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「全てを面白がる」元フジのテレビマンが挑む店舗経営の道 ブックカフェを開業
2023年04月12日 09時51分
#日本の雇用と労働

フジテレビの敏腕テレビマンが第2の人生の職業に選んだのは、ずっと親しんできた本があふれるブックカフェ経営だった。華やかなキャリアを経て、東京・大田区下丸子でブックカフェ「CAFE ZU」を経営する鎌田成穂さん(59)に心のうちをきいた。(取材/文 一木 悠造)

フジテレビの敏腕テレビマンが第2の人生の職業に選んだのは、ずっと親しんできた本があふれるブックカフェ経営だった。華やかなキャリアを経て、東京・大田区下丸子でブックカフェ「CAFE ZU」を経営する鎌田成穂さん(59)に心のうちをきいた。(取材/文 一木 悠造)

●やっぱり制作部門で数字をとった時が一番楽しかった

ーーフジテレビではどんなキャリアを歩んだのですか。

制作部門の経験部署だけで言うと、ドラマ制作、ドキュメンタリー制作、情報バラエティ制作を経験しました。さらに報道部門に行って、それからパッケージと呼ばれるビデオコンテンツ企画開発部門を経て人事に異動、その後社内のコンプライアンス部門に異動しました。

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ーーキャリアの中でやりがいを感じた瞬間は。

やっぱり会社員としては、制作部門に居た時で、自分の作った番組が数字(視聴率)を取って評価された時が一番楽しくて、やりがいがあったことじゃないですかね。

数字的には私が制作に関わったドラマ、私が現場を仕切ったドラマがあって、当時視聴率1位を取ったんですけれども、私は現場を仕切っていただけであって、脚本作りとかには携わっていないし、キャスティングにも携わっていなかったのですが、単純に数字を取れたことは嬉しかった。

特に思い出深いのが、情報バラエティ番組を制作していた時ですね。内容にも深く携わっていまして、数字はいまひとつだったけれども、一部の視聴者が喜んでくれたんです。社会的に意義があるというか、私のやっていることが一部かもしれないけど評価されているというのは、とても嬉しかったですね。

●自分たちの世代がやりたい仕事から離れていくのをみて決断した

ーー逆にキャリアの限界を感じたのはどの時点でしたか。

キャリアというのを出世と置き換えるのであれば、もう早々に40代にはもう私には出世の芽はなかった。40代の時は制作現場の仕事をやりたいと公言していましたし、現場をやりたいってことは出世を諦めることと一緒なんですよ。

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ーー出世の目標はあったのですか。

最終的には役員になれたらと考えていました。役員になれないとわかった瞬間に、しがみつくか、やめるか。どっちかしかないと思いましたね。

50歳を過ぎたら、組織の中では役員になれる人となれない人がはっきりする、さらに言えば、ほとんどの人が役員になれないことがわかるわけじゃないですか。50歳を過ぎて部長になったので、この年齢で部長なら、もう役員にはなれないなと確信していました。

社内を見ていても、自分たちの世代がどんどん閑職というか、要するに自分のやりたい仕事から外されていくわけじゃないですか。若い人に権限を与えていかなければならない会社だから、中高年のベテランプロデューサーが外されるのは当然です。だから僕は僕なりの生き方を見つけようと、会社を辞めるべきだと思いました。

●テレビマンは全部を面白がらなきゃいけない

ーーフジテレビは去年、早期退職を募り大量の社員が去りました。

1500人の会社で700人以上が部長職なんですよ。ほぼ部長職が占める50歳以上に限定して退職を募るという意味では会社の判断は正しい。会社もわかっているかもしれませんが、有能な人から辞めていくんですよ。そういう人は自分の腕一本で食べていけるし、次に何をやりたいか、何をやったらいいかということを理解している。そうではない人が会社にしがみついているのだと思います。

ーーテレビメディアの未来についてどう考えていますか。

テレビ業界はいま以上に伸びることはないと思っています。テレビ局はテレビにしがみつかずに、コンテンツメーカーになるしかない。要するにテレビ局は制作会社にならなきゃダメなんですね。ただの制作会社にはなれないので、テレビ局は制作会社のとりまとめ役になるしかないんですよ。

電波だけで食おうと思ったら絶対無理です。いわゆる動画配信業はすでに地上波テレビの売り上げを抜いています。フジの配信事業も、まずはネットフリックスと対等にならないといけないでしょう。

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ーーテレビの経験が経営に活きたと考えることはありますか。

テレビの仕事から、よく店舗経営に行きましたねと言う方がいらっしゃるんですけど、テレビの仕事は全てが守備範囲ですっていう風に答えています。何かプロジェクトがあって、それ俺の仕事じゃないって言ったらテレビマンとして失格なんですよ。

全部これ面白いねって言わなきゃいけないし、全部を面白がらなきゃいけない。それはね、嫌なことは当然ありますし、仕事をしたくない人だってたくさんいる。ですけど、だからといって、それを頭から拒絶するのは私のスタイルではなかった。とっても嫌なやつなんだけど、ちょっと面白いことを考えているから、こちらもやり方を考えてみるかなという接し方で良いと思います。

●辞めなかったらよかったとは全く思わない

ーーテレビ局員を辞めた実感はありますか。

やっぱり毎月の給料がなくなるってとても怖いことですよね。でも色々考えた末にそういう選択肢しかない、そういう生き方しか私にはできなかったというだけで、現に一般の会社でも収入が激減してるところはあるわけじゃないですか。

だからと言って辞めなかったらよかったとは全く思わない。むしろ辞めるべくして辞めたってことです。ここから店をどう伸ばすかっていうことが私の腕一本にかかっていることがとても面白いと感じています。

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ーーお店を経営するにあたって目標はありますか。

ここを宣伝していくのは最終的には口コミだと思っているので、広告をちょっとずつ始めてるんですけど、いつかどこかでバズらないかなと思っている段階です。広がったらいいなと思っていますけど、広がらなかったら、来年店をたたんでいるかもしれない。

現在店には3000冊あるのですが、3年以上集めて、その間ずっと部屋に貯めていたんですよ。部屋の底が抜けるか、引っ越すのが早いかというぎりぎりのところで出店にこぎつけました。

今は近所の人がお茶を飲みに来てくれたり、SNSで興味を持ってくれた人が足を運んでくれたりしています。お茶のみ話から広がって、お客さんが店に置く本を買ってきてくれることもあります。

店をきちんと離陸させたい。つまり早く経営を軌道に乗せたいですね。今はまだ滑走路を離れたぐらいなので、もうちょっと高度を上げて水平飛行したいです。

【プロフィール】 鎌田 成穂(かまた しげほ) 大学卒業後、1988年フジテレビ入社。ドラマ制作部門、人事部門などを経て2022年に退社。同年、東京・大田区下丸子にブックカフェ「CAFE ZU」を開店。

【取材者プロフィール】 一木 悠造 (いちき ゆうぞう) 主にノンフィクションの現場で取材を重ねてきたフリーライター。

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