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殺人容疑「19歳女子大生」の実名・写真を載せた「週刊新潮」――違法でないのか?
2015年02月06日 11時13分

名古屋市に住む77歳の女性を殺害したとして、19歳の女子大学生が1月下旬、殺人容疑で逮捕された。この事件は、女子学生が「人を殺してみたかった」と供述していると伝えられたこともあり、各メディアが大きく報じている。そんななか、「週刊新潮」(新潮社)は2月5日発売の最新号で、この女子学生の実名と顔写真を掲載した。

その記事の冒頭には、こう記されている。「少年法は未成年者の犯罪につき、保護矯正の観点から身元の特定される報道を禁じている。が、その一方、2000年2月には大阪高裁で、社会の正当な関心事であり凶悪重大な事案であれば実名報道が認められる場合がある――との判断が下され、『違法性なし』の判決が確定している。今回もまた、この『法律』の理念の空しさを浮き彫りにしたケースと言えよう」

少年法61条は、少年事件の実名報道を禁じている。それにもかかわらず、事件の性質によっては「違法性なし」とされる場合があるのだろうか。今回の実名報道をどう見るか、裁判官の経験もある田沢剛弁護士に解説してもらった。

名古屋市に住む77歳の女性を殺害したとして、19歳の女子大学生が1月下旬、殺人容疑で逮捕された。この事件は、女子学生が「人を殺してみたかった」と供述していると伝えられたこともあり、各メディアが大きく報じている。そんななか、「週刊新潮」(新潮社)は2月5日発売の最新号で、この女子学生の実名と顔写真を掲載した。

その記事の冒頭には、こう記されている。「少年法は未成年者の犯罪につき、保護矯正の観点から身元の特定される報道を禁じている。が、その一方、2000年2月には大阪高裁で、社会の正当な関心事であり凶悪重大な事案であれば実名報道が認められる場合がある――との判断が下され、『違法性なし』の判決が確定している。今回もまた、この『法律』の理念の空しさを浮き彫りにしたケースと言えよう」

少年法61条は、少年事件の実名報道を禁じている。それにもかかわらず、事件の性質によっては「違法性なし」とされる場合があるのだろうか。今回の実名報道をどう見るか、裁判官の経験もある田沢剛弁護士に解説してもらった。

●少年法61条はなぜ定められたのか?

「少年事件で逮捕された未成年者の実名や見た目などを報道することは、少年法で禁止されています。具体的には、少年法61条は、次のように定めています。

『家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない』

実名や写真だけでなく、その情報から、本人を推定できるような『推知報道』も禁止しています」

日本のメディアの場合、成年であれば、被疑者の段階でも実名や容ぼうが報道されている。なぜ、少年については、そのような報道が禁止されているのだろう。

「少年は成長途上の存在であり、仮に罪を犯したとしても、社会の責任として健全な育成を援助する必要があります。

実名報道は少年のプライバシー等を侵害するもので、その健全育成を阻害しかねません。そのため、そうした報道を規制する必要があるとの趣旨から、この規定が設けられました」

田沢弁護士はこのように述べる。実際に少年法61条の文言を見てみると、気になる点がある。実名報道が禁止される対象として、「家庭裁判所の審判に付された少年」または「少年のとき犯した罪により公訴を提起された者」と書いてあるのだ。これは逆にいうと、家裁の審判に付される「前」や、起訴される「前」であれば、報道してもよいということだろうか。

「そのような解釈を認めれば、少年法61条はほとんど意味がない規定になってしまいます。やはり、家裁の審判の前でも、起訴前でも、実名報道は禁止されていると考えるべきでしょう」

●「保護される権利・利益」よりも「社会的利益」が大きいのか?

週刊新潮は今回の記事の冒頭で、少年の実名を掲載しても「違法性がない」との判断が下された過去の判決を挙げている。これまでの裁判では、どう争われたのだろうか。

「少年の実名報道について、出版社側に不法行為責任が生じるのかが争われた裁判では、基本的には、『保護されるべき少年の権利・利益よりも社会的利益が上回る事情があるのかどうか』という観点から判断されています。

たしかに、実名報道に『違法性がない』ことの根拠として、週刊新潮が挙げている2000年2月29日の大阪高裁判決は、出版社の実名報道を違法とした一審判決を取り消し、『違法ではない』との判断を下しました」

この裁判は、1998年1月に堺市で起こった通り魔事件で、有罪判決を受けた当時19歳の男性が、実名報道をした出版社を訴えたものだ。

「ただ、この判決については、最高裁に上告されたものの、その後、上告が取り下げられています。したがって、最高裁の判断がなされたわけではありません。

ほかには、推知報道が問題となった長良川リンチ殺人事件の最高裁判決(2003年3月14日)があります。この判決では、不法行為の成否は、推知報道によって侵害される利益ごとに(名誉なのか、プライバシーなのか、少年の成長発達過程において健全に成長するための権利なのかに応じて)、個別具体的に判断すべき、としています」

そうすると、実名報道について裁判所の判断は、個別具体的な事案によって異なってくるということになりそうだ。

田沢弁護士は、「少年が犯したものであっても、重大な犯罪であれば、当然に社会の関心事ではあることは否定しません。しかし、だからといって、その少年の実名や容ぼうそのものまで明らかにすべき『社会的利益』があるのかどうかは、個人的には正直、疑問に思います」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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