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北京「禁煙条例」屋内での喫煙を全面禁止に――日本で制定されたら「憲法違反」?
2015年06月09日 10時43分

中国・北京市で6月1日から、屋内での喫煙を全面的に禁止する条例が施行された。2022年冬のオリンピック招致に向けて、喫煙大国からのイメージ改善をはかる狙いという。

報道によると、今回施行された「北京市喫煙管理条例」は、オフィスビルや飲食店といった「屋根のある場所」での喫煙を全面的に禁止するほか、空港や駅など公共の場所も禁煙。個人の違反者には、最高で約4000円の罰金を科すという。

5年後に東京オリンピックを迎える日本でも、こんな条例をつくってほしいと思う人がいるかもしれない。しかし、東京都内のIT企業につとめる喫煙者の男性は「タバコを吸う権利は人権ですよ! もしこんな条例ができたら、僕は暴動を起こしますね」と、力説していた。

男性の言うように「タバコを吸う権利は人権」だとすれば、禁煙条例は人権をかなり制限する内容といえる。仮に日本で北京と同じような条例を作ったら、憲法違反になるのだろうか? 憲法問題にくわしい伊藤建弁護士に聞いた。

中国・北京市で6月1日から、屋内での喫煙を全面的に禁止する条例が施行された。2022年冬のオリンピック招致に向けて、喫煙大国からのイメージ改善をはかる狙いという。

報道によると、今回施行された「北京市喫煙管理条例」は、オフィスビルや飲食店といった「屋根のある場所」での喫煙を全面的に禁止するほか、空港や駅など公共の場所も禁煙。個人の違反者には、最高で約4000円の罰金を科すという。

5年後に東京オリンピックを迎える日本でも、こんな条例をつくってほしいと思う人がいるかもしれない。しかし、東京都内のIT企業につとめる喫煙者の男性は「タバコを吸う権利は人権ですよ! もしこんな条例ができたら、僕は暴動を起こしますね」と、力説していた。

男性の言うように「タバコを吸う権利は人権」だとすれば、禁煙条例は人権をかなり制限する内容といえる。仮に日本で北京と同じような条例を作ったら、憲法違反になるのだろうか? 憲法問題にくわしい伊藤建弁護士に聞いた。

●日本でも「禁煙条例」を施行できる?

「『タバコを吸う権利』は、憲法に明記されてはいませんが、考え方によっては、憲法13条の『幸福追求権』から導き出すことができるかもしれません。

ただ、残念ながら、『タバコを吸う権利』が幸福追求権として保障されるとしても、憲法の明文で保障されたほかの人権に比べると、『弱い人権』であると考えられます。

タバコは嗜好品に過ぎず、生活必需品とまではいえないからです」

伊藤弁護士はこのように説明する。

「禁煙条例が問題になるのは、むしろ飲食店などの『営業の自由』との関係でしょう。

営業の自由について、最高裁は『職業選択の自由を保障した憲法22条1項で保障される職業選択の自由に含まれる』と判断しています。つまり、これは『強い権利』と言えます」

どういうことだろうか?

「飲食店の店主は、自分の店を全面禁煙にするか、それとも分煙や全面喫煙にするかを自由に決める『営業の自由』という権利を持っているんですね。もし全面禁煙を強制すれば、店主が持っている自由を制限することになります。

こうした『国民の自由』を、国家が制約するためには、制約によって失われる利益よりも、得られる利益が大きくなければなりません。

一般的には、『自由を制約する目的に価値があるといえるか』と、『その目的を達成するために、その手段でいいのか』といった点が問題となってきます」

●全面的な「禁煙条例」は憲法違反か?

「禁煙条例をつくる目的が、オリンピックのための政治的アピールなら、憲法で保障された権利を制約する根拠になるとは言い難いでしょうが、『受動喫煙から国民の生命・身体を保護すること』ならば、目的の重要性は認められそうです。

しかし、有害だから全面禁止というのは、目的を達成するための『手段』として、いくらなんでも乱暴です。

受動喫煙を防止するためには、なにも『屋根のある場所』での喫煙を全面的に禁止する必要はありません。たとえば、喫煙席と禁煙席を完全に分離したり、高性能な空気清浄機の設置を義務付けたりすることで、受動喫煙は防止できるはずです。

また、空港や駅といった公共の場所での全面禁煙はやむを得ないとしても、喫煙の自由を不当に制約しないように、全面禁煙の対象となる施設を限定する、喫煙所の設置を義務付けるなどの措置をとるべきでしょう。

たしかに、日本はWHOの『たばこ規制枠組条約』を批准しておりますし、健康増進法や労働者安全衛生法は受動喫煙防止につき定めていますが、いずれも北京の『禁煙条例』のような法的強制力はありません。また、厳しいといわれる神奈川県の禁煙条例は、完全な全面禁煙ではなく、喫煙所の設置や分煙を認めています。(※この段落は6月12日に追記しました)

他人に悪影響があるものは、なんでもかんでも規制すべきだとの風潮もありますが、喫煙者でなくとも、喫煙者の気持ちもきちんと考えるのが、憲法の流儀です。次に規制されるのは、あなたの大好きな趣味かもしれませんから」

(弁護士ドットコムニュース)

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