足りない」と断じる。
この男性局員は新経営陣の陣容を最も問題視している。フジ・メディアHDが3月27日に発表した新たな経営体制では、フジテレビは日枝久氏など12人が退任。取締役を社外も含め、22人から10人に減らしたうえで、過半数の6人を社外出身にした。
「刷新されたと言っても組織で育った人間が残っている。少なくとも社長を外部から招へいしない限り、表向きは変わっても、根っこでは変わらない」
●再生に向けての「禊」は始まったばかり
近年の人手不足は、かつて人気業界と言われたテレビ局でも例外ではない。男性局員のテレビ局に今年入社したのはたった1人だった。東北の系列局では今回の騒動を受けて内定辞退した人もいたという。
男性局員は「地方局はただでさえ若手の離職が相次いでいる。その動きがさらに加速するのでは」と憂えた。
「マスゴミ」「オワコン」と揶揄されて久しいテレビ業界。今回の報告書が公表されたことで、ますます嫌悪感と失望感は広がったといえる。
衰退を食い止め、かつての輝かしい姿を取り戻せるか。再生に向けての禊(みそぎ)は始まったばかりだ。