2023年に神奈川県大磯町立小学校の校長(当時)がいじめの加害児童に対し、3週間の「校長室登校」を命じた問題で、町教育委員会は「不適切だった」と認めたと8月23日、東京新聞が報じた。
授業も給食もすべて校長室で過ごすという措置に対し、児童は「嫌だ」と訴え、保護者も「やめさせてほしい」と不服を申し立てたが、結果的に児童は不登校となり、復学することなく卒業した。校長はすでに依願退職している。
同報道によると、事前の町教委への相談はなかったという。一方で、SNS上では「なぜ不適切なのか分からない」「いじめが本当なら妥当な指導だ」といった声も相次いでいる。
校長権限で行われた今回の措置について、法的に問題があったのだろうか。学校問題に詳しい高島惇弁護士に見解を聞いた。
⚫︎「別室授業」=「不適切」ではない
まず公立学校の場合、いじめが生じて被害児童などが安心して教育を受けられない場合には 、出席停止措置や別室指導といった、安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講じることが可能です(いじめ防止対策推進法26条)。
そのため、いじめの程度や被害状況、とりわけ被害児童の登校状況にもよるものの、加害児童を校長室での別室授業にしたこと自体が直ちに不適切指導と評価されるものではありません。
別室指導が公立私立含めて毎年多数なされるのに対し、出席停止措置を講じるケースが非常に少なく、文部科学省が毎年公表している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、ここ5~6年は毎年1ケタの件数しか報告されていません。特に小学校の場合は1年で1件あるかどうかです。
これは、出席停止措置を講じる場合、保護者からの意見聴取や理由などを記載した文書交付といった事務手続きが必要で不便なため、より迅速かつ柔軟に対応できる自宅謹慎措置や別室指導が主に利用されているといった背景があります。
一連の措置はいずれも教育的指導として行われる関係で、学校教育法11条にて定める懲戒とは異なる性質を持ち、小中学生に対して禁止されている停学処分にも形式的には該当しません。
そのため、懲戒ではなく教育的観点からなされる措置であることから、校長の裁量はより広く設定されており、児童や保護者の意に反して講じたとしても、児童へ罰を与えるものではない関係で法律上特に問題もないという理解になります。
⚫︎「指導」か「懲戒」の境界線はあいまい
しかし、そもそも教育的指導か懲戒かの境界線は非常にあいまいで、学校がいくら教育的指導であると主張しても、実質は児童ヘの懲戒を目的としていると評価すべきケースは一定数存在します。
本件の場合も、3週間の校長室登校をもって直ちに違法と評価される関係ではないですので、その後対象児童が不登校になったからといって、当該不登校につき学校に法的責任が生じるかと言われると、難しいだろうと思います。
一方で、仮にこの間適切な授業を講じられず、校長室登校の終期も不明だったといった事情がある場合には、実質的には停学処分だったとして法律上問題視する余地はあるかもしれません。
⚫︎安易な批判は教育の質を下げかねない
いじめへの対応について昨今、世論の関心が非常に高まっていることもあり、学校も加害・被害双方の児童及び保護者から板挟みの立場になることが多く、非常に難しい判断を迫られていると感じています。
何か一義的な解決策があるわけではなく、結局はいじめの程度や再発のおそれなどを中心に、その都度バランスを図る形で対応するしかないものと思われます。
安易に学校現場の対応を批判することは教職員の離職や採用難を招き、かえって学校現場の質を低下させる展開にも繋がりかねません。
基本的には、深刻ないじめが生じる前に学校が介入するという姿勢が重要であり、今回の件を契機として学校現場が事なかれ主義の姿勢になるのは避けなければいけません。より多角的な観点から議論されるのが望ましいと考えます。