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元裁判所職員が語る「裁判記録の捨て方」 事件の内容わからず決裁ハンコも…実態とは
2022年12月27日 10時03分

神戸連続児童殺傷事件など重大な少年事件の記録が廃棄されていたと今年10月、判明したことをきっかけに、オウム真理教の解散命令に関する記録や永久に保存するはずの民事裁判記録が捨てられていたことが次々と明らかになった。

各地裁で記録をつかさどるのは、書記官を中心とした職員だ。「捨てても良いか何度も資料に目を通した」との証言がある一方、「上司は事件番号を見るだけで内容を検討せず決裁していた」という人も。時代や地域によって対応が違うこと、また個人の資質に頼らざるを得ない実態が浮かんできた。

神戸連続児童殺傷事件など重大な少年事件の記録が廃棄されていたと今年10月、判明したことをきっかけに、オウム真理教の解散命令に関する記録や永久に保存するはずの民事裁判記録が捨てられていたことが次々と明らかになった。

各地裁で記録をつかさどるのは、書記官を中心とした職員だ。「捨てても良いか何度も資料に目を通した」との証言がある一方、「上司は事件番号を見るだけで内容を検討せず決裁していた」という人も。時代や地域によって対応が違うこと、また個人の資質に頼らざるを得ない実態が浮かんできた。

●「二度と戻らないもの」慎重に扱っていた

問題になっている「記録」とは、別で残されている判決原本ではなく、当事者による陳述書や関係者の証言など付随する書類のことだ。少年審判では供述調書や精神鑑定書なども含まれる。事件記録等保存規程で、事件の種類によって決められた保存期間を満了したら廃棄となり「首席書記官の指示を受けてしなければならない」(8条2項)とされている。

書記官として10年以上働いたAさんは「廃棄作業はかなり慎重に、シビアにやっているという印象でした。一人だけで判断するということはない。複数人が確認するし、5回以上同じ資料をチェックしている同僚を見たこともあります」と話す。

毎年1回、保存期間(民事はおおむね5年、少年審判は26歳になるまで)を満了した記録をリストアップし、直接資料にあたって判断する。廃棄業者の都合にもよるが、たいていの地裁では年度末におこなわれ、裁断機能を持った大きなトラックに引き渡すのだという。

Aさんは相続関連の記録でも1件1件確認したそうだ。地裁の規模や年代にもよるが、年700〜800件に上る時もあった。年度末に向けて、日々の仕事と別に進める必要があるため、夏から秋ごろに着手する人が多かったという。

「保存期間を迎えた事件のリストアップはデータベースで簡単ですが、入力ミスの場合もあります。実際に冊子となった記録を見て、そこに書き込まれていることを見なければ判断できません」

●事件内容分からぬまま決裁が下った可能性も

一方、20年以上の勤務経験があるBさんは「リストアップは若手の仕事で、決裁のときは具体的な記録にあたらず作られる。事件番号だけで当事者名は載らないので、上司も誰も気がつかず、廃棄の決裁ハンコを押していたと思います」と証言する。

「決裁後はリストに従って記録庫か機械的に抜いて処理するだけで考える余地はない。ただ、記録の厚さから揉めた事件かどうかがわかることもある。つまり書記官の資質に頼る部分が大きいんです。重要性に気づけなかったり、疑問を持っても相談したりしなければそのまま廃棄に回ったと思う」

規程は史料又は参考資料となるべき記録は「特別保存」として永久に保存するとしている(9条2項)。しかし、大分地裁では特別保存に指定されていたにもかかわらず6件が廃棄されていた。

「記録庫から実際に廃棄対象の記録を運び出すのは、廃棄オッケーの決裁が出てから。機械的に抜き出すだけです。つまり、廃棄の決裁が出る前に、(最高裁による)特別保存の指定が出ていないといけない。5年以上前に問題となった裁判なのかどうか、直接担当していない者にはわかるはずがありません」(Bさん)

少年事件を扱ったことがあるAさんも、判断に困る場面があったことを明かす。「資料が薄くても、罪名を見て『本当に捨てていいのかな』と疑問があった時は上司に相談しました。ただ、書記官がその地域に住んでいたとも限らず『当時、耳目を集めた』の判断は難しい」

●有識者による委員会は早期に指針を

民事訴訟の記録廃棄は2019年にも問題となり国会で審議された。憲法判例百選に掲載された重要事件も捨てられたことが判明し、「最高裁判例集に掲載」「主要日刊紙2紙以上に記事が掲載」など特別保存の具体的な基準を東京地裁が例示。研究者や弁護士、一般からの要望も受け、地裁所長が保存認定するとした。全国にも通知され、特別保存の範囲は広がった。

しかし、これはごく最近の方針転換だ。神戸事件は2011年、オウム真理教解散命令は2006年に廃棄されたという。以前の運用の中で失われたという事実が、今明るみに出ている形だ。

「上司に記録とは何かを教え込まれました。私たち職員が一手に担うんです。汚したり、破れたりも許されない。仮に重要な記録を廃棄したら、どんなことになるのか分かっているからこそ、廃棄作業は緊張感のある仕事でした」(Aさん)

Bさんは、担当者の資質だけに頼るのは限界があると指摘する。

「特別保存に指定するか否か、廃棄を担当する書記官が言い出すことは困難です。決裁されたリストに基づいているわけですから。結局、事件が係属している時か終局した直後に、心ある上司が『これは保存の検討対象になる』と指示しないとダメなのです。(2019年以前にも)大学から保存の要望を受けたことがありました。こうしたことは一つの大きな検討材料になります」

最高裁は11月から弁護士と学者3人でつくる「事件記録の保存・廃棄の在り方に関する有識者委員会」で議論を重ねている。現在、廃棄は一時停止中だが記録庫の容量には限界がある。早期に原因を究明するとともに、方針を示すことが待たれる。

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