17693.jpg
死なせても執行猶予、どんなとき? 傷害致死事件の判決で「激しい怒り、理解できる」
2017年11月21日 10時03分

妻に暴力をふるい、傷害致死の罪に問われていた東大阪市の男性(37)の裁判員裁判で大阪地裁は11月13日、「被告人が激しい怒りを覚えたのは理解できる」などとして、懲役3年執行猶予5年の判決を下した。

MBSニュースによると、男性は今年4月、不倫した妻に激昂し、何度も頭を殴るなどした結果、急性硬膜下血腫などの傷害を負わせて死亡させた疑いがもたれていた。

判決で大阪地裁は、男性を非難しつつも、「激しい怒りを覚えたのは理解ができ、重大な傷害を負わせる意図はなかった」として、執行猶予付きの判決を出したという。

人を死に至らしめてしまった場合、どんな状況であれば執行猶予が付くのだろうか。小野智彦弁護士に聞いた。

妻に暴力をふるい、傷害致死の罪に問われていた東大阪市の男性(37)の裁判員裁判で大阪地裁は11月13日、「被告人が激しい怒りを覚えたのは理解できる」などとして、懲役3年執行猶予5年の判決を下した。

MBSニュースによると、男性は今年4月、不倫した妻に激昂し、何度も頭を殴るなどした結果、急性硬膜下血腫などの傷害を負わせて死亡させた疑いがもたれていた。

判決で大阪地裁は、男性を非難しつつも、「激しい怒りを覚えたのは理解ができ、重大な傷害を負わせる意図はなかった」として、執行猶予付きの判決を出したという。

人を死に至らしめてしまった場合、どんな状況であれば執行猶予が付くのだろうか。小野智彦弁護士に聞いた。

●やるせなさすぎる裁判例たち

小野弁護士によると、今回のような傷害致死だけでなく、殺人事件でも執行猶予がつくことがあるという。

「たとえば、夫の介護を続けていた妻が、昔の不倫相手である若い女性の話をされ、その怒りと介護の不安が原因で、夫を殴り殺した事例がありました。裁判所は、その妻に対し、懲役3年執行猶予5年という判決を下しました(2015年6月25日)。

また、認知症の母親の介護に専念するため仕事を辞めた男性が、失業保険も切れ、生活に困窮した末、『最後の親孝行』と母親を車椅子に乗せて、京都観光をしたのちに無理心中を図ったものの、男性が生き残り、承諾殺人罪に問われた事例がありました。裁判所は、その男性に対して懲役2年6月執行猶予3年という判決を言い渡しました(2006年7月21日)」

もちろん、最初の例のような殺人での執行猶予は例外的。そもそも、執行猶予の条件の1つは、「3年以下の懲役もしくは禁固、または50万円以下の罰金」(刑法25条1項)。これに対し、殺人罪の法定刑は、死刑か無期か5年以上の懲役(刑法199条)だ。このままでは執行猶予はつかない。

そこでポイントになるのが、「情状酌量」だという。

「情状酌量の余地があれば、刑は半分になりえますので、情状酌量があって初めて執行猶予の俎上に乗るわけです。

介護疲れや無理心中の事案では、献身的な介護ぶり、介護の苦しみ、絶望感などを裁判所が理解し、比較的執行猶予が付くようです。

一方、今回のような傷害致死罪の法定刑は、3年以上の有期懲役なので(刑法205条)、そのままで執行猶予の俎上には乗るわけです。ただ、人の死という結果が発生している重大な事件ですので、執行猶予が付くためには、相当な情状がなければなりません」

●ポイントは「加害者にどれだけ同情できるか」

では、今回の事例はどのように考えられるだろうか。そもそも、なぜ傷害致死なのだろうか。

「殺人罪と傷害致死罪の違いは、まさに『殺意』があったかどうかによります。死んでも構わないと思って殴ったりすれば、殺人罪に問われますし、死ぬことはないと思って殴り、その結果死んでしまったという場合には、傷害致死罪に問われます。殺意の有無によって、法定刑は大幅に違ってくるのです。殺意の有無は、どこを狙ったかによっても認定されることがあります」

執行猶予付きの判断についてはどうだろうか。

「今回の事例は、傷害致死罪(=3年以上)のケースなので、殺人罪(=5年以上)に比べれば、圧倒的に執行猶予が付きやすいことになります。ただ、死の結果が発生しているので、その加害者にどれだけ同情できるケースなのかがポイントにはなるでしょう。

詳しい事情はわかりませんが、配偶者が不倫し、それが発覚した場合、激怒するのは責められるものではありません。怒りを通り越して手が出るというのも、褒められたものではありませんが、ある程度やむをえないものだと思います。

その意味では、殴られても仕方ない面があると認定したのかもしれません。殴る蹴るには理由があって、その発端が被害者にあるケースも多々あります。その場合には、もちろん量刑に影響を及ぼすことはあるのです。

なお、執行猶予とは、刑の執行が一定期間猶予されるだけで、その期間に犯罪を犯してしまうとその罪と合わせた年数を刑務所で過ごさなくてはいけなくなります。執行猶予も有罪判決であり、決して無罪放免というわけではありません」

この裁判は裁判員裁判で、ネットでは判決に疑問の声も上がっていた。報道から詳細は分からないが、今後が注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る