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シリア渡航を計画したら「パスポート」を回収された! 外務省は「憲法違反」?
2015年02月10日 13時19分

中東の過激派組織「イスラム国」による日本人殺害事件の余波が、思わぬところに及んでいる。イスラム国が勢力を伸ばしているシリアへの渡航を計画していた新潟市のフリーカメラマンの男性が、外務省からパスポート(旅券)の返納を命じられたのだ。

報道によると、男性は2月27日から、トルコを経由してシリアに入国する計画があることを新聞のインタビューなど表明していた。外務省は、警察庁とともに渡航の自粛を強く呼びかけていたが、男性が意思を変えなかったため、返納を命じた。

外務省は、旅券法19条1項4号を根拠にしている。そこでは、「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要がある」と認められる場合に、旅券の返納を命令できると定めている。ただ、同省が、生命や財産の保護を理由に、旅券の返納を命じることは初めてだという。

男性の自宅には2月7日の夜、外務省の職員が訪れ、旅券を回収した。渡航を差し止められた男性は「渡航と報道の自由はどうなるのか。突然のことで困惑している」と話している。この男性は「イスラム国」の支配地域に入るつもりはなかったと説明しているが、はたして「渡航差し止め」の必要はあったのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

中東の過激派組織「イスラム国」による日本人殺害事件の余波が、思わぬところに及んでいる。イスラム国が勢力を伸ばしているシリアへの渡航を計画していた新潟市のフリーカメラマンの男性が、外務省からパスポート(旅券)の返納を命じられたのだ。

報道によると、男性は2月27日から、トルコを経由してシリアに入国する計画があることを新聞のインタビューなど表明していた。外務省は、警察庁とともに渡航の自粛を強く呼びかけていたが、男性が意思を変えなかったため、返納を命じた。

外務省は、旅券法19条1項4号を根拠にしている。そこでは、「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要がある」と認められる場合に、旅券の返納を命令できると定めている。ただ、同省が、生命や財産の保護を理由に、旅券の返納を命じることは初めてだという。

男性の自宅には2月7日の夜、外務省の職員が訪れ、旅券を回収した。渡航を差し止められた男性は「渡航と報道の自由はどうなるのか。突然のことで困惑している」と話している。この男性は「イスラム国」の支配地域に入るつもりはなかったと説明しているが、はたして「渡航差し止め」の必要はあったのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●憲法22条で保障された「海外渡航の自由」

「政府は、旅券返納の理由について、男性の安全確保をあげています。しかし、そうなると生命の保護という口実で、政府が一方的に旅券を返納させることが可能になってしまいます。大きな問題をはらんでいると言えるでしょう」

猪野弁護士はこのように切り出した。

「政府は、閣議で『イスラム国』が集団的自衛権行使の対象になりうるとの答弁書を決定しています。そのことが、シリアを含めた『イスラム国』の影響下にある地域における邦人の危険を招いたという評価も、あり得るところです。

そういった地域を含む国に行こうとする人がいた場合、今回のように旅券法を理由にすれば、出国自体を禁止できることになってしまいます。しかし、そうなると、紛争地域の実情を取材することは不可能になります。

そもそも、憲法22条1項によって『海外渡航の自由』が保障されています。これは、経済活動の自由の一つとして考えられていた時期もありましたが、現在で主流なのは『人は本来的に、行きたいところへ行く自由がある』という考えです。

憲法で定められた自由をむやみに制限することは許されません。政府が危険地域と判断しただけで、その国への渡航を禁止するのは、憲法の規定に真っ向から抵触します」

旅券法だけでなく、憲法の観点も大切なようだ。

「渡航を制約すれば、政府にとって都合の悪い情報をシャットアウトすることを認めることにもなりかねません。この男性のように取材のためであれば、なおさらです。憲法21条で保障された『報道の自由』に対する制約にもつながるので、非常に問題です。

名義人の安全を理由にしていますが、その実は、政府の都合によって海外渡航の自由を制限していると言わざるを得ません」

猪野弁護士はこのように締めくくった。

(弁護士ドットコムニュース)

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