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「本当に人を殺したの?」刑務所の“衛生夫”が見た、死刑囚たちの日常と意外な姿
2025年05月25日 08時27分

日本では、死刑囚たちは弁護士や親族、教誨師などの一部の人間以外とは面会や手紙のやりとりを許されておらず、その獄中生活はベールに包まれている。そんな中、東京拘置所で「衛生夫」として服役し、死刑囚たちの身の回りの世話をしていた男性Xさんが取材に応じてくれた。

死刑囚たちは普段、どのように生活しているのか。きちんと罪と向き合っているのか。そして死刑執行の時をどう迎えているのか。死刑囚たちについて気になることを、ざっくばらんに聞いた。(ノンフィクションライター・片岡健)

日本では、死刑囚たちは弁護士や親族、教誨師などの一部の人間以外とは面会や手紙のやりとりを許されておらず、その獄中生活はベールに包まれている。そんな中、東京拘置所で「衛生夫」として服役し、死刑囚たちの身の回りの世話をしていた男性Xさんが取材に応じてくれた。

死刑囚たちは普段、どのように生活しているのか。きちんと罪と向き合っているのか。そして死刑執行の時をどう迎えているのか。死刑囚たちについて気になることを、ざっくばらんに聞いた。(ノンフィクションライター・片岡健)

●「死刑囚たちは一部屋おきに収容されていた」

──衛生夫は、裁判で懲役刑が確定した人のうち、学力や人間性を基準に選ばれるように聞きます。

Xさん:僕は裁判中から東京拘置所に収容されていたのですが、刑が確定した後、専門官に面接を受けた際、「ここ(東京拘置所)であなたの身の回りの世話をしてくれていた人たちがいたでしょう。その仕事をやってみませんか?」と勧められました。僕としても、東京以外の場所で服役するより、東京拘置所にいたほうが親族が面会に来やすいので、そうさせてもらいました。

選ばれる基準については、学力は関係ないと思います。一般常識などを調べるようなテストを受けましたが、僕が他の人たちよりテストの成績が良かったとは思えないからです。人間性については、一緒に衛生夫として働いていた人たちはみんな、普通に会話ができる人ではありました。「この人は(付き合うのが)大変だな」と思う人はいませんでした。

──「職場」はどんな感じでしたか。

Xさん:東京拘置所にはA、B、C、Dの4棟があるのですが、僕の職場はD棟の11階でした。フロアには、廊下の両側に30部屋くらいずつ、全部で60部屋くらいありますが、最初に連れて行かれた時、「自分が裁判中にいたフロアより人が少ないな」と思いました。一部屋おきにしか被収容者がいないからです。

その後、ここは「特殊フロア」で、被収容者の大半が死刑囚か、裁判で死刑判決を受けて控訴や上告をしている被告人だとわかりました。それ以外では、大企業の社長など検察特捜部に逮捕された人や、有名な半グレグループのメンバーが収容されていたこともあります。

東京拘置所では、他にもC棟の11階が同様の特殊フロアで、そちらは当時、袴田巌さんがいたそうです。松本智津夫(麻原彰晃)は病舎にいたと聞いています。

──衛生夫として、どんな仕事をしていたのですか。

Xさん:僕ら衛生夫は普段、下のほうの階にある部屋で過ごしていました。そして朝起きると、縦縞のパジャマみたいな服から緑色の作業着に着替え、刑務官に連れられてエレベーターで職場の11階に行っていました。

仕事は朝6時30分から夕方5時頃までありましたが、ずっと忙しいわけではなく、詰所みたいな所で他の衛生夫たちと一緒にダラっとしていられる暇な時間もありました。食後に運動の時間もあり、しようと思えばキャッチボールやバレーボールもできましたし、筋トレをしている人もいました。

仕事内容は被収容者たちへの配食やフロアの掃除などのほか、被収容者が購入した本や食べ物、差入れ品などを所定の場所に取りに行き、本人の部屋に入れてあげるなど色んな仕事がありました。土日祝日も仕事はありましたが、他の衛生夫たちとロ-テーションで週に1日か2日は休日がありました。

●「死刑囚1人1人に決まりごと」、自殺予防の工夫も

──仕事で苦労したことはありましたか。

Xさん:死刑囚1人1人に“決まりごと”があったことです。

たとえば、配食については、「この死刑囚はこのおかずが嫌いだから、入れてはダメ」とか、「この死刑囚の味噌汁の量は、お椀の3分の1」などと1人1人、決まっているのです。間違って嫌いなおかずを入れると怒られますし、逆に「おかずの盛りが少ない」と怒られることもありました。怒ったら壁を蹴る死刑囚もいました。

自殺予防のためだと思いますが、ご飯を食べる時以外は箸を部屋に置かせてはいけない死刑囚や、歯を磨く時以外は歯ブラシを持たせてはいけない死刑囚もいました。そういう1人1人の決まりごとを覚えるだけでも大変でした。

──拘置所側が死刑囚たちに気を使っているような印象を受けます。

Xさん:刑務官たちは死刑囚たちにニコニコしながら話しかけたりするなど、確かにめちゃくちゃ気を使っていました。僕らも刑務官から、「この人たち(=死刑囚たち)の言うことは、ある程度、その通りにしてあげてくれ」と言われていました。

●「潔癖症の死刑囚もいれば、部屋が壮絶に汚い死刑囚も…」

──死刑囚たちはやはり性格的に難しいのでしょうか。

Xさん:中には、「本当に人を殺したの?」「こんなにいい人なのに…」と思うような死刑囚もいました。その死刑囚は朝、配食する際もこちらを見て、「おはようございます」「ありがとうございます」と言ってくれました。ただ、全体的にはやはりクセのある死刑囚が多かったです。

──クセのある死刑囚というと、たとえば?

Xさん:たとえば、潔癖症の死刑囚です。死刑囚たちには、1年に1、2回、全員をシャッフルするように別の部屋に移ってもらうのですが、潔癖症の死刑囚はこの際、移った部屋にチリ一つ落ちているだけでも怒るのです。

一方で、部屋が壮絶に汚い死刑囚もいました。部屋に備えられたトイレの便器の中で、オシッコの跡が何層にもなってついていたり、固くなったウンコがこびりついていたりするのです。そういう死刑囚の部屋は畳も全部張り替えないといけない状態で、掃除が本当に大変でした。

──死刑囚たちはやはり精神状態が良くないのでしょうか。

Xさん:死刑囚には、ずっと立ちっぱなしで、会話もできない人や、色々な薬を飲んでいて、いつもボーとしている人がいました。ある死刑囚は、食事を配るたび、ご飯もおかずも器ごとひっくり返し、ずっとそのままにしていました。先ほど話した部屋が壮絶に汚いのも、そういう死刑囚たちです。

いわゆるメンヘラ気質で、頻繁に報知器を押し、刑務官を呼び出す死刑囚もいました。そういう死刑囚は刑務官と延々と話をしていることもありました。刑務官と話しながら自分の死刑執行が迫っていないか、様子を探っているような印象でした。

●「死刑囚はエロ本よりも文字の多い本を読んでいた」

──死刑囚たちは犯した罪と向き合っているようでしたか。

Xさん:長時間、座禅を組み、祈っている死刑囚がいました。オウム真理教の死刑囚たちもそうでした。教誨を受けている死刑囚たちについては、懴悔のためか、普段は人と話せないから教誨師と話したいだけか、どちらかはわかりませんでした。

──死刑囚たちは人と話すこと以外に楽しみは無いのでしょうか。

Xさん:死刑囚たちはテレビを観られませんが、月に何回か、映画やドキュメンタリー、アニメなどのビデオを観ることができました。その際も僕ら衛生夫が死刑囚たちに作品リストから観たい作品を選んでもらい、ビデオ鑑賞に必要な機器を死刑囚の部屋に運び込んでセッティングしていました。

読書については、死刑囚たちは官本を借りられるほか、自分で本を購入することもできました。エロ本も購入できますが、エロ本を読んでいる死刑囚はあまりいなくて、小説など文字が多い本を読んでいる死刑囚が多かったです。

●「死刑執行後、刑務官が死刑囚の遺品を片付けながら泣いていた」

画像タイトル 東京拘置所で、死刑執行の際に刑務官たちが押すボタン(法務省提供)

──死刑囚と会話をすることはありましたか。

Xさん:僕らはそもそも仕事中、私語ができなかったので、死刑囚とも仕事上、必要最低限の言葉を交わすだけでした。ただ、長く衛生夫をしていると、かわいがってくれる死刑囚もいました。僕の出所が近くなった時期、ある死刑囚から電話番号を書いた紙を渡され、「ここは俺がやっている会社だから、出所したらここで働けよ」と言われたことがありました。

──衛生夫をしていた間、死刑執行はありましたか。

Xさん:3人が執行されました。最初の執行の際は朝食後、刑務官に「モップを持って、そこにいて」と言われ、非常口のようなところからフロアの外に出されたのですが、掃除をする必要がないような場所だったので、死刑の執行があることが察せられました。しばらくしてフロアに戻ると、部屋からいなくなっている死刑囚が1人いて、「この人だったんだ」とわかりました。

──死刑執行があった時の刑務官の様子で、何か覚えていることはありますか。

死刑を執行された死刑囚の部屋で遺品を段ボールに入れ、整理していたら、一緒に作業をしていた刑務官が涙を流していたことがありました。その刑務官は普段からめちゃくちゃ人情味がある人でしたが、「刑務官も泣くんだな」と思いました。

●「死刑を廃止したほうがいいという思いには一切ならなかったが…」

──衛生夫を経験し、死刑に関する考えが何か変わりましたか。

Xさん:死刑を廃止したほうがいいという思いには一切なりませんでした。死刑囚たちはそれ相応のことをして、そういう立場になったわけですから。

ただ、自分の生き方が変わったというのはあります。というのも、死刑囚たちはあの場所からもう一生、抜け出せません。「あちら側には絶対に行きたくない」と思い、自分は真っ当に生きて行こうという考えになりました。

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