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「人は互いに迷惑をかけあうもの」 慶大特任准教授・若新雄純さんに聞く「ウィズコロナ」の"許す"コミュニケーション論
2020年08月18日 09時53分

テレワークやオンライン授業をはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大は、コミュニケーションに変化をもたらしつつある。「ウィズコロナ」とも表現されるこれからの時代を、人は他者とどう関わっていくべきなのか。慶應義塾大学特任准教授などをつとめる若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)さんに聞いた。

若新さんは著書『創造的脱力 かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論』(光文社新書)などで、人と人とが約束事や契約に縛られすぎないことで創造性を高める「ゆるい関係」を推奨している。(ライター・土井大輔)

テレワークやオンライン授業をはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大は、コミュニケーションに変化をもたらしつつある。「ウィズコロナ」とも表現されるこれからの時代を、人は他者とどう関わっていくべきなのか。慶應義塾大学特任准教授などをつとめる若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)さんに聞いた。

若新さんは著書『創造的脱力 かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論』(光文社新書)などで、人と人とが約束事や契約に縛られすぎないことで創造性を高める「ゆるい関係」を推奨している。(ライター・土井大輔)

●裁くことと許すこととは、セットであるべき

――仕事や生活においてオンラインでのやりとりが増える中、コミュニケーションの方法は、どう変わっていくのでしょうか?

僕は、オンラインであるかどうかという形式はあまり重要だと思わないんです。僕が関心あるのは、「許されないコミュニケーション」がこれ以上、当たり前にならないといいなということ。

――「許されないコミュニケーション」とは、どういうものですか?

新型コロナの騒動では、いわゆる「自粛警察」が問題になりましたよね。(外出を自粛すべきだと他人を攻撃する)自粛警察みたいな人たちの「空回りした正義」は、何が問題かというと、たとえば国が運用している裁きのルールというのは、過ちを犯した人が反論できる機会を設けているし、ちゃんと「許し」があるじゃないですか。執行猶予があったり、決められた刑を終えたら、元通りとはいかないまでも、やり直すチャンスが与えられるし、人権もある程度は保障されています。

ところが、オンラインで横行しているコミュニケーションでは「問題がある」と指摘した人について検証して、捜査して、真偽を見極めてということをしない。仮に、過ちを犯していたとしても、その人がちゃんと復帰するところまで見越したうえで、ものごとが語られないんです。

それに素人には捜査の能力があるかどうかわからないから、冤罪を生みかねません。もうひとつは、その人の社会復帰まで考えているかっていうことが問題となります。裁くことと許すことは、セットであるべきだと僕は思っているので。

――それらの問題を解決するには、どうすべきなのでしょうか?

僕は、「人は間違うものだ」という前提で、すべての人間は関わるべきだと思っています。「人は正しいものだ、間違わない」という前提の関係性や場が増えすぎているのかな、と。

たとえば、ご近所トラブルです。ご近所づきあいって、お互い迷惑をかけあう前提のものだと思うんです。僕はバンド少年だったんですが、田舎の実家の防音設備も何もない部屋でドラムを叩いていました。昔、ニコニコ動画で話題になったりもしました。

田舎だから、隣の家とは離れているんですけど、ドラムの音はけっこう聞こえていたはずなんです。それでも苦情はなかったです。たぶん、古くからの付き合いの中で仕方なく許してくれていた。ご近所さんも、人間と人間が一定の距離で暮らしていたら、迷惑をかけあうのは当たり前だと思ってくれていたんですね。

どうしても許せない、それはやりすぎでしょってことが起きたら、国家権力が介入して仲裁する必要があるんでしょうけど。

――「仕方がない」と、ある程度までは許容するということですね。

僕が今、東京で暮らしているマンションでは、隣の部屋の人を知らないわけです。知らないことがどうとかではなくて、それぞれ契約した部屋に住んでいるわけだから、隣の人の人生に迷惑をかけちゃいけないというか、干渉があってはいけない雰囲気がある。だけど壁一枚隔てているだけだから、干渉する可能性は絶対にあるじゃないですか、それこそ「音がうるさい」とか。

大事なのは、うるさくないようにしよう、迷惑をかけないように生きようということではなくて、迷惑をかけてしまったとき、お互いにどう謝って、どう許すかということ。人って衝突するし、すれ違うし、お互いに悪気がなくても迷惑をかけるもの。だけど、最近のコミュニケーションのほとんどは、他人を傷つけないことが前提になっていますよね。

若新雄純さん 慶應義塾大学特任准教授などをつとめる若新雄純さん(2020年8月/弁護士ドットコム撮影)

●コミュニケーションにストレスがあるのは当たり前

――若い人は特に「間違えたくない」「ミスをしたくない」という意識が強いと聞きます。関係があるのかも知れませんね。

たとえば「電話をかける」というコミュニケーションにも、最近では賛否両論があって。電話は相手の時間を奪うから、かけるべきじゃないと。僕は一緒に仕事をする人とか、大事な人には電話をするタイプなんですけど、相手の時間を奪うことだとわかっているんです。誰かの時間を奪って、迷惑をかけてでも何かをするというのが人間生活だと思っている。

相手の時間を奪うからかけないという考え方が進んでいったら、これからの新入社員、若い人たちは、緊急の用件があっても、上司の手を止める電話はよくない、メールしておこうってなる。大事なことを伝えるために時間を奪うのは仕方のないことじゃないですか。だけど、時間を奪うことが怖くなって、そういうことをしなくなる可能性もあります。

――コミュニケーションがオンライン化したことの影響といえそうです。

オンライン化によって、余計なストレスを減らすのはいいと思うんですよ。なくてもよかったストレスは減らせばいい。だけど、ストレスがないことが正しいんじゃなくて、ストレスがあるのが当たり前。互いにストレスをかけあうことになったとしても、それを大問題にしていたら、人間は生きていけないんじゃないかな。少なくとも、もっと窮屈な関係になるだろうなと思いますね。

●オンライン化を「合理化」と呼ばないほうがいい

――みんなで「人は互いに迷惑をかけあう」という前提を共有する必要がありますね。

そうですね。摩擦は起きちゃうから、起きたときに謝るとか。起こすことが悪いんじゃなくて、起こしたあと、謝れないことが悪いのであって。アメリカとかだと、些細なことでもすぐ訴訟になったりするじゃないですか。日本でもそうなったら、弁護士は儲かるのかもしれないですけど、疲れますよね。

男女の恋愛とか結婚もそういう話になりがちですし、たとえば大学の入学式で知り合った友達の発言なんかもお互いに記録するようになって、「僕は初対面の人に突然あんなことを言われて傷つきました」って、いちいち訴訟される社会になったら、たるくて人と関わりたくはなくなりますよ。

昔は、集団の中で乱暴なことを言うヤツとか、ウザいヤツもいて、でもそのことを含めて「見直した」とか、「思ったよりいいヤツだな」っていうコミュニケーションをちょっとずつ積み上げて関係を作っていたと思うんです。僕は別に泥くさい関係が好きなわけではないんですけど、人間ってそういうものなんじゃないのかなって。そのことを忘れてしまうと生きづらくなるなと思っています。

――そうしたコミュニケーションの「余白」を知ることは、仕事や生活のオンライン化が進むことで、難しくなっていくのではないでしょうか?

ですから、オンライン化を「合理化」って言わないほうがいいんじゃないでしょうか。オンライン化を「合理化」だと思っているから、オンライン会議で余計なことを話さなくなった。

これまでだったら、雑談があった会議もあるじゃないですか。なんで雑談できたかっていうと、リアルで会うときには、みんな少なくとも1時間単位でスケジュールを入れるから。でもオンライン会議では、30分で終わらせようと思えば終わらせられることがわかって、30分単位で予定を入れる。資料が簡単に共有できて、印刷したものはいらないし、お茶を出す必要もない。たしかに30分で済むのかも知れないけれど、みんな合理化していると思いすぎている気がします。オンラインのおかげで会議の回数も増えたし、決裁できる案件の数も増えた、みたいな。

一方で、人間はテクノロジーの進化にそんな簡単についていけないんだと思います。30分で会議が終わるテクノロジーと環境は整ったけど、人間ははたして毎回30分だけのコミュニケーションですべてを気持ちよく次にいけているかというと、不完全燃焼なところとか、言いたかったことが伝わらなかったとか、一方的で終わったなとか。そういうふうになっている気がするんです。

「人間のぬくもりを!」とか言いたいのではなくて、本当の意味での合理性っていうのは、一見、目的がないようなやりとりの中に、相手を信頼できて、この人にだったらもう少し話してもいいなとか、言いづらかったことも相談できるとか、そうやって、ものごとが進んだり、かたちになっていくことだと、僕は思います。

【プロフィール】若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
福井県若狭町出身。慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。現在、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。株式会社NEWYOUTH代表取締役。専門は「創造するコミュニケーション」。全員ニートで取締役の「NEET株式会社」や、女子高生がまちづくりを担う「鯖江市役所JK課」など、実験的なプロジェクトを多数企画している。

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