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一流ホテルの「メニュー虚偽表示」 わざと偽装していたら「詐欺罪」になる?
2013年12月04日 12時10分

この秋、大きな波紋を呼んだ「メニューの虚偽表示」問題。全国各地の有名ホテルが運営する高級レストランで、メニューの食材の虚偽表示がおこなわれていたことが、あいついで発覚した。その後、食材の虚偽表示は百貨店にも飛び火し、多くの企業の社長が記者会見で謝罪する事態に追い込まれた。

きっかけは、六甲山ホテルや宝塚ホテルなどを経営する阪急阪神ホテルズが、トビウオの魚卵を「レッドキャビア」(マスの魚卵)と表示するなどの「メニューの誤表示」があったと、10月下旬に発表したことだ。ただ、同社の出崎弘社長は客の信頼を裏切ったことについて謝罪しつつも、「故意に欺く意図はなかった」と述べ、意図的な偽装ではなかったと強調した。

他のホテルや百貨店も同様に「偽装ではなく誤表示だった」と主張している。だが、これだけ多くのホテルのレストランで起きているメニューの虚偽表示のすべてが、チェックの甘さや知識の不足による「ミス」だったとは考えにくい。なかには、客を欺いていることを認識していながら、わざとメニューを「偽装」していたケースもあるのではないか。

もしそうだとしたら、客をだまして代金を受け取っていたのだから、詐欺罪になるのではないだろうか。元東京地検特捜部検事で刑事事件にくわしい岡田功弁護士に聞いた。

この秋、大きな波紋を呼んだ「メニューの虚偽表示」問題。全国各地の有名ホテルが運営する高級レストランで、メニューの食材の虚偽表示がおこなわれていたことが、あいついで発覚した。その後、食材の虚偽表示は百貨店にも飛び火し、多くの企業の社長が記者会見で謝罪する事態に追い込まれた。

きっかけは、六甲山ホテルや宝塚ホテルなどを経営する阪急阪神ホテルズが、トビウオの魚卵を「レッドキャビア」(マスの魚卵)と表示するなどの「メニューの誤表示」があったと、10月下旬に発表したことだ。ただ、同社の出崎弘社長は客の信頼を裏切ったことについて謝罪しつつも、「故意に欺く意図はなかった」と述べ、意図的な偽装ではなかったと強調した。

他のホテルや百貨店も同様に「偽装ではなく誤表示だった」と主張している。だが、これだけ多くのホテルのレストランで起きているメニューの虚偽表示のすべてが、チェックの甘さや知識の不足による「ミス」だったとは考えにくい。なかには、客を欺いていることを認識していながら、わざとメニューを「偽装」していたケースもあるのではないか。

もしそうだとしたら、客をだまして代金を受け取っていたのだから、詐欺罪になるのではないだろうか。元東京地検特捜部検事で刑事事件にくわしい岡田功弁護士に聞いた。

●ウソをつけば常に「詐欺罪」になるわけではない

「近ごろ報道されているような事例は、景品表示防止法でいう『不当表示』にあたるとは言えるでしょう。しかし、『詐欺罪にあたるか?』と質問されれば、『詐欺罪にあたる場合もあれば、あたらない場合もある』という答えになってしまいます」

岡田弁護士は、このように話す。なぜなのだろうか。くわしく説明してもらおう。

「詐欺罪は、被害者の側から見た場合、『相手に言われたウソが本当だと信じたからこそ、お金を渡したのだ。もし、ウソだと分かっていれば、お金を渡さなかった』という場合に成立する犯罪です。

たとえばAさんが、1週間後に全額を返済する条件で、Bさんから10万円を借りたとします。もし、Aさんが10万円をそのまま踏み倒すつもりで借りたなら、これは明らかに詐欺罪にあたります。Aさんの本心を、Bさんが知っていれば、10万円を貸すことはないからです」

これは、「寸借詐欺」という典型的な詐欺らしい。

「では、Cさんが借金をする際、『母親が病気で入院費がかかる』とウソをつき、Dさんの同情を引いてお金を借りていたらどうでしょう。ただし、Cさんはお金はきちんと期日に返すつもりで、返すあてもあったとします。この場合は詐欺罪にあたるのでしょうか?」

どうなるのだろうか。「ウソを付いて、お金を受け取った」という点だけを取り出せば、AさんもCさんも同じだが……。

「通常、お金を貸す側の判断で、一番重要なのは、お金をきちんと返してもらえるかどうかでしょう。Aさんのウソは返済に関するウソですが、Cさんのウソは返済には直接関係しません。

誤解を恐れずにいいますと、商売や取引をするにあたって、多少のウソは社会通念上許容される場合があります。もし、少しのウソでも詐欺罪とされるのであれば、一般社会は詐欺の犯人だらけになってしまうかもしれません。

それゆえ、刑事実務では、被害者がお金を渡す際の意思決定に、ウソがどれぐらい重大な影響を与えたかという観点から、詐欺罪として処罰すべきかどうかを個別具体的に判断しています」

つまり、Cさんのついたようなウソが処罰の対象になるかどうかは一概には言えず、ケースバイケースで判断されるということだ。

●注文するかどうかの「決定打」は何だったのか?

それでは、ここまでの説明を踏まえて、食材偽装が行われた場合について話を聞こう。

「たとえば、食堂で親子丼を注文したとします。食堂のメニューには、『滋養卵使用の親子丼』と書かれていましたが、それはウソで、実際には1個10円の普通の卵が使われていました。この場合、詐欺罪にあたるのでしょうか?

もし、注文した人にとって『滋養卵であること』が極めて重大で、それ以外の卵であれば親子丼を注文しなかったといえるような場合には、詐欺罪が認められやすくなります。

ただし現実には、そのことを証明するのは簡単ではありません。お客さんの中には、卵の種類に関心がない人もいるはずだからです」

逆に言えば、卵の差が「決定的」だといえるなら、詐欺だといえるのだろうか。

「たとえば、もしメニューに『滋養卵使用の親子丼なら1000円』『普通の卵の親子丼なら500円』と明記されていたなら、話は違ってきます。

もしこれがウソで、1000円の親子丼に普通の卵が使われていた場合なら、詐欺と認定される可能性は高くなります」

たしかに、メニューにこう書かれていれば、卵の差が値段の差なのは明らかだ。普通の卵でいい人が、わざわざ高いほうを注文するわけがない。ただ、こんな風に明記されている例は、決して多くはなさそうだ。

●レストランの客は「食材だけ」にお金を払っているわけではない

岡田弁護士は続けて、次のようにも指摘する。

「さらにいえば、ニュースになっているような一流ホテルのレストランに来るお客さんは、食材だけにお金を払うのではなく、料理人の腕、レストランの雰囲気やスタッフの対応など、諸要素を含めた総合的なサービスにお金を支払っていると考えられます」

ということは、ひとつひとつの食材が与える影響は……?

「そんな中、ある一つの食材が実際とは異なっていたとしても、それがどこまでお客さんの判断に影響を与えたか、はっきりとはわかりません。こうした点も考慮すると、報道されているようなケースが、詐欺罪として立件される可能性は低いのではないかと思われます」

岡田弁護士はこのように結論づけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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