都内の動物病院に入院していた愛犬が火災で死亡したとして、飼い主の60代男性が8月4日、病院と獣医師を相手取り、300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
原告の男性はこの日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き「亡くなった愛犬は、私にとって家族です。家族を失った悲しみや無念を知っていただき、二度とこのような事件が起きないようにうったえたいです」と語った。
●原告側「病院側に安全配慮義務違反あった」
訴状によると、原告の愛犬「ミエル」(5歳)は今年5月、ヘルニアの手術のため動物病院に入院。術後の経過は順調だったが、3日後の朝、動物病院で火災が発生し、一酸化炭素中毒で死亡したという。この火災では、ミエルのほかにもう1頭の犬も命を落とした。
原告側は、火災の原因について、院内で使用していたバリカンの長時間の充電や、充電に使用するコードの劣化だったと主張。現在、東京消防庁に原因の確認を求めているという。
そのうえで、病院側には、入院している動物の安全を配慮する義務があったにもかかわらず、機器の点検や管理を怠ったことが火災につながったとうったえている。
また、病院が自社ホームページで、火災の事実を明らかにしたものの、犬が死亡したことは記載せず、謝罪もなかったなどとして、原告は多大な精神的苦痛を受けたとしている。
●「ミエルは苦しんで亡くなったのではないか」
原告男性によると、ミエルはマルチーズとトイプードルのミックス犬(いわゆるマルプー)で、保護シェルターから引き取った子だった。物怖じせず、誰からも可愛がられる性格だったという。
原告は記者会見で、ミエルの死の連絡を受けたときの心境をこう振り返った。
「手術後は食欲もあり、病院から着信があったときは、退院の知らせかと思いましたが、死亡したと聞いて、本当に驚きました。ミエルを引き取りに病院に行くと、壁が黒ずんでおり、ケージにはミエルともう1頭の犬が亡くなっているのが確認できました。
ミエルは、火災で高温になった室内で苦しんだのではないかと思います。以来、私も家族も抑うつ症状やフラッシュバックが続いています。
法律上、ペットは『物』として扱われますが、ただの『物』ではなく、家族であり、命であることを強調したいです。この裁判で事実が明らかになることを望んでいます」
●原告代理人、慰謝料の「相場」見直しうったえる
原告代理人をつとめる渋谷寛弁護士は会見で、民法上、ペットは「物」として扱われてきたものの、裁判では慰謝料が認められてきた歴史があり、ケースにもよるが、一般的には、数十万円が相場だと説明。
今回の請求額が300万円と高額であることについては、「過去の裁判例からそこまで高額な請求はできないが、今の動物の慰謝料についての基準が安すぎる、社会の実情に合わせてほしいという願いもこめています」と述べた。
原告男性(右)と渋谷寛弁護士(2025年8月4日、弁護士ドットコム撮影)
病院側の代理人は、弁護士ドットコムニュース編集部の取材に「訴状を拝見していないので、コメントは控えさせていただきます」と回答した。