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被告人の「アリバイ」主張を地裁が制限――根拠となった「公判前整理手続」とは?
2015年07月01日 16時33分

和歌山地裁が2013年、詐欺事件の公判で被告人が話した「アリバイの供述」を制限したことに対して、最高裁は今年5月25日付の決定で、法律の解釈に誤りがあると指摘した。

決定によると、1審の被告人質問で、被告人は、犯行日時に「自宅でテレビを見ていた」とアリバイを供述した。弁護人はさらにくわしい供述を求めたが、検察官が異議を申し立て、裁判所がこれを認めたため、被告人の供述が制限されたということだ。

この事件は、法廷での公判が始まる前に争点を整理する「公判前整理手続」に付されていた。検察官が異議を申し立てた理由は、この公判前整理手続で主張していない事柄であって、「本件の立証事項と関連性がない」というものだった。

最高裁は、検察の異議を容れて被告人質問を制限した1審裁判所の措置は「法令の適用に誤りがある」と判断した。一方で、その誤りは判決に影響しないとして、被告人を懲役4年とした1審、2審の判決を支持し、上告を棄却した。

今回の地裁の判断のように、公判前に争点整理の手続を行うと、なぜ、裁判での主張が制限されることがあるのだろうか。刑事手続に詳しい荒木樹弁護士に聞いた。

和歌山地裁が2013年、詐欺事件の公判で被告人が話した「アリバイの供述」を制限したことに対して、最高裁は今年5月25日付の決定で、法律の解釈に誤りがあると指摘した。

決定によると、1審の被告人質問で、被告人は、犯行日時に「自宅でテレビを見ていた」とアリバイを供述した。弁護人はさらにくわしい供述を求めたが、検察官が異議を申し立て、裁判所がこれを認めたため、被告人の供述が制限されたということだ。

この事件は、法廷での公判が始まる前に争点を整理する「公判前整理手続」に付されていた。検察官が異議を申し立てた理由は、この公判前整理手続で主張していない事柄であって、「本件の立証事項と関連性がない」というものだった。

最高裁は、検察の異議を容れて被告人質問を制限した1審裁判所の措置は「法令の適用に誤りがある」と判断した。一方で、その誤りは判決に影響しないとして、被告人を懲役4年とした1審、2審の判決を支持し、上告を棄却した。

今回の地裁の判断のように、公判前に争点整理の手続を行うと、なぜ、裁判での主張が制限されることがあるのだろうか。刑事手続に詳しい荒木樹弁護士に聞いた。

●新たな証拠の提出は原則として許されない

「公判前整理手続とは、刑事訴訟法の改正により2005年から導入された、刑事裁判の準備手続のひとつです。この手続は、充実した裁判を計画的・迅速に行うために、事件の争点・証拠を整理することを目的としています。

裁判所がこの手続によって裁判を行うと決定した場合、裁判の主張・立証予定の内容について、検察官・弁護人は、公判が始まる前に、あらかじめその内容を明らかにする必要があります。この手続は、非公開で実施されます」

荒木弁護士はこのように述べる。裁判が始まる前に、情報の整理を済ませておいて、裁判をスムーズに進めるための制度というわけだ。

「公判前整理手続に付された刑事裁判では、公判(裁判)が始まった後に、新たな証拠を提出することは、やむを得ない場合を除いて、原則として許されません」

どうしてそういうルールになったのだろうか。

「公判前整理手続は、迅速な裁判を実現するための制度であるので、自由に新たな証拠の提出を許すと、事前に争点を整理した意味がなくなってしまうからです。

ただ、新たな『証拠』は提出できなくても、新たな『主張』をすることは禁止されていません」

今回のケースでいえば、アリバイを裏付ける証拠は裁判に提出できなくても、「アリバイがあった」と主張することはできるというわけだ。では、和歌山地裁では、なぜアリバイがあったと主張したことが問題視されたのだろうか。

「新たな主張が禁止されていないといっても、公判前整理手続では、慎重に準備を行い、これ以外に新たな主張がないかどうかの確認がおこなわれたはずです。

それにもかかわらず、公判で前言をくつがえして、新たな主張を自由にすると、公判前整理手続の意味がなくなってしまいます。何よりも、裁判に対して不誠実です。

そのため、公判前整理手続の経緯などによっては、被告人の陳述が制限され、その結果、主張が制限されることもあると考えられています」

●被告人の主張が制限されることもありうる

「今回のケースは、弁護人からの被告人質問の途中で、被告人が、アリバイに関する具体的な事実を話し始めたため、検察官が異義を述べ、地裁が、被告人質問を制限した事案です。この裁判では、公判前整理手続で、被告人側はアリバイの主張を一応はしていました。

ただ、公判前整理手続でのアリバイ主張の内容が曖昧・不明確であったため、具体的な弁解を始めた被告人質問に、検察官が異義を申し立て、地裁が制限したのです。

一方、最高裁は、『公判前整理手続で一応はアリバイの主張をしている以上、アリバイに関する被告人質問を制限することは相当ではない』と判断し、被告人質問を制限した一審の裁判手続が違法であると指摘しました」

結局のところ、公判前整理手続で全く主張していなかったアリバイを公判で主張できるようになったというわけではないということか。

「そうですね。『被告人の弁解は全く自由である』わけではありません。

むしろ、今回の事件を通じて、公判前整理手続の導入後は、裁判手続の事情によっては、被告人の弁解が制限されることもあることが、最高裁判所の判例上も確認されたと思われます」

荒木弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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