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ボクサーと税理士「両方が本業、自分のオリジナルな道」KOデビューした柏野晃平さん
2014年11月20日 10時41分

東大卒の公認会計士・税理士で、しかもボクサー。そんな異色の経歴を持つ柏野晃平さん(川崎新田ボクシングジム)が9月、プロデビュー戦で2ラウンドKO勝利を飾った。税理士とボクシングの両立というハードな道をなぜ選んだのか。柏野さんは「僕ならではのオリジナルな道を歩みたい」と日々トレーニングに汗を流している。(取材・構成/具志堅浩二)

柏野さんの動画はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=sSKnz5S4Id8

東大卒の公認会計士・税理士で、しかもボクサー。そんな異色の経歴を持つ柏野晃平さん(川崎新田ボクシングジム)が9月、プロデビュー戦で2ラウンドKO勝利を飾った。税理士とボクシングの両立というハードな道をなぜ選んだのか。柏野さんは「僕ならではのオリジナルな道を歩みたい」と日々トレーニングに汗を流している。(取材・構成/具志堅浩二)

柏野さんの動画はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=sSKnz5S4Id8

●文武両道のほうが、良いパフォーマンスを発揮できる

「高校時代から、ボクシングには興味を抱いていました。ストイックに頑張り、相手だけではなく自分との戦いに勝つ、という強さに憧れました」

高校時代、剣道部だった柏野さんは限界を感じていた。剣道は体重別に分かれておらず、体格の違う者でも試合を行う。当時、柏野さんの身長は163cm、体重は56kg前後。自分よりも大柄な選手との試合では、しばしば劣勢に立たされてしまう。憧れとともに、剣道のそうした無差別なところも、体重で階級が細かく分かれるボクシングに柏野さんを向わせる要因の1つだった。

東大に進学して入部したボクシング部は、部員の自主性が重んじられていた。勝つために必要なことを自分なりに考え、実行する中で、柏野さんは実力を伸ばしていく。在学中に公認会計士の試験に合格した後、学生最後の年にアマチュア全日本ランキングでライトフライ級6位にランクイン。千葉国体にも東京代表として出場した。

当時通っていた川崎新田ボクシングジムの新田渉世会長からは、プロ転向を誘われた。「その時は就職も決まっていたし、アマで結果が残せればそれで良かった」と首を縦には振らず、卒業を機にボクシングから引退した。

未練はまったくなく、むしろ「減量がキツかったし、もうやりたくはなかった」。たまに部活に顔を出す程度で、仕事に専念した。

●転職でよみがえったボクシングへの思い

「資格を取ったのは、独立開業したかったからなんです。会社員の父は仕事が忙しく、家にあまりいませんでした。その姿を見てきたのもあって、会社員になるのは抵抗感がありました。自営業なら、仕事と私生活のバランスを取りやすいし、転勤もありません」

就職先は、あずさ監査法人。公認会計士として登録されるには、試験に合格した後、2年以上の実務経験が必要となる。「2年後、この仕事が好きで自分に向いていたら続ければいいし、そうでなければ別の道に進もうと考えていました」。そして、2年後の2013年、柏野さんは「別の道」を模索するため転職活動をはじめる。

ボクシングへの思いも復活していた。「仕事中心の日々に物足りなさもあったが、ボクサーとしてのアイデンティティーもまだ残っていて、いろんなところで、『ボクシングをやってたんだね』と言われるうちに、またやりたい、という気持ちがたまってきた」。今ならもっと上に行けるのではないか、という欲が生じていた。

転職を検討する中で、現在所属する税理士法人TAXGYMから「うちに来れば、ボクシングとの両立が可能」と誘われる。他の就職先候補と天秤にかけた末、「こちらを選んだほうが、オリジナルな道を歩めて面白い」と考え、TAXGYMへの転職を決めた。

勉強とスポーツを両立する「文武両道」を貫いた学生時代のほうが、両方とも良いパフォーマンスを発揮できた、という思いもあった。こうして「ボクサー税理士」は誕生した。

●プロデビュー戦は2ラウンドKO勝利

「両立」と文字で書くのはたやすいが、実際にはそうではない。朝6時に起床してトレーニング。9時~10時に出社し、18時~19時まで働く。ジムには19時~20時に到着してトレーニングを開始。22時30分にジムを出て帰宅し、24時に就寝する。家にいる時間の大半は睡眠時間だ。

クライアントの決算書作成や税務調査の準備・立ち会いなど、税理士としての仕事を就業時間内を終えるためには、密度の濃さが求められ、ハードなものになる。それでも収まらないときがある。たとえば8月には、盆休みを返上して仕事をしなければならなかった。

「二足のわらじを履く日々の中で、葛藤を抱えているのではないか」と、ジムの孫創基チーフトレーナーは案ずる。

一方、ジムに復帰してから、柏野さんのボクサーとしての身体は少しずつ蘇りはじめた。「どんどん身体が動くようになっていくのが感じられて、楽しかった」。7月末に行われたプロテストにも合格した。

階級は、体重105ポンド超~108ポンド(47.62kg超~48.97kg)の選手が戦うライトフライ級。「タイプはボクサーファイター。自分の距離で戦って、相手の動きに合わせてカウンターを狙います」。

デビュー戦は9月17日、後楽園ホール。相手は、ペットサーイファー・ルークメーラムプーイジム選手(タイ)だった。「試合前は緊張しました」と苦笑するが、リングに上がった後は開き直ることができた。結果は、2ラウンド1分47秒のKO勝利。「軽量級では群を抜く威力」と孫トレーナーが評する左ストレートで試合を終わらせた。

次の試合は1月の予定で、相手は現在探している最中。当面の目標は、日本チャンピオンになることだ。所属ジムでは、柏野さんのパンチ力をより生かせるよう、ミニマム級に階級を下げることも検討されているという。

年末には、結婚も控えている。ボクサーとして戦うことについて結婚相手は強く心配しているが、必死に説得し、何とか理解を得た。

「税理士とボクシング、どちらが本業?」と尋ねると、「両方が本業。それが僕の生き方」という答えが返ってきた。仕事だけでなく、ボクシングだけでもない。柏野さんは、バランス良く両立することで、どちらも最良の結果が得られると信じている。

(弁護士ドットコムニュース)

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