14058.jpg
毎日新聞の五輪風刺漫画、弁護士「著作権侵害の可能性」を指摘 絵本「はらぺこあおむし」使う
2021年06月09日 16時00分

世界中にファンの多い絵本作家エリック・カールさんの作品「はらぺこあおむし」になぞらえた風刺漫画が波紋を呼んでいる。

問題となっているのは、6月5日付の毎日新聞朝刊に掲載された「経世済民術」というコーナーに掲載された風刺漫画で、「エリック・カールさんを偲んで はらぺこIOC 食べまくる物語」と題され、はらぺこあおむしになったバッハ会長をはじめとするIOC委員たちが、リンゴならぬ放映権という「ゴリンの実」を食べているというもの。

これに対し、「はらぺこあおむし」の出版元である偕成社(東京都文京区)の今村正樹社長は6月7日、ホームページで「風刺漫画のあり方」という文書を掲載し、「多くの子どもたちに愛されている絵本『はらぺこあおむし』の出版元として強い違和感を感じざるを得ませんでした」と批判している

エリック・カールさんは今年5月に亡くなったばかりで、悼むファンも多い。そうした中、毎日新聞の風刺漫画には批判が寄せられているが、そもそも著作権侵害にはあたらないのだろうか。著作権に詳しい齋藤理央弁護士に聞いた。

世界中にファンの多い絵本作家エリック・カールさんの作品「はらぺこあおむし」になぞらえた風刺漫画が波紋を呼んでいる。

問題となっているのは、6月5日付の毎日新聞朝刊に掲載された「経世済民術」というコーナーに掲載された風刺漫画で、「エリック・カールさんを偲んで はらぺこIOC 食べまくる物語」と題され、はらぺこあおむしになったバッハ会長をはじめとするIOC委員たちが、リンゴならぬ放映権という「ゴリンの実」を食べているというもの。

これに対し、「はらぺこあおむし」の出版元である偕成社(東京都文京区)の今村正樹社長は6月7日、ホームページで「風刺漫画のあり方」という文書を掲載し、「多くの子どもたちに愛されている絵本『はらぺこあおむし』の出版元として強い違和感を感じざるを得ませんでした」と批判している

エリック・カールさんは今年5月に亡くなったばかりで、悼むファンも多い。そうした中、毎日新聞の風刺漫画には批判が寄せられているが、そもそも著作権侵害にはあたらないのだろうか。著作権に詳しい齋藤理央弁護士に聞いた。

●エリック・カールさんの表現をほぼ丸写し

「著作権侵害に当たる可能性が十分にあります」と齋藤弁護士は、厳しく指摘する。その理由は、はらぺこあおむしの描かれ方にあるという。

「エリック・カールさんの特徴的な作風で描かれたはらぺこあおむしのイラストの胴体部分を、ほぼ丸写しして顔部分だけ人の顔に置き換えているため、著作権の内、翻案権という権利の侵害となる可能性があります。

エリック・カールさんのはらぺこあおむしは顔も非常に特徴的で、今回はその顔はつかっていないので一見著作権侵害にならないようにも見えるのですが、胴体だけでもポーズや足の本数、描き方の表現にも作者の個性が現れています」

特に、エリック・カールさんは「色の魔術師」とも呼ばれる作家で、特にその色使いは独特だ。

「今回の風刺画は、このはらぺこあおむしの胴体部分の特徴的な表現をほぼそのまま丸写ししています。特に、色使い(例えば黄緑や水色を混ぜている部分や配列など)などもそのまま丸写しなので、著作権侵害となる可能性が十分あると思います。

また、今回は著作者が亡くなっているので『著作者人格権』という権利は直接問題とならないのですが、それでも、エリック・カールさんの『著作者人格権』(今回問題となるのは同一性保持権、氏名表示権、2次的著作物上に新たに成立する公表権の各侵害)を侵害するような利用は違法となりますので、その点でも今回の風刺画は違法と判断される可能性があります」

エリック・カールさんの絵本「はらぺこあおむし」(2021年6月9日、弁護士ドットコム撮影) エリック・カールさんの絵本「はらぺこあおむし」

●メリットよりデメリットの大きな風刺漫画

一方で、偕成社の今村社長は、「風刺の意図は明らかで、その意見については表現の自由の点から異議を申し立てる筋合いではありませんが」とも書いている。

とはいえ、「はらぺこあおむし」の作品意図を無視した上で風刺したため、多くのファンがショックを受けたと考えられる。パロディのあり方とは?

「今回、今村社長は著作権法の表現の自由を制約する面だけをとらえて、表現の自由の点から異議を申し立てる筋合いではないとおっしゃっています。

しかし、今回のケースは表現の自由を侵害する側面が強いため、著作権侵害の結論を導いて法的措置を採る方が表現の自由にとってメリットが大きい可能性があります。

著作権法は、表現の自由を制約する側面がありますが、それ以上に表現者の表現の自由を保護する側面も強い法律です。特に著作者人格権の根拠を憲法21条に求める考え方があるほか、著作財産権も単純な財産権という考え方のほかに、幸福追求権や表現の自由の保障に根拠を求める考え方があります。

そうすると、今回の風刺漫画は作者であるエリック・カールさんの作品意図をゆがめて、読者にその間違った作品意図を伝えてしまう可能性があります。

これは、作者の表現の自由を侵害する行為であるとともに、読者の知る権利を損なう行為でもあるのです。そして、今回の風刺漫画にははらぺこあおむしの表現の自由を侵害するデメリットを侵すだけのメリットがないと個人的には思います。

そうすると、今回の風刺漫画は作者や国民にとっては徒に表現の自由や知る権利を奪われるだけの行為で、表現の自由の観点からみてデメリットの方が大きい行為とも言えます」

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る